届かなかった手紙
*設定が違います。 こちらの続き。
サエナが死ななかったことが前提。また、1923年11月8日にハイデリヒが死ななかったことが前提その2。
好きか嫌いか、と問われたら…、「どちらでも」と濁すかもしれない。 「嫌い」と言う程でもない、別に嫌う理由もないし、…かと言って「好き」と言う程付き合ってもいない。 だから、「どちらでも」と言うのが当てはまる、と思う。 ―――…いや、もしかしたら…「苦手な部類」には…入るかもしれない、が? あれから1年程度。 エドワードたちの旅は終わりを見せることもなく続いていて、彼らから時々来る手紙はアルフォンスとサエナの楽しみだった。 いろいろな地域の消印を見る度に、アルフォンスは地図を広げてサエナに場所を教えてやったり、逆に教えられたりしている。 …さて、今回来た手紙は、消印も切手も遠い物ではなかった。 そう、内容も「近々寄るかもしれない」と言うもので。それを聞いたサエナは、にっこにこしながら買い物に行ってしまった。保存が利く食料を買いに行ったのだ。 アルフォンスはこの買い物にはもちろん誘われたのだが、どうしてもとある企業に提出しなければならないレポートがあって断った。 「……。こんなことだったら付いていけば良かったな」 アルフォンスはため息をついて、晴れている空を見上げる。 先程から、なんとなく面白くない。 手紙は何枚かで構成されていた。文字で分かる、エドワードの文字と弟のアルフォンス・エルリックの文字。 英語が読めないサエナに読んでやったのは…実は「一部を除いて」だった。 「……はぁ、…苦手なんだよ、ね」 「エドとアルくん、いつ来るかな〜!?」 夕食の時、カレンダーを見上げながら言う。 「いつだろうね…「近々」としかなかったし」 「消印の所からどのくらいかねえ〜」 「…来るかも分からないけど」 「………。何、アル。…エドに会いたくないの?」 「そうじゃないよ。「かもしれない」だったからね。……ああ、ごめん」 「よくわかんないのに謝んないでよ」 「っ…と」 しまった、と言う顔を一瞬する。全部手紙を訳してないことが頭の片隅に残っているのか。 「なんでもないよ、サエナ。……――あ、資料やってくるよ」 「うん!ね、部外者も見ていいヤツ?だったら後で見せて〜」 「ああ、今まで作ったヤツのだから。いいよ。…後でおいで」 立ち上がり、食器を流し台に置く。まだ座っているサエナの頭に手を置いて、撫でながら、リビングを後にするアルフォンス。 「…何がごめん、なんだろ…?」 アルフォンスの部屋。 机上は彼らしく整頓されているが、使う資料だけは目の前にどっさりと山積みになっている。 その真ん中で彼は終わりかけの資料に向っている――――筈だったのだが。 「…中身はぼくと同じ歳なんだろ…?外見はいくつか下でも…」 くしゃ、と前髪を掴んで、ううう〜と机に突っ伏す。 ふと、目を上げると写真立てがある。三人で撮った物と、エドワードたちがミュンヘンを出る日、みんなで撮った物。 その時のアルはまだエドワードよりも小さく、やんちゃ坊主のような表情だが、アルフォンスは昔の自分の顔が並んでいるような気分になる。 いつも写真を撮る時は、大体アルフォンスに寄り添ってくるサエナだが、この写真だけはアルがサエナに懐いている構図になっている。身の丈も低いので頭を撫でるように置かれたサエナの手。 「…お母さんに甘える歳でもない、サエナはお母さんじゃないし!」 そんなこんなで(終わり間際なのに)全く資料に手が付かないアルフォンスは、どっかりと椅子に座り直して、冷めたコーヒーを一気飲みする。 「…ってことは…。彼の中のサエナって…?」 「…そんな冷めたの飲まなくてもいいのに。何してんの」 「ぶっ!??……ごほっ!」 背後からの声にアルフォンスは思わずむせて、ついでに病の方の咳も出てきてしまうが、背中を撫でてくれる手に少し落ち着いてきた。 「……。いいよ。…で、どうしたの」 「見に来た。まだやってる?」 「終わりかけだよ。署名の手前」 「ん。 …?あ、写真〜。みんなで撮ったやつ!アルくん、大きくなったかな。かわいかったよねーちっちゃくて」 「(中身の年齢はぼくと一緒だけどね…)」 「エドとどっちが背、高いかな」 「それ、エドワードさんの前で言わない方がいいよ。それにまだ1年ちょっとだ」 「言わないよ。ふふ、もうじき会えるね」 机の上のみんなで撮った方の写真を手にとって眺める。サエナの嬉しそうな顔。そういう顔を見るのは好きだから、アルフォンスの顔も緩む。 「ああ…」 「アル、この時……」 その嬉しそうな顔が少し、沈んだ。 「え?」 「服の下、包帯だった。撃たれたヤツの…」 「!… そうだったね。そういえば」 「……」 背後から、椅子に座ったままのアルフォンスの首に腕を回して。 「…良かった、今はもう、なくて」 「包帯?…はは、怪我はいつかは治るだろ」 「……ッ」 少し、腕が強くなったから、アルフォンスは困ったなと思いながら笑いかける。 「あの時より、…ぼく、少しは丈夫になったから。大丈夫だよ」 「………」 「仕事だって軌道に乗ってるだろ?…今度はもっと大きいのが作れるよ」 「………」 「エドワードさんだって戻ってくるかも知れないね。ほら、『鋼の錬金術師』殿は有名人で何でも作れる人、らしいからさ」 「…あは」 背後で笑い声が漏れる。 やっと笑った、と、アルフォンスは安堵しながら。 「―――サエナ。…ぼくは、大丈夫だから。この先、この写真を見る度にそんな思いしなくていいよ?」 「私がいなくても、アルはヘーキってこと?」 「そうじゃないよ。はは。…ずるいなぁ、そんなのサエナが一番知ってるだろ」 「わかんないよ。アルはいつまで経っても私より大人で。歳は私の方が上なのに全然甘えてくれないんだもん。…今だって…私をなだめてばかりじゃない」 「は?」 「何聞いても、大丈夫大丈夫〜って…―――何処が!…もう、この包帯の時だって、痛かったくせに…もう「ぼくは大丈夫だから」なんてバッカじゃないの!?強がったってカッコ良くないっての!」 「何怒って…」 「怒ってないッ!…そうじゃない……。そりゃ…ウィンリィってコみたいにエドの手足作れるわけじゃないけど…!私」 「あ……サエナ…」 ぽかん、とアルフォンスはサエナを見上げた。 甘えているつもりではいた。 サエナがいなかったら多分、きっと自分が壊れるまでやっていた。元から強くない身体をもっと壊して、ギリギリでロケットを打ち上げただろう。それで満足できた、と。「ホラ、名前が残ったからいいだろう?」と自分に言い聞かせていたかもしれない。 だから、こんな、今のようなゆったりとした気分なんてなかった。守るのは自分の「プライドみたいなモノ」だけで、誰かを守ろうとは思わなかった。 「じゃあ、サエナ」 「何?」 「ぼくやグレイシアさん以外と出かけないこと」 「んん〜?何それ」 「…甘えて欲しいんでしょ。……だから」 こんな恥ずかしいこと言えないのだが、平常心を装って出来るだけ声のトーンを変えずに言う。 「アル…。他にいないじゃない、私が出かける相手って」 「アルフォンス。……エルリック」 「? なんで?アルくん??」 『サエナさん。二人でまた出かけようよ!!ボク、たくさんいろんな所を見てきたんだ。教えてあげる!』 「………」 『二人で』……なんて。あれから多少成長したアルはきっと何年か前の自分に似ている。同じような顔というのは、もう動かしようがないから仕方ないけど、その姿の他人がサエナと一緒に出かけているなんて…。面白くない。 だから苦手だ。嫌いじゃないけど。 「とにかく、約束だよ、サエナ」 「…ヘンな所でコドモだよね、アルって」 「ご希望通りだね。年下だから」 「ム…〜んもう!」 ―――そう、それが、訳されなかった、サエナには配達されなかったアルフォンス・エルリックの手紙 一部抜粋。 |
「こちら」の続き。 Wアルフォンス…ってかアル出てないけど。なんとなく思いついて書いてみました。 誤解がないように言っておきますが、ハイデリヒはアルが人間として嫌いではないと思います。 …前も言ったけど。 アルはトリシャさんに甘えられる時間が少なかったから、 トリシャさんに届きたくて、兄弟で禁忌を犯してああなってしまったから、 少しでも似ている…多分魂が一緒のサエナに甘えたくなるのはあると思い……ませんか?(←突然弱気) だから、お母さんと一緒に出かけたい、みたいなのがあるんじゃね? いろいろ話を聞いてもらいたいとか。 それを分かってはいるけど、「サエナはトリシャじゃないし」とか 「あまりベタベタするなー」とかそれで苦手なハイデリヒ。 君がいるから、ぼくは自分を大事にしながら頑張って来られたんだ。 だから、誰かの所に行かないで(爆笑)。 ああ、マジ ギップリャ!だよ。 ←シリアスになりきれない管理人(笑)。 14.01.2008 挿絵 TOP |