信じていたもの


「何故、ここに…!?」

 クーポラの天井が開く、信じられないものを目の当たりにし、目を大きく見開く。
 その上には人が上がれるような場所があって…よく見ようとして、今度は目を細めた…その先には、ノーア。
 アルフォンスはここにいる筈もないノーアの姿を確認して思わず言った。


 ――――なんだって?扉の鍵…?
 シャンバラ?
 それにあの大きな蛇は?…あんな非現実的なものがあるなんて。


「…はっ」
 めまぐるしく事態が急変していく。
 いや、急変じゃない。もしかしたら、…自分でも分かっていたこと、だ。
 エドワードが言っていた「あちら側の戦力を…」という話。そんなこと信じたくなくて。
 それに『これ』は自分の…『ぼくとサエナのもの』だ。これからの未来があるエドワードには…この仕事を否定されたくなかった、邪魔されたくなかった。
「ノーア、君も…そっちを信じてたんだね」
 アルフォンスは少し寂しそうな目でその天井を見上げた。同居していた二人が二人とも『向こう』に向いていたんだ、と思うと。距離が遠くて寂しくなる。
 少し前に『三人』だったときは、もっと笑っていたのに。


「…第二宇宙速度があれば、扉の中で起きる現象を…突破、か」
 先程、そんな話を聞かされた。
 真っ黒い扉が天井に生じ、こちら側の空気を飲み込んでいく。エッカルトたちがロケットの打ち上げ命令を出している。

 ――――扉が出来る直前、あの大きな蛇と一緒に誰かが消えた。
 アルフォンスはその人を一度だけ見たことがあった。初めてサエナをトリシャと間違えた人。
「分かっているんじゃないですか…?あなたの行為が、…こちら側とあちら側の戦争の引き金になる、って…。あなたのトリシャさんはそれを望んでいるんですか?」
 アルフォンスはどこかに向かいながら、ぽつり、ぽつりと言葉を発する。
「でも、それはぼくも同じこと、か…。サエナが一番嫌っていた戦争だ…。その引き金をぼくは作っていた…?」


「……あなたは」
 アルフォンスが向かっていた先はエドワードのところだった。
 瓦礫に埋もれている身体。箱やらダンボールやらがちょうどクッションになっている。銃弾も義手に当たったようで、生身の身体には傷はないようだ。
「『そんな事望んでない』って言ってくれた。ここで生きていくことを、それを決心してくれた…って思ってもいいですか?」
 瓦礫からエドワードを引っ張り出しながら。

「でも…あなたは一度あちらに帰るべきだ。……そうして、いくつもの選択肢を作るべきです。その中から満足できる答えを探して。あちらで何をするか、何が出来るか」
 言いながら自分の肩に腕を掛けて。
「ぼくにはもう選択肢は残ってないから。……エドワードさん。…あなたは、あなたが、信じられる道を…行って下さい」
 誰かに見つからないようにエドワードを運ぶのは大変だった。
 ようやく見えた機体。


『これ、飛ぶの?』


 サエナの声が聞こえたような気がした。もう聞かなくなって久しい、懐かしい声。
 研究室に遊びに来た時、初めて見せた赤い機体。
「…飛ぶよ、向こう側までね。『これ』は…争いの道具じゃない。ぼくらの…大事な友達を…信じられる道に運ぶ道具だ…」


 もう、あの時には戻れないけど。
 もう、叶わないけど。


「ずっと、見ているから…。見えなくなるまで…ね」






この話の後これの最後の方へリンク(笑)。

「扉の中で起きる現象を突破し」っていつ聞いたの!?ねえ!!と映画中思いました。
しかも「アンタなんでいきなりそれを理解してるの!?」と…やはり作りが甘いな劇場版。ハハ。
ホーエンハイムのあの行為はトリシャさんは喜んでないよね、ってのはやはりつばささんから。
そうだよね、彼、絶対戦争になるって知ってるもんね…。

ハイデリヒの「何がなんだか分からん」みたいなこの地の文はあえてそうしました。
彼も混乱している筈だし、その中で自分を正当化したいのは人だ。
サエナに見せた『赤い機体』だけは戦争には使われないんだよって、意地です(何)。

でも、この短時間であの話を聞かされた彼は目の前真っ暗になって倒れるくらいだったと思う。
頭を思い切り殴られたみたいに。きっとふらふらしていた。
それでも地に足をついてエドを送り出せたのは、優しさと強さであって、…「本編」の流れじゃないよ(汗)。
しかし、あまり彼に反論させるとそれこそ本編から外れてしまうので…素直に送り出してはいるけど。
だから、抑揚のない喋り方はさせてます。

自分「だけ」でロケットを造る時間…選択肢は残ってない。
エドが「この世界で生きていく」と、思ってくれたのなら、
自分やサエナを夢にしないでくれるだろうと、送り出して…やったのかなぁ…。

これは争いの道具じゃない、大切な友達を希望の道に運ぶ道具なんだ――。

「距離」はエドワードとの距離。

2006.04.30


挿絵


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