1:降り積もる雪
紋章の謎 氷の大地〜明かされた謎
*オリジナル要素があります。苦手な方は閲覧注意。 まずはこちらからどうぞ



 ――――頭が痛い。
 多分それはこの標高の所為ではないと思う。

「……」
 一度息をつく。

 この雪の地帯に入ってからというもの、少しでも行軍が楽になるようにと治癒系の魔法を得意とする者を中心にガードの魔法を唱え続けていた。
 寒い事には変わりないのだが、それでもかなりの風雪を防ぐ事が出来た。
 それに神殿を護る者――――氷竜たちを刺激しない事にも成功した。


「…マリーシア!大丈夫?多分あと少しだろうから頑張ろ」
 小走りで軍の前方に追いつき、銀髪のシスターの肩を叩く。
 この足場の悪さで馬も使えなくなっているので、文字通りの雪中行軍だ。
「大丈夫。ふふ、だっていつもは後ろからこそこそくっついていくのに、今回に限ってはこーんなメインじゃない!ね、マルス様に見てもらえるチャンスでしょ!」
 マリーシアは杖を振りながらエスナにばちっと片目をつぶって見せながら笑った。
「あはは、流石」
 術の行使者は三箇所で配置をされていた。前、中、後に付け、術を均等に渡らせる為。
 経験的、年齢的にもいつの間にか軍の回復役の代表のようになってしまっていたエスナは術の負担が一番大きく、また全体の様子が見える後方に居たのだが、やはり他の術者が心配になり、こうして見に来ていた。

 大丈夫、とは言ってもマリーシアの額には汗が滲んでいた。それに加え、標高もあって息も荒くなってきている。暑いのか寒いのか分からないだろう。
「ちゃんとかぶって」
 口を開けると、身体の中にまで冷気が入ってくる。せめてこれ以上冷えないようにとマフラーをマリーシアの顔半分見えなくなるほどまで回し直した。
 数刻前にユミナから杖を取り上げた。杖を取り上げられたユミナは怒ったが、最後まで気を張っていたのだろう。今は死んだように眠っている。

「………」
 マリーシアもそろそろ限界であろう、エスナはまた息をつき、目線の先、「あの岩に着いたら杖を取り上げよう」と後方に戻りながらぼんやりと思っていた。
 何故だろうか。頭が痛くて本来ならば魔道の力を行使するどころではないと思うのに、その力は尽きる事を知らない泉のように湧いてくる。
 これなら自分一人でも何とかなるのでは、と考えたエスナだったが、術の効果が持続できてもどうしても範囲が広げられない。よって、術者が必ず複数必要となるのだ。


「ご苦労だな。……マリーシアは」
「ん、随分頑張ってる。…はぁ、レナ姉さんみたいにはいかないなぁー…もうちょっとうまくしてればユミナも倒れずに済んだかもしれないのに」
「…そう言うな」
 軍の殿を務めていたのは弓騎士ジョルジュ。
 ここで励ましの言葉はありきたり過ぎて何の効力もないだろうとそう言っただけだった。
「あ、ジョルジュも出来るだけ口元出さないでね。喉やられちゃうし、中から冷えちゃう」
「ああ。……。で、お前は大丈夫なのか。マリーシアまで止めさせたら後は魔法系――――…と言ってもマリクやリンダだろう。大丈夫なのかあれは」
「あー、それがね、妙な感じはするんだけど、魔道の力自体はほんと、大丈夫」
 治癒の杖の先に付いた石がふわりと光る。
 手の動きにあわせてその光は皆を覆っていく。
「へえ…ま、俺は魔道に関しては門外漢だ。口出しは出来んが…。妙な気がするんだったら無理はするなよ」
「ん」
「…マリクやリンダの回復魔法は危なっかしくてごめんだぜ」
「! あはは。何それ、でも確かにそうかも、ふふ」
「……ふ」
 ジョルジュは喋りながらも辺りの気配を全て汲み取るように意識を外に向けていた。このような天候で軍の者達の怪我を増やすわけにいかない。また、回復役たちの負担を増やす事になる。


「あ」
 一瞬吹雪が切れ、岩だと思っていたものが実は大きな建物だった事に気が付く。
 何故か驚き、思わずその手から滑り落ちた杖は、音もなくその身を雪に埋めた。
「!」
「おい」
「………あ?」
 岩の大きさどころではない。
 気が付くととても大きな影が彼らの前にあった。
 軍の前方の者でさえ、目の前に来るまでその建造物を全く察知できなかったのだ。

 だから、それを目にすると皆は口々に喜びの声を発した。この長い道のりを思い出し、涙を浮かべる者もあった。
 チェイニーとマルスが何かを話す。それから手を掲げてマルスが号令を出した。扉が開くと、皆、わっとそこに駆け込んでいく。


 未だ遠くのそれを見つめ。目を見開き、何かを紡ごうとした口は半分開いたまま動かない。
「…氷竜 …神殿だ――――」
「…?」
 今まで道案内として同行していたチェイニーは、あまり話の核心には触れようとしなかった。
 それは元々の彼の性格なのだろうか、それとも、余程言いたくないのか。
 だから、「ガトー司祭が居る場所」もはっきりと名前を聞いたわけではなかったのだ。

「………エスナ」
 雪の中から杖を引き出し、既に冷たくなっている持ち手を布で包ませて動かない手に取らせる。
「お前が杖を投げ出してどうする?…ほら、辿りついた奴も居るんだ、ここで見学していたって何も起きないぜ」
 気が付くと後方部隊の者達も既に建物近くまで行ってしまっていた。
「あ!……ああ、うん」
 びくっと肩を揺らし、杖を受け取る。
 それから、雪をぎゅ、ぎゅと踏みしめながらその雪の建物へと向っていった。





「弓兵は最後まで戦場に残り〜」と言葉と言った事があるのはジョルジュらしいです(5巻)。
…なので殿務めてても可笑しくないでしょう…?と。
魔道士は前に出張るな、とカインが言っていたので、魔法系も後ろ。
するってと結構一緒に行動も出来ていたのでしょうか。

とりあえずゲーム13章氷の大地です。


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