4:最終決戦
よた、よた。と足が向う。 ほぼ零距離でパルティアの矢先が触れるほど。 焔の不規則な明るさに瞳が揺れる。 「クラウスはお前を守る為に戦いに出たんだったな。…その石一つ取ってもそうだ。…そのお前が何をしているんだ。守っていた奴の身にもなれ」 「………。て き」 「それが分からんのなら、今これで貫いてやるよ」 「――――」 「その魔法、撃っちまったら…後で泣くぜ」 表情はそのままなのだが、ジョルジュに向かって構えた杖の先がかたかたと震える。だが術は止まらないのか、杖の水晶から小さな光が生じ始めていた。 「なぁ、どうせ分かりやすいんだ、溜め込む必要もないさ」 魔道の力、その魔法が段々と大きくなって、対象の顔を照らす。 深く蒼い瞳はその眩しさなど感じていないように、目も細める事もせず、変わらず真っ直ぐと竜の瞳に向いていた。 金色の髪は陽の光のような透明で、光の色に近付く。 「……」 このまま、この距離で魔法が大きくなれば双方無事では済まない。 だが、脚を引くこともなく、目を逸らす事もなく。 「…あ…?」 「クラウスがああなったのはお前の所為だ、なんて言わせない。…エスナよ、兄を救いたくはないか?……だったら、戻って来い」 「! に、さ… ま?」 「お前の居る場所はそんな暗い場所じゃないぜ」 そこで一度言葉を切り、息をつき。 「…来いよ、エスナ。受け止めてやる」 「…!」
「っは…!」 小さく声を発すると、ぱちん、と杖先が鳴った。それはとても小さな雷の魔法のような火花がはじけた音のようだった。 「! ――――…っ…声…が?」 涙が伝い、ぱたぱたと丸い雫を作って床に落ちてゆく。 「きて、くれた? なんで…?私なんて」 操られた瞳。ぎらぎらと嫌な輝きを見せていたそれは、元の深い色に戻りつつあった。遅れて、手がだらりと力なく落ちる。その反動で杖も床に転げた。 発動しかけていた術はパルティアの焔に吸収されるように消え、その残骸も杖が手から離れた事によって、キン、と音を立てながら水晶の中へと消えていった。 「は、エスナ」 「……ッ」 ひくっ、と肩が動き、口からは短い息が何度かつかれる。 禍々しい気が消えた事を感じ、ジョルジュもパルティアを下ろし、手を差し伸べた。 「全く、手間かけさせたな、随分と」 「――――…。あ、ジョルジュ?あぁ、よかった。無事だったんだね…ケガ、してない?」 漸く目の前の人物をおぼろげながらも目で認識し、ふわりと笑う顔。 怪我はしていない方がおかしい、この竜の祭壇を昇り、ここまで来たのだから。だから、この言葉はつまり、エスナの視力がまだ完全に戻ってきていない事を意味していた。 だから、ジョルジュは苦笑しながらも手を触れる距離まで延ばし直し、答える。 「!? …ああ、魔法防御のおかげじゃないか?…見ての通り、な。無事だ」 「……。お願い。竜族を救って! あんな姿になる事なんて、彼は 望んで なかったと 思」 「っ!」 差し伸べられた手を取ろうとして、それは滑り落ち、身体ごと倒れてくる。それをしっかりと抱きとめ、それからマルスに目線を渡した。 「……。マルス王子!行け!もう、届く筈だ…」 「彼」の本当の望みなど、「彼」にしか分からない事だ。 いくら同じ竜でもそれはそうだろう。ましてや、人の嫌な部分を「極力」見ないで育ってきた竜の娘の言う事だ。 人の汚く、嫌な部分など、「彼」はこの娘より何百倍も見ている筈。 だが――――。 「ああ!」 ファルシオンの柄を握り直し、構え。見据える。 「(苦しんでいるようにも見えるのは…、やはり…)」 濃い霧が立ち込める中、シスターたちの力を失ったメディウスは苦しげに顔を歪めた。 「(いつか、竜と人は分かり合えるようになる…)」 「私はそう信じているんだ!」」 マルスは霧の中へと駆け出し、そのファルシオンを高く突き上げた――――。 「(…メディウスは望んでいなかった、か)」 赤い髪の青年は、ふ、と息を吐きながらそちらを見やる。 腹に響く低い声。オオ、と叫んでいるのは「彼」か、それとも封印されし地竜たちやここに残る怨念たちか。 「…どうだろう、そんなの、同じ竜の僕にだってわからないけども」 「(それでも、どうにか良いようになって欲しいとは、…かっこ悪く足掻いたって願うよ)」 弓騎士の腕の中、ぴくりとも動かない薄荷色の長い髪。それを視界に入れて、今度は小さく笑った。 「……さぁて、これで終わりだね」 「僕の旅も」 |
対メディウスの曲の出だしが好きです。 以前から戦いの描写が得意ではなく…やはりそのままになっていました。 しかし…まぁ、ジョルジュが優しすぎですね。 流石あの軍の中でやたらと仲間を助けに入る人です(7巻)。 ゼロ距離になったら弓兵は何も出来ないじゃん、というツッコミはナシです(笑)。 ジョルジュの「クラウスが〜」の台詞の元はこちら。 NEXT TOP |