5:光ある方へ



「マルス様…!」

「王子!!」
 やがて、霧が晴れ。
 その場所に立っていたマルスの姿にシーダは泣き笑いとも付かない笑顔を向けた。

 わっと歓声が湧く、皆がマルスに駆け寄る。
 遠く、それを見守って、シーダは流れてくる涙を静かに拭った。
「…もう、チキってばずるいよね?シーダ様?」
「ふふ、…でも、本当に嬉しそう」



*



 パレス郊外――――
 ガトーの大魔法によって、一度ここに転移された。


 勝利に湧く解放軍たちはそのパレスで三日三晩、宴を開いた。それは城下のノルダまで巻き込み、今まであったどの祭りよりも騒がしく、明るく。
 人々はそれに歌い、酔い、笑った。

 しかし、その宴の最中、何も告げずに軍を離れて行った者も数名あったという。


 そして、それからまた数日後。
 マルスは各国の主たる者達を集め、これからの復興や方針を話し、その者たちからの協力を仰いだ。



――――アカネイア連合王国――――

新しいアカネイア大陸の誕生である。






「ジョルジュさん?」
 ゴードンは木に寄り掛かっているジョルジュに話しかけた。なんとなく複雑そうな顔をしていたので気になったのだ。
 その表情は、未だ続くお祭り騒ぎにおよそ相応しくない。

 先程、話し合いが一区切りつき、休憩の為に外に出てきたところだった。
「うん? ああ、ゴードンか。どうした?」
「い、いえ、複雑そうなお顔…していらしたものですから。……つい」
「ふうん?ま、この顔も生まれつきだ」
 苦笑し、矢筒に指を置いた。かしゃ、と矢が鳴る。
「また、そんな事を」
「…お前はこれからアリティアか?」

「! ええ、はい。一度はアリティアに」
「あん?一度?」
 くいと眉を上げそのまま問い返す。
「はい。…そっ、その後はジョルジュさん。どうか貴方の下で働かせてくださいっ!」
 向き直り、真っ直ぐに見つめた後、頭を下げる。

「! ………。まぁ、いい。好きにしな」
 にやり、不敵な笑みを浮かべ、その矢筒から一本取り出した。
「はいっ!よろしくお願いしますっ!!…って。え!?」
 それから布を取り出し、それに器用に巻いてゆく。
「…ただし、こちらに来たからには手加減はしないぜ」

 差し出された矢をゴードンは目を丸くして見つめ、それから思わず大きな声で返事をしてしまった。
「! は、はい!!ありがとうございます!ジョルジュさん!!」
「は、そんな大声出さなくとも聞こえてる」
「そうだ!あの!……す、すみません、…僕、今矢を持っていなくて」
「……? ああ」
 落ち着かないゴードンの様子。それにジョルジュは彼が言いたことが分かったように、手の平を向けた。
 「いい」の合図だ。それを受け、少なからず肩を落としてしまう。
「……」

「おい、何か勘違いをしているな。…ゴードンお前は「我この身を捧げる」の意味で差し出そうとしたんだろ?」
「は、…はい」
「俺がお前に忠誠を誓って欲しいわけないだろうが。師弟関係と忠誠は似ているようで違う。…だろう?」
「…!」
「なら、今はそれだけを受け取っておけ。そいつを使える時が来るまでな」
「っ!! は、はい!」
「いつか俺くらい越えてみせろよ」
「!? こ、えるなんてそんな!」
「はは、おい。それくらいやってやる、勝負だ。…とでも言ってみな。いつでも受けて立つぜ?」
「!!」
「ふ…」

 いつか、そう言ってやった事があった。「勝負がしたくなって来たのか?」と。
 勿論、あの時の重い心持ちとはかなり違うが、それでも目を掛けてやっていた弟のような存在の弓兵と言うのは変わらない。
 そして、その成長を見ていくのも楽しいだろうよ、とジョルジュは薄く笑った。


 緑や明るい花の色に囲まれた庭園。
 季節的には花は少ないが、それでも寒い時期に咲く花が開いている。遠くの山々も緑や橙や、さまざまな色を見せていた。
 それらは戦争の余波を受け、荒れていたが、そこにいる人間は今確かに笑っている。

 視線を移動して行くと、その遠くに青い髪の青年とその仲間達を捉えた。
 この距離だ、勿論何をし、話しているかなど此方から分かる筈もないが、明るい話題なのだろうという事は容易に想像できる。
 時折飛び跳ねるようなそぶりを見せる者、両手を万歳の様に挙げる者。その動きは様々だが、皆明るい。思わず、ふ、と笑った。


「…マルス王子はこれから大変だな。まあ、部下に恵まれているから、それさえ失くさなければ大丈夫だろうが」
「ええ。マルス様ならきっと!!あのお方はこのアカネイアを導いて下さると信じています」
「は、そこまでプレッシャーかけてやるなよ。「それさえ失くさなければ」と言っただろう」
「…?」
「王子も人間だぜ。周りが居るからなんとかなっているんだ。アリティアのお前がそれが分からぬわけではないだろう? あとは王子自身がその抱え込む量をどの程度回りに渡せるか…だな」
「…はい」
「弱みなど他人に見せない事に越した事はないが。…それが出来る人間など居ないからな。ま、それを見せてもいい相手が見つけられる事が重要だ。 …ああ「他人に期待しない者は最強」などという言葉もあるが――――」
 かしゃ、また指先が矢筒の矢を弾いた。
「…そう簡単にはいくまい?」

 ふ、と笑ってゴードンにちら、と視線を渡した後、一呼吸置いて広場――――マルスたちがいる方向を再度見やった。
「ジョルジュさん…」
「周りに信頼できる者がいる。…つまり、それが王子の一番の強みだな」
「ええ…!なら、やはりマルス様は大丈夫ですよ。我々はそれを見てきたではありませんか」
「はは…。そうか、確かにな」

 そのままなんとなくそちらを眺めていると、小さな背丈で新緑のような緑色の髪の少女がぴょこぴょことマルスの周りを駆け回っている様子が目に入った。
「……。チキは…確かパレスだったな」
「あ、ええ。バヌトゥさんが人が多い所に置いて欲しい、って頼んでいたみたいですよ。でもアリティアは暫く騒がしくなってしまうだろうから、パレスへ、って事になったみたいです。パレスはリンダさんやミディアさんみたいな女性も多いし…って」
「ふぅん」
 ふ、と目を細める。
 その名前の中に「一番チキと一緒に居たいだろう」と思っている名がなかったから。
「……。ま、いいけどさ」
 戦が終わった後なのに何故か手放す気になれず、そのまま持ち歩いている長い包み。それの留めとなっている赤い紐を引っ張った。
 しゅるり、と音を立てて布が滑り落ち、黄金色の弓が現れる。

「さて、どうするんだ…?」





2巻でしたか、アリティアの忠誠の証として銀の剣を〜っての。
しかし、ジョルジュってオリオンの矢を持ち歩いていたのか…。

ソウルフルブリッジのジョルジュ説得ってSFC版紋章ではゴードンのみでしたが、
あれだとアリティアにジョルジュが教えに行ってたんだろうなぁとか、いい師弟関係だったんだろうなぁとか、
容易に想像できますよね(そして新でホントに教えに行っていたのですが…(笑))。

しかしなんだ、ゴードンの口調が良く分からない。


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