1:il sole se ne va.
紋章の謎 竜の祭壇〜EDまで
*オリジナル要素があります。苦手な方は閲覧注意。 まずはこちらからどうぞ



 静寂――――。


 その「不気味な程の静けさ」に身体が覚醒した。
「……。あ…?」
 しゅす、とローブの衣擦れの音。それに、自分の息遣い。それらがやけに耳に付く。
 つまり、他に音がない。
 纏わり付く重い雰囲気に、知らず知らずに自分で自分を抱きしめている格好になる。
「は…寒……! !? あ、あれ!?」


 ――――先程負った傷は全て消えている。
 「先程」の筈なのだ。嫌というほど魔法の攻撃を受けた。


 そう、恐らく数時間前。


 アカネイアパレスへの最短経路となる中央山脈を突破中、アドリア峠にて闇の司祭に見つかってしまったのだ。恐らくはこの戦が始まる前、カダインで現れた者と同じ。
 オレルアン騎士団に身を隠し、距離を詰め。一気に後方部隊に近付いてきたのは闇の司祭。俊敏な動きながらもゆらゆらとどこか幽霊のような動き。
 軍の退却を助ける為、殿を務めていたジョルジュは誰より早くそれを察知した。一度見ているのだ、感覚も慣れてきている。

「ちっ…! 下がっていろ!今の奴の目的はマルス王子じゃない!お前だ!!」
 これからの行軍の事を考えても(そして個人的にも、か?)、ここで攫わせるわけにはいかなかった。
 今まで連れ去られたシスターたちの事を見ても、何か背後で悪い事が起きているのは分かるのだから。
「!? ジョルジュ…っ」
 強く引っ張られ、背後に庇われ。
「(また、守られてばかりじゃない…!? 私は、今度は…!)」

「再度のご来訪か、ご苦労な事だな」
 ジョルジュの動きにパルティアが呼応し焔の弦が現れる。
 その弓の光を避けるように手を突き出し。途端、魔道の波動を感じる。
「―――…!?闇魔法! 駄目ジョルジュ!あれは受けないで!!」
 自分が意味が分からずとも狙われている、という事はわかっている。そう、一度カダインで経験しているのだから。
 だが、魔法に対しての耐性は――――。
「(私の方があるんだから!…こんな所で傷付いて欲しくない…!)」

 駆け出し、振り向き、一瞬目が合った。そこで「大丈夫だよ」と自然に笑みが零れた。
「馬鹿…!!」

 庇ってもらっている腕から抜け出した、…までは覚えている。



*



「っ、…で、ここは…?」
 足が動く事を確認して、まずは壁を探す。闇の中、すり足で歩を進める。
「ジョルジュ…、皆は大丈夫だったかな……」


「あ、竜の、祭壇…? あぁ、…昔来た事ある、かも…?でも、こんなだった…かな」
 途端、紫色の光に辺りがぼんやりと照らされた。重い空気。
 遥か彼方の記憶が浮かんできて、額を押さえた。実際来た事があったのか、それとも話だけ聞いたのか、何故かよく思い出せないが。

「! 重…っ!うっ」

 目の前に広がったのは禍々しい気を持つ祭壇。
「地竜を封じた所だ…! そうだ!だったら!…レナ姉さん!マリアも居るかも…!?」
 そうだ、自分がここに連れて来られたのなら、攫われたシスターたちも居る筈だ、とその祭壇目掛けて階段を駆け上がる。

 かつん、かつん、
 真後ろで靴と、杖をつく音がして、びくん、とすくみ上がった。視界が真っ白になる。体が動かない。
「っ…! ガーネフ!?」
 すくみ上がっているのは、怖さの所為だろうか。
「(情けない…!こんな!!神竜の私がっ)」
「ふふ…神の名を持つ竜も落ちたものよな…。どうだ、治癒の力しか持たぬというのは…」
「……」
「あぁ…今は攻撃も撃てるようになったと?…クク…。だが、そんなものに用はない。……そう、どの戦でもお前は大して力を行使できなかった」
「っ…! 黙れっ!」
「フフ、威勢の良い事だな。しかし、「今回は」違う」
「今回 は…?」
「さぁ、司祭エスナよ。良いものを見せやろう」


 階段を上り、そこに現れたのは懐かしい姿。

「みんな!無事だっ…  た…?」
 先の戦争が終わってから、消息を絶っていたシスターたちがそこに立ち尽くしていた。
「――?あ、れ? ……これは?!」
 姿を認めたから、思わず顔は笑みが零れたが、それは直ぐに固まってしまう。
 亡霊のような真っ青な顔。目は光を無くし、何処か一点を見つめている。
 無表情――そんな一言で簡単に片づけられるような生易しいものではない。ただ、立っているだけの「人のような」何か。そんな彼女たちはこれだけエスナが声を上げても、誰一人こちらを向かなかった。
「!? …っ!ガーネフ!何をしたっ!?」
「くく、知らぬ方が身のためぞ……。ふふ、復活の為に働いてもらう」
「前にも聞いた、何の復…か」



「―――――――」



 ガーネフの口が動く。
 その動きでエスナは目を見開いた。
「はっ!? もう…、そんなの望んでない!!」
「フフフ…、あやつは人間を恨んでおるのだ。望まぬ事があるか。ぬるい考えは貴様くらいだ」
「それでも!こんなの…!!メディウスを眠らせてあげて!!自我を失ってまで滅ぼすって…「滅びの気持ち」だけ残すなんて!!」
 こつ、一歩近付き。触れる距離まで。
「っあ… え」

 先程までは靴の音がしていたのだ。足が地に付いていたのだろう。
 それはエスナより身の丈が低かった。だが、触れる距離まで来ると目線でそれが浮いた。頬を黒いローブの裾が掠める。

「っ…く」
「この祭壇に眠る地竜、そして暗黒竜に神の名の血と肉を与えよ。復活の力と成すのだ」
「ふざけ…るなっ!そんな事なんてさせない!メディウスは…そんな人じゃなかったのに…!」
「…そうだ、人さえいなければ、か?」
「!! ッ…」
 一瞬、視線が揺らいだ。
 この戦いの一番最初は。
「で、でも!!違う、こんなの願ってなんかない!」
「まぁ、よいわ。…その揺らぎさえあれば十分。…フフ、クラウスよ…お前への手向けは精神を崩した人形だ。いや、…それさえも残らぬか」
「兄…様……。やだ、私たちは…竜族は――――!!」
 目の前に翳される手に、びくんと身体が震え、硬直する。
「!? ナー ガさま…ぁ。 ッ!! う…あ…!?あぁっ! ぐ…」
「フフフ…」

「(嫌だ…分かんなくなっちゃうなんて…!)」
 誰かに向かって手を伸ばす。
 それは何に触れる事もなく、空を切って落ちていったが。

 エスナの視界から見えるシスターたちの姿。
 シスターたちは魔法に顔をゆがめ、苦しみ、のた打ち回るエスナを先程と同じ目で見下ろしていた。
「こ…んなの……! ない…」
 シスターたちの虚ろだが、冷たい視線が射抜く。
 その視線から逃れたくて、天井を見上げた。遠く、霞むほど遠くに天井らしきものがある、いや、あれは天井なのだろうか。それとも禍々しく暗い空なのだろうか。

「……あぁ…。 たす …て…」
 身体が言う事をきかず、指一本さえ動かせない。辛うじて動く目が、重く落ちる瞼に完全に隠れるまで、天井らしきものを眺めていた。

「…―――――」
 最後に唇が誰かの名を紡いだが、空気の流れにしかならず、ひくっと喉が動く。光を失いそうになる瞳がふれ、涙が伝い、冷たい床に零れてゆく。

 手首と、足首に架かっている小さな神竜石が寂しそうな光を宿していた――――。





「結局攫われてんじゃんよ」とかツッコミしないで下さい(笑)。
ジョルジュも苦労しますね。ハイ。
書いていた当時はその辺りなんとも思わなかったのですが、なんでだろうか。
でもでも、シスターが復活の生贄に使えて。地竜より力がある神竜の操りやすい杖使いがいたら…
それは生贄にはもってこい…?でしょうか?? どうなんでしょうね。

エスナ、神竜では弱い部類なのだろうか…。なんだかあまり強い描写がないのだが…。
それなりに力はある、と信じたい。

戦いが大変な時に消えるのだから、ゲーム的には使えないキャラになりますかね(汗)。
自分はあまりチェイニーって使った事ないんですが、そんな感じで。

タイトルは:太陽は消え去りました


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