2:シスターたち
およそ人の世界のものではない。 この世の者が建造したとは思えない、そう誰かが口にした。 技術的なものもその通りなのだが、この気は人ならざる者。 「…久々に来たけど、もっとおかしくなってるね」 誰かの言葉に、ここを知っているチェイニーがため息ごと洩らした。 まるで空中に取り付けたかのような階段。 下を見れば奈落。 マルスはファルシオンの柄をぎり、と握りながら階段を踏みしめてゆく。 「……。姉上たちは、…ここにいるのだろうか」 「だろうね。…ガーネフが言っていた事が本当なら…マズイことにはなっているだろうけど…」 自分で言いながら、その言葉に顔をしかめる。唇を噛み、階段を、魔の霧を見据えた。 「マルス王子」 背後で声をかけられ、足を止めるとマルスの横を通り過ぎ、それから振り向いた。 「ミネルバ…?」 「……。…私は、…覚悟は出来ている」 低く言ったミネルバの言葉に、意味を見出し。マルスは目を見開き「駄目だ」と口にしたかったが、出来なかった。 生贄にされるくらいなら、この手で、と。恐らくは思っている。ここまで来れば想像するに容易い。シスターたちは最悪の事態に限りなく近いだろう。 「…ミネルバ……」 何も言えなった。彼女なりに考え抜いて決めた事だったのだろうから。 やがて現れた竜の祭壇。 太い柱に支えられ、アーチのような姿を幾重にも作りながら支えられている遥か彼方の天井。 封印の術なのだろうか、ぐるりと巡らされた彫刻は何かの文字のようにも見える。 じっとりとした霧のようなものが立ち込め、視界を遮る。 その霧の向こうにゆらゆらと揺れる影。 黒く、長い長い巨大な蛇のような姿―――――。 「!? 暗黒竜…、あれが?」 チェイニーが絶望的な声でそう呟いた。 「メディウス?まさか!?全く違うじゃないか…」 そしてその竜を守るように現れる懐かしい姿たち。 「あれは!――――姉上たち…、なのか…?」 「マリア…!」 「レナっ!!」 呼びかけても反応はない。 目は濁り、ゆらゆらと左右に動きながら歩くその動きは生きている人間とはとても思えない。 「魂が砕けた? と、言っていた…? が…。どういう事なんだ…?」 喉元がごくん、と動くが、唾がまるで固い石になったかのように落ちてこない。ファルシオンを握る手にじっとりと汗が滲む。 その間もゆっくりと、だが確実にこちらへと近付いてくる四人のシスターたちは、恐らく、攻撃を仕掛けてくる筈だ。その手には魔道書。 強制的に魔道の力を上げられ、持たされた魔道書なのだろうか。それを持つ手は血管が浮き上がり、しゅうしゅうと奇妙な蒸気のようなものが立ち上っていた。 「あんな力の使い方してたら死ぬ…!」 「でも、どうやって止めたら!」 マルスの横をふわりとマントが揺れ、遅れて微かな風が通り抜ける。赤い竜騎士は白いローブ姿の小さな身体を見つめ、ぽつり、と。 「――――王子、覚えているな。……私は覚悟は出来ている、と」 そうして、振り向いた赤い竜騎士・ミネルバは微笑んでいた。 「しかし!」 「易々と渡してやるつもりはない。ほら、あの子はまだ生きている。最悪の事態ではない」 「ああ、だから!」 「大丈夫。…兄、ミシェイルとの約束だ。皆で暮らすと。…あの子は…マリアは…私が」 「っ! ミネルバ!!」 シスターたちに駆け寄る数名。 手を、肩を抱き、歩みを止めさせ。 中でも魔法の耐性が無い者はその手を握るのも辛そうであったが、顔を歪めながらも笑って話しかける。 必死に彼女らの名を呼び、そして、自分の名を言い。「あんなことがあったよね?覚えてる?」と思い出を語りかける。 封印の盾が光輝き、地から這い上がってくる地竜を押し止める。 それでも地を揺るがす者達を、歴戦の勇者達がなぎ倒してゆく―――――。 「あぁ…!」 「ねえ …さま?」 がくんと膝が折れ、力を失くし。 それからゆっくりと開いた目は、光を宿した優しい瞳。シスターたちは一番最初に見たその懐かしい顔たちにふわりと笑顔を向けた。 「! 良かった…!」 「やったか!」 「これでメディウスに近づける!!」 奇跡だと、霧の向こうに見えた笑顔たちに思わず誰かがそう、歓声を上げた。 ――――だが。 その時、突然光の魔法に似た魔法が皆を襲った。 |
元のファイルが1つだったので、キリのいいところでなかなか切れず…、 ○話短い、×話長い、みたいになってしまってますね。 魂が砕けた、というのはガーネフの言葉でしたが、 砕けた割にはシスターたちの復活早くて「えー」でした。特に…ニーナ様。 マリアがいいね、マリアが。 そしてエリス様って「ああいう風に取り乱すんだったのか!」と思いました(笑)。 マリア以上…だったよね? ゲームではメディウスにぴったりくっついているんでしたが、歩いて来てくれたら楽だったなぁ。 間接攻撃が出来るチキとジョルジュだけでシスター無視で倒したらどうなるのかと思ったら、 別にどうにもならなかった記憶が…。 NEXT TOP |