1:遥か彼方の物語
前1000〜頃 時間軸的には一番最初
*オリジナル要素があります。苦手な方は閲覧注意。 まずはこちらからどうぞ



 白い羽が風に乗って舞う。
 それは鳥にしては大きく、鳥にしては現実感がない羽。

 彼を見た者たちは皆、口を合わせてこう言っていた。『あまりにも冷たい目』『勝つことだけに興味がある』と。
 ドルーアの悪魔。

 しかし、マルスの前に現したその姿は噂と全く違っていた。目は焦点を失い、視線がはっきりしていない。魔道を暴走させ、世界はおろか、自らをも滅ぼそうと。
「僕は!こんなキレイごとを言うヤツらに復讐していかなければならないんだっ!!」
「クラウス…」
「でないと…」
 自由が利かなくなりつつある手を、もう片方の手で押さえ、痕が出来るほど強く握り。
「…でないとあの子が浮かばれないッ…僕は死んでも死にきれないんだ…!」
「何が、そこまで君を追い詰めたんだ…?」

「うるさい!! お前なんかに…『アリティアの王子』なんかに僕の気持ちがわかるものか……ッ!」


 ――――ふわ。
 また、散る。



 透き通った水晶のような物が瓦礫の下に転げた。

「なんだ、クラウス…、やっぱり」
 青年はその音が聞こえたかのように目を閉じてため息をついた。
「あいつは間に合ったのかね…?さて、名前くらいは呼べたのかな…?」
 そこらで摘んだ小さな草花を咥え、それから、ふ、と風に流す。

 小さな白い花は風に攫われて、高く舞い上がって行った――――。




*




「ねえ にいさま。あたし、大きくなったらねー…」
 それは少し昔のこと。





そして、これはその出来事からまた遥か彼方昔の――――





 人の世界からは遠く、恐れられていた地があった。
 風はほんの目の前さえも見えぬほど激しく吹き、大地は凍て付く。
 それは神の世界とまで呼ばれ、むしろ「そんな場所なんて御伽噺の世界だ」と笑う者もあるほど、現実感はない。

 まだ、「今」より竜が存在していた頃。そして人が竜を恐れていた頃。また、竜族の衰退が始まりかけていた頃でもあった。


 氷竜神殿――――


 神殿の外に出ると風が激しく吹きつけてくる。
「はぁ、毎日の事だけど、外は凄いねえ」
「…本当に。ま、仕方ないよ。大陸の中でも最北だからね。知っているかい?…人はここが御伽噺だと思ってるらしい」
「へー、そりゃありがたいけど。…僕が言っているのはさ、何もこんなところが神殿じゃなくてもいいだろ…ってことだよ、無駄じゃないか?そう言うの嫌いなんだけどな」
 赤い髪の青年はそうぼやきながら、手の中の紐を指に絡めてくるくる振りまわした。その紐の重石の役に立っているのは、不思議な色の石。

「好きこのんでいる訳じゃないし、…まず、好き嫌いの問題でもない。でも僕はなんだっていいんだ。人間に干渉されなきゃね。…言っただろ、「御伽噺」だって」
 当初は気候のいい地域にも暮らしていた事もあった。だが、どうしても人間とかち合う事になる。戦いになることを恐れた竜の長は人と別の世界に住まいを展開した。
「そのあたりは同感。…しかし人ってのはそういうのが好きだね。…御伽噺だー神話だー…ってさ。ロクに文明だって栄えてないのに、火を燈せばそんな事ばかり言ってる」
 大げさに手を振って、それから肩をすくめる。
「さて、ちょっとこの風には黙っててもらうか」
 帽子を被った銀髪の青年が「ふぅ」と息をつくと二人の周りにごく薄い膜のようなものが覆った。
 簡単に言えばガードのようなものらしい。その証拠に今までばさばさと騒がしく靡いていたマントや髪は落ち着きを取り戻していた。
「…はぁ、もっと早くやってよ」
「はいはい」

 神殿内、そして中庭などは竜のその力で天候に左右される事なく守られている。
 いや、守られているどころか、植物があり、鳥が鳴き。虫が植物の間から顔を出す。それに見慣れていると、こうして神殿から一歩外に出た時に毎度、その世界の違いに眉を吊り上げてしまう。

 彼らは人にしか見えないが、その血と肉は竜族だ。

「? …チェイニー?…何かある」
 風に当たらない針葉樹の下。
「クラウス?」
 彼――――…クラウスと呼ばれた青年は雪原を指差した。
「なんだ…?」
「行ってみようか」

「子供!?」
「まだ、赤ん坊だね…」
 薄荷色の髪がふわふわと揺れている。
 小さな籠に白い布に包まれた赤子――――…まだ、生まれて間もないであろうその子は金で出来た筒の髪飾りを小さな手で握って、泣きもせず、ただ、眠っていた。
「竜石?……竜族か」
 赤子の隣に光るものがある。押し込められたそれは竜石。竜の本性を封じ込めた石だ。
「こんな所に人の捨て子がいるわけがないよ」
「まぁね」


 竜の力の衰退が始まり、竜石に力を封じるということが一般的になっていた。だから見た目だけでは人とそう変わらない。
 しかし、皆それに従ったわけではない。石に力を封じる、と言うのは弱い人の身体を主として生きていくという事だ。

 ――誰かが言い出す…「従わず力を残した者が、竜石に力を封じた弱い者を支配するのだろう」と。

 野生化が信じられぬと反抗した者が次々と退化・野生化し、『ただの獣の竜』に成り下がっていた事もあり、竜族は急速にその数を減らしていた。それに加え、出生率も著しく低下していたのだ。
 だからこそ、今は貴重となった『竜族の子供』が捨てられていたことに驚きを隠せない二人であった。

「ふう…。どうしたものかな。……とにかく連れて行こう。こんな所に置き去りにもできない」
 クラウスがため息交じりに手を籠にかけると、弱々しく覆っていたたガードの魔法がぱちんと弾けた。
「!? 随分と弱い…」



 ――――氷竜神殿の一室。
 二人が連れ帰ったその子供を抱いている竜(無論、人の姿だが)。彼は、竜族でも最も地位が高い神竜族の長、ナーガだった。
「ナーガ、どうする?この子…」
「………」
 クラウスは黙っていた。
「育てよう」
「この子は神竜?それとも…」
「神竜だ。……ご覧」
 籠に一緒に入っていた美しい石。
 それを、つつ、と指で撫でる。すると、同族に触れられた喜びからか、とくん、と子が親に甘えるように小さく波打った。
「なるほど…。血の共鳴のようなものですか。それに確かにその石は神竜族の物。……しかし珍しいですね。竜族の子供…しかも神竜族」
「どういう事かねぇ?…ま、大方この子の親も退化の寸前だった、って所かな」
「(…かもね)」
 クラウスはチェイニーの言葉に思わず頷いた。
 理由は簡単。籠を守っていたガードの魔法が弱すぎたからだ。本当に捨てたのならガードなどかける必要もないし、何も神殿の近くに置かなくとも良いものだ。
 だが、見つけて欲しいように神殿の近くにあり、また、ガードの魔法が掛けられていた。
 それは恐らくこの子にしてあげられる最後の護りの魔法であったのだろう、と。

「……。二人とも、見つけて来た責任は取りなさい。兄妹として」
「…はい、分かりました」
「はいはい。で、名前はどうするんだい?」


「……うむ。…名前は――――…」





冒頭部分は箱田漫画の「野望の末路」です。
あのときのチェイニーってマルス様のカッコしていたのですが、花冠作りながら頭の中は真面目だったようです(笑)。

恐らくFE小説で一番最初に書いていたやつ…だったと思います。
しかもいまだにちゃんと終わってないので(マタデスカ…)、
500年程度(アンリの戦争が終わった辺りですね)で切り上げます。
クラウスがやっぱり敬語じゃないのですが、相手がチェイニーで同じ位?みたいな雰囲気で書いているので
…ということでどうでしょうか…。個人的には漫画クラウスより見た目年齢がちょっと上な雰囲気。

いろいろ捻じ曲げている箇所もあると思われますが、その辺は…生暖かい目で(笑)見てやってくださいまし。
詳しくやってるとそれこそ1000年単位になるので、かなり端折ってます。
そして勿論ですがジョルジュが出てきません。掠ってもいません。当たり前だよね…遠い目。


 NEXT TOP