1:魔道の聖域
暗黒戦争終了後〜英雄戦争までの空白の時間
*オリジナル要素があります。苦手な方は閲覧注意。 まずはこちらからどうぞ



 ――――魔道の国 カダイン
 暗黒戦争から約一年が経過しようとしていた。



「先生ー!!」
 カダインの魔道学院に弟子の声が響く。
「なんじゃ、マリク、…相変わらず騒々しいのう」
 相変わらずお茶をすするウェンデル司祭。元最高司祭ガーネフが倒れた後、ウェンデルはここカダインの最高司祭となった。
「あ、すみません!あの…!」
 肩で息をするマリクの後ろで声がする。

「―――マリク、いーい?おっじゃましまーす! どーも!お久し振りです!先生!!」
「? …おお、エスナか!元気じゃったか?」
「はいっ!先生もお元気そうでなによりです」
「お主マケドニアではなかったのかの?」
 言いながら、棚からカップを取り出し、茶を淹れ、エスナの近くに置く。
「はい、もう一度。ここで修行をやり直したくてやってきました、先生のような立派な司祭になりたくて。 ……どうかお願いします!!」
「そうか、いいじゃろう。…――全く、突然来るのは変わってないの」
「でも先生。とりあえず再入学許可申請の手紙は出しておいたんですよ?私の方が来るのが早かっただけなんです!」
「(普通申請下りてから出発するよね…)」)
 会話を横で聞きながら、苦笑するマリク。――ただ、カダインで学んだこの友は時を経ても変わってない、と安堵する。
「ほっほ。まぁよい。……先日マリア姫が戻ったばかりじゃったが、また賑やかになるのぅ」
「ふふ、じゃあまたお願いします!! …そして頂きます! マリアとは入れ違いだったんですね。ちょっと残念…」
 目の前に置かれたカップを受け取り、久しぶりだーとにこにこしながら飲む。
 気が付くとマリクの分まで用意されていたので、マリクはまた苦笑しながらそれを受け取った。
「飲み終わったら、部屋に案内するよ」
「うん、ありがと」


「はい、ここだよ。…前と同じ所だね」
 マリクは部屋の鍵をエスナに手渡すと、荷物を運んだ。
「ありがと!……。ね、なんか随分静かじゃない?」
 いくつか通ってきた部屋のドアは全て閉まっていた。ただ閉まっているわけではない、生活感を感じなかったのだ。
「ああ…、うん、戦争終ったばかりだろ?ここも結構壊されてるし。だから国に帰ったりしてる人も多いみたいなんだ」
 先程「時を経ても変わってない」と思い、それに安堵したが、こうして少しずつ周囲は変わっていく。何人もいた友も、戦争がはじまり、人が変わったように冷たくなった者もいた。

「へえ…確かにね。……。でもマリク。 ―――ふふ、リンダに負けないようにしてるんでしょ」
「はぁ!?」
 好奇心ありげな目でマリクを見つめる。マリクは面白いように顔を真っ赤にしながら。
「! リ、リンダとか、別に関係ないよ!ぼ、ぼくはっ……カダインの復興をするためにっ…!」
「あははー」
 笑顔を見せ、ぽんっとマリクの肩を叩く。どうもこの顔をされると憎めない。
「マリクったら、小さい時と全然変わってないよ、でもね、マリクのそういうとこ、私は好きだよ」
「もう、エスナ。…昔じゃないんだから、君も変わってないよ。…ああ、そうだ。町にでも行ってきなよ。まだ陽も高いしさ」
「うん、あ、目貫通りのパン屋さん、まだある?」
「あるよ。行くんだったら僕のも頼もうかなー……―――と、あとこれは先生から」
「?」
 茶封筒。開けると小さな紙切れ。
 開いてみるといわゆる「買い物メモ」だ。
「…ええと、ブリザー2、ファイアー1、エルファイアー3…あと、ラウリーナ通りの茶葉屋のお茶。 ――――なるほど。つまり私が町に行く事見越してたんだね」
「………。あれ、買い物メモだったんだ」
「知らなかったの?」
 封筒の中には勿論、お金も入っていて。
「知らないよ。勝手に見るわけないだろ。…じゃあ先生のお許しもあるってことで行ってらっしゃい」
「はいはい。じゃあ何のパンがいいか追記しといて!」



 久々に見るその町は不思議なものだった。先の戦では人を傷つける為の魔法があらこちで飛び交い、こうして町をゆっくり歩く暇さえなかったのだから。
 町の中心にある大聖堂は先の戦で半壊したのだが、それも今は足場が掛っていて修復中だった。
「聖堂のステンドグラス…ちゃんと直してくれるのかなぁ、私好きなんだけど」
 先程パン屋で購入したチーズのパンを齧りながら見上げる。
 そのまま町をぶらぶら歩きながら、ウェンデルに頼まれた魔道書などを買い込んで行く。
「(…しっかし…買い物メモ、よく見たら裏まであったし。…これ以上大変になったらマリクかエルレーン呼んじゃおうかな…それか宅配ー…あとは一度戻ってー…)」
 むー、と考えてみるが、あまりいい案が浮ばず。とりあえず次の目的地へと足を向ける。
「(あ、近道)」
 通りと通りを結ぶ小さな通路が目に入る。



「! あ」
 ぞくり、と全身が粟立つ。
 カダインのような神聖な土地にもやはりならず者はいると、しまったと思った時にはすでに遅かった。
「魔道士じゃなくて。 なんで、傭兵!? ……マリク…!」
 ざり、小石を踏む音が前後から聞こえてくる。
 大きな剣を携えた者たちが数人。ファイアーでもサンダーでも使えればもしかしたらこの通りくらいは駆け抜けられるかもしれない。だが。

「どうしよう…!」
 まがい物程度の攻撃魔法は打てるようにはなっていた。しかし、その力を呼び出す事が、身に宿す事が怖くて、何か標的に対しては使った事がなかった。
 それに、まともな攻撃魔法ならまだしも、まがい物程度では彼らを完全に撒く事は出来ないだろう。足もあちらが早いに決まっている。

「……っ」
 攻撃の魔法を手にすると、身体の奥がどくんと波打つ気がするのだ。
 ――――お前が今、それを使っていいのか?――――と。
「(そんなこと言われたって…!じゃあいつから使ってもいいのよ…っ!!)」

 逃げようと足を動かすが、意識とは反対に身体がうまく動かない。完全に竦んでしまっている。


「あ…」
 頭がくらくらと揺れている。息が上がって気持ちが悪い。

 ぎゅっと、目を閉じて。





暗黒戦争〜英雄戦争の間。なにしてたんだろうみたいな感じ。
またファイル分けたら数話になってしまったので続く。

テキトウな通りの名前を思いつかなかったので、ローマにある通りを入れてみた。
そしてパン屋さんは勿論マンガでマリクがリンダに案内しようとしていたパン屋さん。


 NEXT TOP