野望の末路 前編
箱田FE 「MAP58:野望の末路」のその後
*オリジナル要素があります。苦手な方は閲覧注意。 まずはこちらからどうぞ



昔から、今生きている人が居なかった、ずっと前から、一緒だったと思う――――。




「燃やしてやる…燃やしてやるさ。こんな世界なんて! 世界を焼き尽くすまで続く…それが僕の復讐なんだ!消し飛ぶがいい!虫けらども…!」

 クラウスの魔法の背後からまた別の…風の魔法がクラウスを襲い――――。



 その、少し前。

 ―――――ざああああ…。
「…………ッ」
 風が木々を揺らして。
 ふと見上げる。
「どうしたの、エスナ」
「! ううん、なんでもないよ。マリア…」

 ――どくん。
 胸が嫌な鳴り方をする。警笛のように。

「(なんだろう、これ…)」
 エスナは「そちら」の方角を簡単に見つけ出して見つめた。
「グラでも…感じた、……なんか懐かしい…」

 ――――たくさんの苦痛の叫びが聞こえたあの魔法陣。
 皆は恐ろしい力だと言っていたあの魔法。
 確かに魔法自体は恐ろしかった。…だが。
「私、この感じ…知っている気がする」

「ねえ! 教えてやろうか?」
「は!? あれ、マリア…じゃな…っ?」
 今しがた、確かにマリアに話しかけられた筈。しかし声に驚いて振り向いた先にはマリアではなく。
「チェイニー!? なんだ、変身してたんだ。ああ、でもマルス様の影武者だったんじゃ…?」
「へーきへーき。その辺ぬかってないからさ。………――――それより」
 手をひらひら振りながら、笑う。それから直ぐに笑みを潜めた。
「何を…?」
「勿論、そっちの方向に何があるか、さ。 とりあえずは見に行ってみなよ」
 目を細めて、そちらの方向を見据える。

 一瞬、その瞳に人在らざる気配を湛えて。






「何っ…」
「ッ!!」
 ワープの術の魔法陣が浮き上がり、次の瞬間に現れた薄荷色の髪。それは、マリクの風の魔法から庇うように。
「エスナ!? こんな所に来たら!」
「マ…リク、ごめん! ここは任せて」

 マリクを手で押さえるようにして、クラウスの前に来る。
「ふふ、それはサイレスですか。魔力はただのシスター。…そんな程度では僕の魔法は遮れませんよ…っ!」
 睨まれ、びくんと身体が揺れる、が。それは睨まれた恐怖ではない。
「――――!! …わ、私」
 初めて目にしたその姿。
 目の前が歪む。
「う…ッ」
 姿を目にした瞬間、一瞬でたくさんの情報を頭に叩き込まれる。痛くて気持ちが悪い感覚が襲ってくる。よろけ、倒れそうになるのを、脚を踏ん張ってどうにか耐える。
「――〜っは! ……あぁ…、ホントに…そう、だった…?」
 まるで、暫く振りに水の中から出られた者ように、息を大きく吸い、吐く。


*


『ああ、………―――。そこにいたのか』
 声をかけると、笑って顔を上げる。
 薄荷色の髪。赤い石がついた金の髪飾り。首を傾げると、銀の飾りがしゃらりと音をさせる。
 髪と同じ色の石、銀と金であしらわれた魔道の杖。

 ――僕の、…僕らの大事な…――


*


 その異変はエスナだけではなく、クラウスも同じだった。軽い呼吸を繰り返し、目の前にいるシスターに釘付けになる。
 クラウスの脳裏に一瞬で蘇る姿。
「!!」
 懐かしい空気、その瞳、声。
「? あ…兄 さま…?」
「!? 何を!あの子はもう…死んでいるんですよ!!」
 信じられないという顔で、一歩一歩後退り壁につく。
「あの子は…っ!バカな…!?そのように…僕を呼ぶな…っ」

「…アベル!? ……エスナ!」
 マリクに遅れて現れたマルスは目を見張った。
「王子!」
「…――――ッ、…ああ!マルス王子ですか…!…ちょうどいい、ここで…終わりにしてやる」
 頭をぶんぶんと振って、エスナを強引に視線から追い出して。
「やめてよ!…お願い!…兄様!!」
 だが、名を呼ぶと明らかに動揺する。

「く…あの子は! エスナなんて居はしない!あの子はあの戦いで!二度も死んだんだ…! 人間なんて殺してやる…!……――――ボル、ガノン!」
「(二度…?)」
 マルスの目が怪訝そうに揺れた。
「……――――ッ! っあ!!」
 魔法力に差があり、サイレスの魔法で消しきれないのか、エスナの前で弾けた魔法。術の反動で痛みに顔をしかめているその顔を見て、クラウスの手がだらりと下がった。


「……あの子はっ…」
 くしゃっと前髪を掴んで、頭を振る。
 エスナはよろめきながらもクラウスの元に行くと、その身体を抱きしめて、早口で捲くし立てるように。
「私! …私、――――気が付いていたのかもしれない。ずっと懐かしいって思ってた。…グラの魔法陣、…ミネルバ様がやられた時…! どうして…?姿を見なきゃ思い出せなかったんだろう…」

「…エスナ?」

「あの戦いを思い出したくなかったのかなぁ…。あの日もこんな天気だった…」
「クラウスは……エスナの…?」
 今、マルスたちの前にある光景は、信じられないものだった。
 悪魔と言われた魔道士が、ボロボロの姿で佇んでいる。そしてよく知る軍のシスターが泣きながらその身体に縋っている。
「…ふ…ふふ……」
 縋るような手で、マルスたちの方向に手が上げられるが、魔法は撃たれない。手は小刻みに震え、真っ直ぐと保っているのもやっとのようだ。
「ごめっ…! ホントは…こんな風にはっ! ねえ…エスナ、ずっと側にいる。…だから、もう、やめよう…!ねえ……クラウス兄さまっ!」

「………――――本当に、君なんだ…?」
 すうっと、魔法の構えをした手が下りる。薄荷色の髪を梳いて、肩に腕を回す。
「ああ、本当だ。そうだ、エスナだ…。僕らには…もっと成長した姿がある…と」
「兄、さ…?」
「でもね。……もう、遅い。君は何も悪くないよ。血に濡れるのは僕だけでいい…。この身に強大な魔道の力を植え直したのは僕の意思なんだ…。それこそ…もう、どうなっても良い、とね」
 驚く程、しっかりした声。
「あの時より、…力は劣っているというのにね…」
 ふ、と自嘲的に笑う。
「!? …そんなんじゃない。私が…」

「クラウス、…君は亡くなった…エスナの為に?」
 そこまで黙っていたマルスはようやく声を出せた。
 亡くなったなんてない。エスナはそこに居るのだから。だが、クラウスが何かを勘違いしていたというのは今の話の流れで分かる。
 今まで、マルスの中のクラウスは恐れと憎しみしかなかった。話し合いでどうにかなる相手ではないと思っていた。――だが、今この目の前にいるクラウスには。
「(…私は……このクラウスを…、憎めるのか…?)」
 ――私には、こうして傍に居てくれる仲間が、友がいた。だが、クラウスには誰もいなかった。たった一人の家族を殺されて…。

「! ―――ふふ…哀れみの目か…冗談じゃない。お前たちが!人間どもが…我らに干渉しなければ…!あんな戦いしなければ!……こんなことにはならなかったんだ!!」
 絞り出すような声で、叫ぶ。
「(我らに…!?)」
「クラウスっ!」
「僕は…復讐をしなければ…こんなんじゃ死に切れない!」
「ここまで、追い詰められて…。聞いてくれクラウス!」
「うるさい!殺してやる!…こんな世界消してやるんだ…!!」
 エスナを突き飛ばし、魔法の詠唱をはじめる。
「!? ダメ!クラウス兄さまっ…!!やめ……っ」

 マルスの首筋に手をかけて睨む。それは、苦しみに満ちた顔だった。


「マルス様っ!!」
「クラ……!やめ…!」

 大きな光りに目を細めながらも手を伸ばす。
 駆け寄って触れる距離まで来た筈なのに、手には何も感じず。微かな風と共に、痕跡が消える。
「…―――クラウス…」

 白い羽が幾重に舞う。

「……あ…!……」
「エス……!なに…」


―――…僕は…「あの時」君を残したこと、後悔はしていないよ…―――


 ―――かつんっ…。
 何かが零れる音。


「―――ッ……や…!」


 次の瞬間。
 どん、と大きな音を立てて砦の柱が崩れ始めた。支えを失った天井がばらばらと落ちてくる。
「うわっ!なんだ…!?王子…ここは危険です…!」
「崩れてる!?…マルス様!…エスナ!!」
 それでもその場を離れようとしない。 クラウスが立っていた場所を凝視して立ちつくしている。
「エスナ!」
「………―――――…う!?」
「カイン…」
「こうでもしないと、ここから動きませんよ。…さ!マルス様、お早く」
「……ああ」


 それからすぐに戦いも終息に向かっていった。ホルスタット率いる騎馬部隊も歴戦の勇者たちには歯が立たなかったのだ。
 マルスはアベルが帰ってきてくれたこと、カインの心遣いに言葉もなかった。






「う、ん………クラ…」
「あ、気が付いた」
「! バカね!サイレスなんて無理して! でも、良かったー!心配したのよ…!」
 リンダは目に浮かんできた涙を、慌てて擦りながら、それでも笑顔を見せた。
「!…あ、マリク…リンダ……?ここ――」
 エスナが気が付いた時は丁度、アリティアが戻ったという宴の最中だった。遠く、宴の騒ぎがここまで届いてくる。
「…居てくれたの、二人とも」
「うん、あ〜、大丈夫よ。ちゃーんと食べるものは食べてきたから。エスナの分もほら、そこにあるのよ」
「あは…ありがと、あとで食べる」
「マルス様、さっきまでいたんだよ」
「あ。そっか……――――ごめん。 もう、平気だから…」

「! ……わかった」
「何かあったら呼んでね」
 二人、顔を見合わせ。何か言いたそうに口が開いたが、それ以上何も出なかった。
「ん…ありがと」
 小さく手を振り、二人を見送る。
 二人がいなくなると、ベッドから降りて窓を開けた。いまだに遠く、「砦」があった方向から細く煙が立っている。
「………あっち…か…」
 場所を確認すると、まず窓辺の机に着き、引き出しから紙を数枚取り出した。
 考え、考えながら、文章を完成させ、それが飛ばないように女神像を模ったガラスの文鎮を置く。





暴走してるのはクラウスではなく私です。

ゲームというか完全漫画寄りですね。冒頭部分は漫画の流れです。
本編沿いで行くってあまりしないのですが、ほら、タイプ練習の一環で打ち込んでたから(笑)。
しかしアベルが戻ってきた感動のシーンなのにアベルあまり出てこなくてごめんなさい。

今やってる長編?の補足的なものです…。長くなってしまったので2話に分けます。
クラウスは敬語口調ですが…きょうだいにもそれは…しないでしょう、と思い…。


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