むきだしの鉄管


「あー、リボン何処行ったかなぁ、こないだ服と洗ったまでは覚えてんだけど」
 きょろきょろと洗濯場を見回してから。
「ま、いいかお風呂の用意しよ。アルとエドも入るよねー。……って!―――つめたっ!コレじゃ今日ムリ!?あ〜楽しみにしてたのに!!」
 ――――それが今日の大問題。




「ふう…こんなの、錬金術がありゃあ…一瞬で出来るんだけどな…」
「――――え?何か言いましたか?」
「! いや、なんでもね」
 アルフォンスはかすかに聞こえたエドワードの声に反応しただけで内容まで聞き取れなかったようだった。「そうですか」と言うとまた作業に戻ったらしい。

「ごめんねー、エド、アル。ここも古いから」
 声とともに現れる姿。…といってもこの部屋が狭いので顔だけ現れた感じだった。
「いえ、仕方ないですよ」
「お夕飯、奮発するから」
 グレイシアはそう笑いかけると、適当な台にコーヒーカップを二つ置いて去って行った。
「だな。うっし、とっとと終わりにしようぜ」
「はい」


「どーだった?」
「どうもこうも、頑張ってくれてるけどどうかしらねー…専門じゃないんだから難しいかな」
 店に戻ってきたグレイシアは、うーん、と唸りながらそう答えた。
「言わなきゃよかったかな、お湯のパイプとかって結構熱くなるし」
 実はサエナはそのパイプでやけど経験があったりする。
 壁にむき出しになっている水が通るパイプは燃料でも薪でも熱くなるのには変わりはない。だから不注意で軽いやけど、というのは珍しい話ではない。
「じゃあ、行かない方がいいわよ。サエが行ったって邪魔なだけでしょ?」
「ふぁーい…」


 ――――そう、今日の大問題は水道のパイプだった。突然壊れたのかなんなのか、全くお湯が出なくなってしまったのだ。
 この所為で今日は風呂に入る!と意気込んでいたサエナは昼間っから気分真っ暗だった。
 そこへいつものようになんとなーく聞いてしまったエドワードが、アルフォンスが「直せるもんだったら直そう」と立ち上がった。
 …という訳で二人がいるところは一階の洗濯場、水道関係のパイプが集中してあるところだった。

「(機械に精通してなきゃいけないぼくがストーブの時はいいとこ見せられなかったし、…それよりこんなんじゃサエナもグレイシアさんも困るだろうし…と言うかぼくも油まみれのままは勘弁)」
「(あー、ちくしょ、錬金術ってホントに便利だったよなぁ…)」
 それぞれの頭の中はこんな感じで作業は進んでいく。


 その集合パイプの場所は、洗濯場と言う性質上、アパートの他の住民達ももちろん使っているわけで、誰かがここに来る度にどちらかが説明しなければならない。
 これも最初は良かった。しかし、その対応も(作業に集中していれば)段々億劫になってくる。
「………。おい、説明係つけようぜ」
「その考えは…賛成です」
 そうして二人は(グレイシアより手が空く)サエナを出入口に置いた。最初のうちは声をかけていたサエナも熱中する二人を黙って眺めるようになった。

「(直るかなー)」
 椅子に座って、膝に頬杖ついて。
 ここからは背中しか見えないけれど、それでもたまに見える横顔がエドワードもアルフォンスも真剣そのものだ。
「(…あ)」
 いつも研究室での顔はこんな感じなのだろうか。そうだ、図面に向かっている時はこんな顔だった。
「ふふー…」
「オイ、ヘンな声出すな、キモチワルイ」
「! むっか!」
 背中を向けたままエドワードが声に反応する。
「………。ねー、今日お風呂入れるようになったら私、最後でいいよー」
「ええ?」
「はっ、そんな順番争ってどーすんだよ」
 見えないけれど、笑った声で答えてくれるから、サエナはまた笑う。

 二人の方を見ていたサエナの視界に何か入った。
「あ〜…??なんだろ」
 二人と壁の間をすり抜けるようにしてそこにたどり着く。そこは最もパイプが入り組んでいる真下だった。ソレに手を伸ばして引っ張る。
「あれ、こんなとこにあっ――――」
 ソレを引き上げて、手を頭がパイプにぶつからないように上に添え、頭を上げるところで、
「! サエナ!」
「? バカ!!立ち上がるなっ!!」
「へ? っきゃ!」
 がちゃん!
 しゅうしゅうという蒸気のような音と、金属が擦れる音。
 エドワードの長い髪が頬を掠めてて、我に返った途端、エドワードの怒号が耳元で響いた。
「――っバカ!!お前、上ちゃんと見ろ!この辺のはみんな熱くなってんだぞ!素手でなんて掴めないんだからな!」
 見ると、義手がパイプを掴んでいた。エドワードはサエナとパイプの間に入るようにかばっている。エドワードの反射神経には流石についてこられなかったアルフォンスは、二人の無事を確認してから、ふうと息をつくことしか出来なかった。
「全く…、触る前でよかったよ」
「あ…ごめん」
「ったく、なんだよ。…ってなんだそのヒモ」
 それはサエナが先程拾った「ソレ」
「こないだなくしたと思ってたリボン、洗った時に落したみたい」
 要するに服についているものだった。
「…どーでもいい代物で危うくやけどかよ」
「だから、ごめんって…」


「あ、直ってる。…ほら、エドワードさん」
 今までうんともすんとも言わなかったメーターが正常値を指している。

「「うええ!?」」
「なんで、だ?」
「さ、さぁ…、まだ原因はいろいろあったと思うんですけど…」
 二人でメーターを愕然と眺めながら、呟く。
「さっすが!やったー!ありがと二人ともー!」
 エドワードとアルフォンスのその声もサエナに届く事はなかった。「よし、シア姉に報告―」と二人の腕を抱きしめて、二人を引きずるようにぐいぐいと引っ張ってその部屋を後にする。

「「(で、でも、何もしてないっ!)」」



 こうして今晩も無事にお風呂に入れたサエナ。しかし、エドワードもアルフォンスも今ひとつ納得できなかった。
 殴ったり、衝撃を与えたりすると機械は直ることがある。もちろんアルフォンスはそんな事は信じてはいないが……でも、そう、こういうこともある、らしい。


「あ、やだ、リボン焦げてる!どっかひっかかったのかなぁ…」
「「(まさかそれ!?)」」





まさかのオチナシ(爆笑)。なーんでこわれーたのかなー(最低)。
直してくれるなら期待しちゃうよ!

自分で書いててオチが見つからなくて困りました。
結局タダの燃料不足(爆)。すみません…こんなんで。
ちょっとかっこいいのはエドワードです。
パイプがむき出しというのはかっこいいですわ。今でもこうですわ。

いいとこ見せられなかったハイデリヒは、悔しいので家の保守関係の本とか借りてきちゃうんですよ(笑)。

ハイデリヒが言っていたストーブの話はこちら。

2009.04.13


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