真冬並み


「なんだ、二階じゃなかったのか」
「ただいま。サエナ」
「お帰り!アル、エド」

 いつもの夕方、花屋の店先。
 サエナはずり落ちてきたストールを掛けなおしながら。
「あ〜…二階、行かない方がいいかもよ?」
 店の直ぐ横にある扉。そこに二階への廊下がある。
 エドワードはドアに手をかけながらその言葉に眉をくっと吊り上げた。
「?…なんでだよ」
「…え?」
 疑問符いっぱいの二人の顔を苦笑して、見る。





「――――ね?」

 リビングの扉を開けてまた苦笑。
「なんだよ、これ」
「……朝、壊れてた?」

 すごー…く寒い部屋の中。
 窓辺にあるストーブは…全く動いていなかった。
 いつもなら、いつもなら…二人が帰ってくる時間には部屋を暖めておくのに。


「原因わかんないんだけどね、…ストーブ動かなくなっちゃって」
 朝、二人が出かけてからのいきさつをかいつまんで話す。
 ――――とにかく、ストーブがいきなり壊れて…明日の朝まで修理に来ないと言うこと。そして、今日はとても寒いと言うこと。

「昼間…大丈夫だった?寒かったけど」
 アルフォンスがそう心配する。
「平気。一階なら寒くなかったから。それに動いてたし」
「じゃ、どうすっか…」
 こんこん、軽くストーブを小突きながらエドワードがそうつぶやいた。
「うーん……ぼくらで直せないかな」
「そうだな。やるだけやってみるか?」
「そうですね」
「あ…危なくない?やめようよ、いきなり熱くなったら大変だし」
「ん、大丈夫だよ、そこまでになったら引き下がるから。それにそんなに熱くならないよ、これ」
 それに、『夜、寒いと困るでしょ?』と付け加えて。
「そうそう。だいたい、『熱くなったら』直ったってことだろ?」


 工具を並べていろいろ分解して…ああだこうだと頭を並べて話していたが…。

「ダメだったな」
 はあ…。と息をつく。
 結局、熱くもならなかったストーブ。
「大元がダメみたいだな、機械だけの故障ならどうにかなったと思ったけど」
「…ごめん、サエナ。期待させた」
「いいよ〜…そんな」



 ――――さて、そんなこんなで夜も更けていく。
 夕食はビアホールに行ったのでその間は忘れていたが、帰ってくると…とたんに現実に引き戻され、とても渋い気分になる。
「寒…ッ」
「ビアホール暖かかったもんね…」
「………」
 何故か二階の暖房器具が全てダウンしているらしく、部屋に戻るわけにもいかない。
 長めのひざ掛けをぐるりと巻きスカートのように巻く。
「妙なカッコ」
「うるさいなぁ〜。あ、二人も巻く?」
「いらねえよ」
「はは…ちょっと遠慮しておく」
 『男が出来るか、そんなの』二人の頭には同時にその言葉が浮かんだ。


「――――って、これからどうします?」
「……寝るか。朝になれば修理が来るんだろ?」
「いや、それはまずいですよ」
 そう言いながらカバンの中から何枚かの紙を取り出して机に広げ、エドワードに視線を向けた。
「あ〜そうだったな、明日までの資料があったか」
 あちゃ〜と言うように額に手を当てる。
「サエナは寝たら?このままここにいても寒いだけだよ?」
「ん……。ここまで寒かったら逆に寝られないよ」
 そのまま寝るのは悪い気がして。





「――――で、結局さ…」

 ごくり。

「その扉を開けても誰もいなかったんだ…!後にこの事件は東方司令部の上層部まで行ってさ…」
「そんな大きい事件になったんですか…」
「…なんで誰もいなかったのかな、幽霊かなっ…?」
「さあ、どうだろうなぁ…?へへへ」
「ヘンな風に笑わないでよエド!」


「よっし!次はサエナだな」
「え、ちょっと待ってよ、ええとぉ…」
 ゆらゆらとろうそくの明かりが顔を照らす。
「…――――何で怪談なんてしてるんですか…ぼくたち。…って言うか、前にもこんなことあったような…」

「「………」」

「そりゃ、アレだな。ろうそくって言ったら怪談だろ」
「うわー…単純ー…」
「うるせえな、他になんかあるのかよ?」
 少し前、寒いので『とりあえず火でも』と、ろうそくを出してきた。
 そうしたらなんとなく…怪談の話になり…今に至る。
「でも、…もっと寒くなるような気が…」
「ああ…」
「うん…」

 三人、リビングのカーペットにそのまま座って毛布を頭から被っている。傍から見ればトゥーレ協会もびっくりな妙なオカルト集団のようだ。
「…なんつーか……起きてても意味ないな。これ」
 エドワードがぼそっと言う。
「エドが言い出したんだよ、怪談」
「…あはは」
「……どうするか」
「とりあえず…立ち上がるのも面倒〜…」
 毛布の前を再度きつくあわせる。
「だよなぁ…。布団、冷え切ってるだろうし」
「………資料は『明日研究室で』…ってことになったんですね」
「ああ…こんなんじゃやる気もしないだろ」
「ええ…」

「「「はあ…」」」

 同時にため息。
 その息も白く白く…。






「何かの事件かと思ったわよ」

 後にグレイシアはそう語る。
「だって合鍵でドア開けたら…三人で転がってるのよ。何かと思うじゃない!」

 翌朝。
 ストーブの修理工が来たのに誰も二階から降りてこない。だから、グレイシアが見に来たのだ。

「よく風邪引かなかったわね」
「んー……う、眠…」





「ハイデリヒ、資料やってこないなんて珍しいよな」
 研究室の朝。
 エドワードとアルフォンスは夜に出来なかった資料に向かっていた。
「…ああ……」
 げんなり、と言った感じのアルフォンス。
「うー痛て…床にそのまま寝るのってやっぱり肩こるよな…」
 首に手を当てるエドワード。


「エドワードさん」
「あ?」

「ストーブ、今日は直ってるといいですね…」
「だな…」
 ぼーっと答えるエドワードの頭の中では構築式が出来上がっていた。





まあ、とにかく寒かったんです。
ろうそくと言えば怪談話なのです。

宿題(?)しないで結局寝てしまったんです。

布団に戻るのめんどくさくて、そのまま寝てしまったんです。

ありがち(笑)。


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