幸せの…
少し離れた所で、緑の絨毯に座って。 服の裾なんて気にしないかのように、座り込んでこちらからは背を向けている。たまに傾げる首が、その頭の動きで柔らかい髪が揺れていた。 「(何してるんだろ)」 アルフォンスはその背を眺めながら首をかしげた。 もちろん、今回の外出もサエナから誘われた。だから、何かしたいのかと思っていたのに、広場に付いた途端こうだ。 「……ふぅん」 いつも同じようなふわふわヒラヒラの服。 「(まぁ、同じようなって所はぼくも人の事言えないけど)」と、思ってから「エドワードさんもか」と付け加えた。 アルフォンスはぼーっと眺めながら…、それから「はっ」として今度は持ってきた資料に目を落して、ぽりぽりと頭を掻いた。 ――――春先。 まだまだ肌寒い日が続いてはいるけれど、陽の当たる場所ならぽかぽかと暖かい。彼は今までそんなことさえも知らなかった。春先なんてまだ外でだらだらするものじゃない、位に思っていたから。 しかし、「缶詰してたらキノコが生える!」とサエナに耳元で叫ばれること早、数日。 「(確かに、暖かいことは嘘じゃない、か。…気持ちいい)」 過剰な厚着にならない程度の外套を持たされた。 そして「今日行こう、今行こう」と言われたのは、多分今日は風がなかったから?と、ここに来て思った。 「アール!」 「うわっ!!…な、何?」 「あっはは、驚きすぎッ!!」 それまでアルフォンスから少し離れた所にいたサエナが気が付いたら隣。 「どぉ?進んだ?」 「え? ……。ああ、進むもなにも…(書いてないし、書けないし)」 苦笑したからサエナは少しむっとして。 「あーあー、そうですか。あーの司書さんがいる図書館がイイワケですかー」 「……え…」 「頭からキノコ生えても教えてあげないから」 「サエ…」 ふん、と立ち上がって、また少し遠くに行って背を向けて座り込んでしまった。 ばふっとスカートが揺れて、また髪がはねる。 「何怒ってるんだ…?」 「こんなに怒りっぽかったっけ?」と、疑問符いっぱいのアルフォンスはため息をつきながらまた図面と資料に目を落した。 数十分後。 「…う……首、痛」 集中していたからか、頭の重みに首が悲鳴を上げ始めて、首をさすった。 ついでに、目を上げてアルフォンスはサエナの方を振り向いた。その背は数十分前と全く同じように見えて。 いつも構われる方なので逆に何もされないと少し不安になって、「サエナ?」と声をかけてみるも…。 「………」 そのまま無言。 図面が飛ばないように本で押さえて立ち上がる。 「サエナ」 「うわぁっ!??」 今度はアルフォンスからサエナの背、直ぐのところまで来て声をかける。どうやら先程の呼びかけには無視してていたのではなくて、気が付かなかったらしい。 「ええと、何、してた?」 サエナの視線にあわせるように隣に腰掛ける。 「べーつに」 「………。ごめん」 「なんで謝って…?」 「いや、あの」 アルフォンスのその微妙な表情にサエナは首を傾げる。 それから数秒して先程のことを思い出したのか眉をひそめて「わかんないのに謝らないでよ」と呟いた。 「う…」 「…も、もう帰ろっか。エド、古本屋に行ってるんでしょ。でさ、会えたら〜…そだ、おやつにしようよ。こないだね、イタリア人がやってるバール見つけたんだよ」 笑いながら立ち上がる。 「…サエナ!」 サエナが立ち上がったところで、青い葉が何枚か落ちた。…たまたまにしては量がある。 それは座っていたアルフォンスの目の前を落ちていった。 「クローバー…?」 「あ」 その中の一枚がアルフォンスのズボンに舞い降りた。 四葉を期待してしまいそうだが、三つ葉の普通のクローバー。 「はは、探してたんだ?」 「子供っぽいって言いたい……」と、そこまで強く(照れ混じりに)返したが、アルフォンスの顔があまりにも楽しそうに緩んでいたのでサエナは言葉を止めてしまった。 「見つからなかった!…たまにそうかなーって思って折っちゃったけど…あはは、そりゃそうだよね、そんなに早く見つかったら四つ葉の意味ないよね」 座ったままのアルフォンスの隣にまた、座りなおして。 「何枚も取れたらさぁ、…押し花にしてー…アルとエドに。あ、私も欲しいし」 「……」 「十字架って意味なんだって。…こないだ図書館で見た絵本みたいなのに描いてあってね。何かよさそうじゃない?」 この時季なら、何処の公園、何処の広場に行ってもクローバーが咲いている場所なんていくらでもある。 「アルも……」 「あ、…あった」 「!? うそぉおおおおおお!???なにそれ〜!!!」 近くにいたアルフォンスはその声にびくッと肩を震わせたが、苦笑しながら指をさした。 「ほら、そこ」 そこには、なるほど、確かに四葉のクローバー。 「ええええ!!!なんで!私、こーんなにも時間かかったのに!」 があっくりと肩を落して、頭を落して。 「時間かかっても1枚もッ…!」 落した頭をずずっと傾けてアルフォンスの肩に。 「…幸運の女神様はアルに笑ったってこと?」 「……ええ?」 「ま、いいよ。もう。とりあえずここにはあるって事が分かったし」 苦笑しながら四葉のクローバーに手を伸ばすアルフォンスの腕を止めるかのように、サエナはその腕を抱きしめて、立ち上がる。 「サエナ?」 「3枚。…いや、4枚、確認するまでは取らないの。だって、シア姉に手伝ってもらってキレイに作りたいでしょ。だったらシア姉の分も取らないと怒るよね」 「……」 「また来よ? ね、キノコ生えないようにさ。ちゃんと私が連れ出してあげるよ、仕方ないなぁ」 「ああ」 風がない日で、こんなぽかぽか陽気の日。いつもと同じような服とは違って、天候は毎度違う。 サエナは多分、毎日毎日、ミュンヘンの空を見て外に出て、気温とか風とかなにやらを自分の身体で確かめていたんだろう。 そう、クローバーを見つけるために、アルフォンスを暖かい陽の中に連れ出すために…キノコが生えないように? 「…ごめん、ありがとう」 「だから何で謝って…」 「連れ出してくれて、さ」 「……へへ」 腕を抱きしめているサエナの手を、もう片方の手で触れて。 「じゃあ、そのオススメのバール、連れて行ってよ」 「オススメもなにもこの前見つけたんだってば」 ――――あれから、4つ、見つかったかは定かではない。 |
12月下旬なのにこんな話(笑)。 これのイメージを考えいていたら、「膝枕してないじゃん」って感じですが…。 ちょっとサエナが怒りっぽいなぁ…。これでいいのかハイデリヒ? 体育の時、外だとさ…校庭の隅で探さなかった?クローバー。 なんか公園とかに行くと探さない? TOP |