お夜食のメニュー
「シア姉、こないだジャム作ったって言ってなかったっけ？」 「え？……あるけど。…！あ〜、なるほどねえ」 グレイシアはくすくすと笑いながら「そっち、丸いビンが並んでるから」と付け加える。 「うん！ありがと！１本もらってく！」 「今度はジャムから作らせないといけないのかしら」 丸いビン、丸いビン〜。と半ば歌いながら駆けていく背を、先ほどの笑いをそのままに見送る。 時は昼ももう３時過ぎ。台所には朝食用のパンがいくつか。表面が固いそれにざくざくとナイフを入れて…上と下に切り離す。 「そのままでもいい、なんて言ってたけどね。どうせだったらパニーノみたいなのと〜、シア姉のジャムと〜」 『マシュマロとかさ、そーゆーモン、…焼いたり揚げたりすんなよ…。世間がなんと言おうともオレがイヤだ！』 「――するかっ！！…もう、エドは〜…こんな時でもツッコミ入れて来るんだから…」 腰に片方手を当てて、くっ、と片方の手でコブシを作る。以前、そんなようなことを言われた事があったのか、『エドワードの声』で頭の中で再生された。 「…ふう、いいのいいの。レバーケーゼとチーズ挟んで…。なんだこれ、結構いけるじゃない」 そして、味見。調子に乗って食べてしまわないように、きちんと二人の分は分けてある。 「エドからは頼まれてないけど、ちゃんと用意してやりますよ〜」 これが、サエナがこの『妙な刻限』に台所に立っている理由だ。 今朝。 「あ。このパン…まだ残ってる？」 朝食の後、ジャケットを羽織り、鞄を肩に掛けながら、思い出したかのように。 「へ？…あ、うん。まだあるよ」 言いながら、それでも籠の中を確認。 「悪いんだけど…、今日の夜、ちょっとかかりそうなんだ。…で」 「ん、夜食でしょ。わかった。いくつかキープしとくよ」 パンをどん、と用意しておくだけでもいいのだろう。それにバター缶でもくっつけておけば立派な夜食になる。 でも、どうせだったら、喜んでもらえた方がいい。 きゅぱ。 丸いビンを開けると出来たてのジャムの甘い香りが漂う。 スプーンに取ってなめてみると買ったものとは違う濃厚なジャム。 「…ん〜」 一人でにこにこしている状況に、暫くしてから恥ずかしくなりながらも残りのパンにもそれを塗ってぱたんと閉じる。 そうこうしながら出来たアルフォンスとエドワードの分の６つのパン。籠に入れて布を掛ける。 「ふっふっふ…。ただのパンだと思ったら大間違い」 布の上から、つん、とそれをつつく。 「……」 アルフォンスはとても素直な性格だから、隠さずに喜んでくれるのだ。 エドワードだって、なんだよ、と言いながらも喜んでくれる。 「早く夜になんないかな〜」 しかし、その前に『夕食』があることを今のサエナは忘れていた。
「！…あれ？」 資料に向かったまま、ろくに見ないでパンを口に運んだから気が付かなかった。 「なんだ、パンだけでいいって言ったのに…。随分手が込んだことしてる…」 ３つ…合計６つのパンはみんな味が違って、挟んである物も違う。 「ヒマなんだろ」 「……」 素直じゃないなぁ、とその顔を見ると、エドワードはパンを咥えながら、もふもふと何か続きを言っている。 「んぐ。……ま、いいんじゃねえ？」 「………。ありがと…って、明日言わなきゃね」 |
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こちら関連？お夜食シリーズ（イミ分からん）。 その話を書いたあと、ふと思いついたものだったので、ちょっと短めですね。 パンを用意するだけでも一苦労なのだろうか（笑）。 パンを用意するだけでもそんなに嬉しいのだろうか。 嬉しいんだろうなぁ…（爆笑）。 何かを作って（買って）相手に渡す時のドキドキ感だろうね。 エドがちょっとわがままというか、言うことキツそうなのは、 「この世界は自分のものじゃない」と思いながらもそれでもこの状況に甘えているから…でいかがでしょうか。 アルと旅をしていたときのようなアクティブ感はないけど…。 22.10.2007 ＴＯＰ |