換気注意報


 壁に備え付けのパイプのストーブは薪ストーブと違って、空気がそう悪くならない。だからか、換気を忘れてしまうことがあるので、暖かい空気はそのままだ。
 考えがまとまらないと、頭の切り替えと銘打って換気、冷たい空気の入れ替えをするのだが。
 ――――今日は、調子がいい。


「………」
 こつこつこつこつ…。
 紙の上を滑る鉛筆。いくつかの本を並べ、今使うところだけ書き写し、付箋を貼りながら読み進める。定規を引き出しから取り出して線を引く。
 机近くの明かりのみだから部屋は薄暗いのだが、そんなことも気にならないくらい熱中していた。

 たまに、机の片隅に置かれたマグと、朝食の残りのゼンメルに手を付けている。
 歯ごたえのあるパンは、眠気覚ましにちょうどいいような気がして、サエナからいくつか貰っておいたもの。
 切れ込みの中には、パニーニに負けないくらいの具が挟んである物や、グレイシアが最近作ったと言うジャムが塗られている物があって、全部同じものではなかった。
「あ…これ、おいしい、また朝貰おう…」
 作業をしながら齧っていたから気が付かなかったが、いつの間にか2つ、お腹に消えていた。
「ん…と。……結構進んだな……―――ふ、あぁ…」
 伸びをして、息をついたのが悪かったのか。
 身体を包み込むような優しい暖かい空気にジャムの甘い香り、すこし膨れたお腹と。いつもより、いい体調と。




「…!」
 細く開かれた扉。廊下の木の床に一本の光の線。
「アル…まだ…。……ま、いつものことだけどさー…。パン、3つも持ってくんだもん。研究、いい具合なのかな〜」
 寝巻き姿の上に大きめのストールを羽織って。邪魔しないように、そっと顔を扉に近づけて…。
「あ…。んもう」
 思わず声を上げて、最後まで扉を開けて、サエナは部屋に足を踏み入れる。ゆらゆらと頼りない電気がアルフォンスを照らしている…。
 ゆらゆらと、動いているようだが、それは光。…当の本人は背が軽く上下しているだけだった。

「結構暖まってるもんねえ、眠くもなるよ…」
 苦笑しながらそのストールをアルフォンスの背にかけようとして…、
「っ!?…ア、アル。起きてた…!?」
 ばさ。
 サエナの手からストールが床に落ちる。
「……」
 パンと甘い匂いと共に、頬ギリギリに近づく、アルフォンスの顔。髪を梳く様に触れる指。
「ひゃ!?」
「サエナ?」
「何、人の名前聞いてんの!?」
 よく分からない受け答えをしてしまう。あまり、アルフォンスがこうした事がないから。それに今日は酔っている訳ではない。
「サエナ……ぼく…君の――――…」
「……」
 耳に触れる優しい声。
 髪の毛を絡む指と、それが頬に当たる感触。



「アルフォンスー!今帰った……。―――………。………」
 固まること5秒。しかし、「まあ、珍しいこと、でもない、か…?」とエドワードはそのまま踵を返した。

「「!」」

 ぎい、ぱたん。

「「………」」

「エド…」
「は!!??   エ、エドワードさんっ!?」
 ばち。
 サエナが叩いた…わけではなく、思いっきり目が覚めた。と言う効果音。
「サエ…ナ。あれ、ストール…?」
「…………。もしかして、寝ぼけてたわけ?」
「…え?」
「――――〜ッ…アルのバカ!!!!」
「え、あ〜…」


「たまには換気して頭冷やせッ!!こーの、ロケットバカ!!」


 がちゃ、   ばたんっ!!!


「………あ、はは…。―――ええと……ぼく、何、言おうと…」

 足元には、大きめのストールだけ残っていた。
 羽織っていたからまだ、温かいままの。

「! …あ。……ああああ〜…」
 床に落ちていたサエナのストールに触れた途端、この数分間のことがなんとなく思い出されて、いろいろな意味で自己嫌悪のアルフォンス。


「明日、買い物にでも…誘えば機嫌直るかな……ぁ」





『こちら』で突発的に思いついた話ですので…。私の所為じゃないですからね(オイ)。
寝ぼけるか、酔わないとこういう行動に出ないのかどうなのか…。
フツウの時は思い切った行動に出ない人。…でも、そうなんじゃないかなーと思います。彼の場合は特に。

ストーブの話は…なんかの本で見たんサ。火を使わないから空気が汚れないって。
当時、リアルで使っていたかどうか知りませんが、確かにやわらかーい暖かさです。
いくら調子良くてもたまには空気の入れ替えしようぜ?と言う話(??)。

この絵を描いたみゅうちゃんは私の彩色後を見て曰く「暗闇でおかしくなる人か?」
…ヘンタイか(爆笑)。

グレイシアさん特製ジャムが気になるよ……!
ゼンメルとは、丸いパンですが(いろいろ乗っかってます。ゴマとか)、自分で書いてて食べたくなりました(笑)。

エドは師匠のところでベタベタに見慣れている(笑)。


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