君に見せる為に
「ここはきっと黒くて。…こっちは多分錆止めの色で〜…」 指をつつ、とそれに滑らせる。 「ここは、何色だったのかな…」
「お帰りなさい。アル。……?あらぁ、随分大きな箱ね」 「ただいま!グレイシアさん!……けほ…っ…――と」 小走りで来たのか、肩を軽く上下させながら。少し苦しそうに表情を歪めても、それより楽しい事が先に走っているのか、アルフォンスは笑顔だった。 その腕には大きな箱。 「うぉ〜い…アールフォーンス〜……」 「あはは!エドワードさん!早くっ!!……ほらほら」 アルフォンスは店先に箱を置くと、まだこちらまで辿り着けないでいるエドワードに近寄った。 「ったく、…なーに…はしゃいで…」 「!…。あ、すみません。エドワードさんの方のが重いんですよね。だから二回に分けようって言ったんですよ」 「そうじゃねえよ…別に重いのはいい。お前、大丈夫だったか?」 「ええ。あっちは大きいだけだから」 「そっか」 『お前よりは力、あるからな』という言葉は飲み込んで。 「……で?…何に使うの?この箱」 グレイシアはくすくす笑いながらそう聞いた。 店先には大きな箱が二つ。 「え?サエナは――…」 「こんな時に限って…あいつ、出かけてるんだな、…一人で」 「……。別に、いいですけどね。…明日の朝だって」 「…………」 『別にいい』って顔してないぞ、とエドワードは横目でちらりとアルフォンス見て、夕食の芋料理を口に運ぶ。 テーブルの籠には布がかけてあって、そこにはいくつかのパン。きっかり三人分あるあたり、(この籠を用意した時は)夕食は三人で取ろうと思っていたようだったが。 「夕食、食べてくるのかな…こんなにパンあるのに」 かちかちかち、時計の針は夕食の時間をとっくに過ぎていた。 「……迷子になっているんだったりして」 「まっさか、知ってる所…しかも近所に配達だってグレイシアさん、言ってただろ。大方メシでも貰ってきてんじゃねえの、お前心配しすぎ」 「昼間だったらまだしも、夜ですよ?……まだ、その家にいるんだったら、いいけど」 それから数時間。サエナが帰宅したのは日付が変わる前ではあったが決して早い時間ではなかった。この時間ならアルフォンスもエドワードも部屋で研究の本を広げているのだが、何故か、何故か今日はリビングで。 「ただいま〜。どしたの…二人で」 「遅かったね。…女の子がこんな遅くまで、って感心しないよ」 「何してたんだよ」 「ごめん〜!シア姉には言っておいたから、平気かなって。…外にいたわけじゃないんだよ。家の中…だったし、近所だし」 「ごはん食べてきたんでしょ」 少し機嫌が悪そうなアルフォンスの前、…というか二人の前には暇つぶしの時間が長かったと思わせるような、本やら、ポットやらカップやら。 「うん…。でもどうしたの、二人ともこの時間にここにいるなんて」 「……。まぁ、まだ「今日」だ。……今日中に帰ってきてくれてよかったよ」 アルフォンスは椅子から立ち上がると例の『大きな箱』をよく見えるところに出してきた。 「エドワードさん、…約束です」 「わあったよ」 「…?」 二人でその箱を開けて、中身を組み立てる。 「……わ」 「――――今日、造ったんだ。…って言ってもただの外装だけ。…これが飛ぶわけじゃないけど。ちゃんと見せてあげるって言ったろ?」 組み立てると腰より低いくらいの高さ。二つの箱を開けて組み立てた『それ』はロケットの模型だった。 「あ…」 「これの「中身」はまだ途中だし、アパートに持って来られるようなものじゃないけど外装ならなんとかなるかなって。今日だけって持ってきた」 「私が、見せてって言ったから…」 「ああ。…空が見たいって言う夢は一緒だもんね、サエナも」 「んで〜?…持って来たはいいけど、当のサエナはお出かけ中、だったわけだ」 にやり、嫌味ったらしく笑みを浮かべて。 「う〜…だからごめんって…」 「あはは、エドワードさんは、こういう事になると意地悪ですよね」 「お前だってさっきまでぶすくってたじゃねえか」 「そ、それは…!」 「ごめんって言ってるのに〜……。って…アル、怒ってたの?」 「別に怒ってないけど…。サエナが、いつもいるのに今日に限って…いない、し…」 「ねえ!写真撮ろうか!!前みたいにみんなで!」 ロケットとと同じ高さに座り込んで、ぺたぺたと触りながら二人を見上げる。 「はあ?」 「こないだ、またカメラ持って来てたじゃない!…ねえ、まだ返してないでしょ〜?…三人で!ね?」 「…グレイシアさんに撮影役頼んで、か」 「この時間に…?」 「シア姉には私がお願いするから〜!」 「「……」」 二人、見合わせて苦笑。 「あの、…ごめんね。…いくら配達でも、遅かったよね…。電話すれば良かったんだし…。こんな風に待っててくれたなんてさ…」 隣の肩にぽつりと。 「いいよ。ぼくらも最近帰りがまちまちだからさ。それに今日中に会えたんだ。結果は悪くないよ。…でも、連絡はちゃんとして。…いい治安じゃないから」 「うん」 「たまには違う所のメシ食いてえんだろ」 「あ、…そういえば「二人にどうぞ」っておかず貰ってきた!後で食べる?」 「お、やるじゃん!食う食う!」 「……全くもう二人して…」 「ほら!撮ってあげるって言ってるんだから、ちゃんと並びなさーい!」 「「「は、はーい!」」」 彼らの真ん中には、中身がない模型。持ってくるのがとても大変だった箱の中身。 ――君に見せるために、走って持って来たんだから。少し胸が苦しかったけど、三人で、…みんなでこれを囲めると思ったら苦しいのなんて二の次だった。 「………」 「ふふ…」 腕をぎゅっと掴んで。笑って。 ――ありがと。二人とも。
「で…これ、よく見えないけど点火プラグかな…?こっちが機体のガイドで…」 「…大体正解」 背後からの声とともに、ふっと影で暗くなる。 「兄さん」 「白黒だもんな、写真。……アメストリスはカラーが撮れたけど、こっちは、な」 「これ、本物?」 「いや、外装だけだ。中身は何もねえ」 ひょい、と弟の手の中のそれ、――――写真を取り上げる。 「…………」 「…兄さん……」 「あ?」 「だから、兄さんは、戻ってきたんだね」 写真を見つめるその顔が、目がとても穏やかだった。 「!」 「二人がいた世界、嫌いじゃなかったんだ……。こっちも、向こうも同じに守りたかったんだよね」 「……。サエナができなくても、…アルフォンスの、『残された時間』位は…一緒にいてやりたかったよ。…あの声も、瞳の色も、届かないなんて思ってなかった」 「……。――教えてよ!兄さん!!…ハイデリヒさんの髪の色、目の色…。サエナさんの髪と目…。そうだ!どんな声だったの?食べ物は何が好きだった?…―――ええと、それから〜…」 畳み掛けるように質問を浴びせる。 「おいおい、なんだよいきなり」 「いいから、兄さんの友達の話。聞かせて!」 「っ、…お!これうまいなー」 「ホントだ…。ああ、あそこん家の奥さんってこの辺の人じゃないんだよね」 サエナが持ち帰ってきた、今日のおかず。 「そそ、だから珍しいでしょ、こういう料理も」 「よし、次はグレイシアさんに言って作ってもらえ」 「ム…。私には出来ないって思ってるわけ?」 「…できるのかよ?」 |
あなたの大事な友達の話を「聞かせてよ」。 模型を作って、それを「今日だけ!」って借りてきて。 写真は長編の話とちょっと被らせて。グレイシアさん撮影係(笑)。 配達に出かけたら「ご飯食べて行きな!」とか言われてそのままお邪魔って… なんか…ありそうじゃない?しかも知っている近所の人で。 分かっていながら、ちょっと不機嫌なハイデリヒ(笑)。 挿絵というわけではないけど、そんな感じで。 外装のみの模型造るとかそんなんかわからんが。うち、あるよ?(笑)ピンキーサイズで。 15.07.2007 TOP |