とある日の、三人での夕食


「オレ、今日の担当パンだから」
 まだ陽は完全に落ちていないが、家々から夕食の準備に取り掛かる匂いが漂ってくる時間帯。

「「………」」
「なんだよ、その顔」
「担当、なんてありましたっけ…?いいですけどね」
 アルフォンスは苦笑ながら棚からパンの籠を取り出した。
「なんだっていいだろ」
 笑いながらそれを受け取るエドワード。
「!…ああ…どうせ出るならソーセージも買ってくる」
「ええ、お願いします」

「…と、――――サエナ!」
 扉に向かって、「そうだ」と言いながらぐるりと向き直る。
「ん?」
「ついでに…『残り物のパン』貰ってくるな、この前欲しいって言ってただろ」
「!…あ」
「残り、もの…?」
「な?サエナ」
「うん」
 にやり、エドワードの笑いに思わず笑って返すサエナ。
「……サエナ、…なんで、わざわざ残り物なんて…。確かに貰えるだろうけど」
 エドワードが消えた扉と、『それの』準備を始めるサエナの背を交互に見ながら一人で分からないアルフォンス。
「アルも食べたい、って言ってたじゃない」


「こら、エドっ!足乗っけないの!」
「いいだろ、疲れてんだから」
「疲れてるからって乗っけていいってわけじゃないでしょ!」
 エドワードはテーブルの縁に腕を乗せ、それから足まで乗せるようにしてテーブルに寄りかかっていた。その手には先ほど買ってきたパン。
「あはは…」
「パンも先に食べないっ!」
「いいだろ、腹減ってんだから」
「こっちもお腹すいてるんだから待っててよ!…折角残り物のパンがあるんだもん、ちゃんと一緒に食べたいでしょー」
「パン系食い過ぎかもな」
「エドワードさんのリクエストなんでしょう?」
「へいへい」

「――――で、何作ってるの?サエナ」
 台所の火にかかっている鍋には残り物のパンとトマトソースが入っていた。サエナ曰く、トマトソースだけは覚えさせられたらしい。
「トマトソースでパンを煮込む料理だよ、トスカーナの郷土料理ってやつ。そろそろかなー…?」
「早くしろよー」
「んもう!急かすならお皿取ってよ!」
「仕方ねえなぁ…」
「はは…」


「ね、どうかな〜?」
「うん、おいしいよ」
「いいんじゃねえの〜……?」
 スープ皿の中の赤いトマトソース。いつもの食卓とはちょっと違ったもの。
 いつもの夕食だけど、あの頃は毎日がこんな風に笑っていたような気がする。

「じゃあ次の担当は〜…」
「だから、担当なんてあったんですか…?」





小説本のおまけとして書いたやつですので、ちょっと長編をかみ合わないような…。
結局他の話を書いたのでこちらに載せましたー。
ページが足りなかったので妙に短いのはご愛嬌。

イメージ的には「こちら」


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