夕日の魔力


 うーん…あと、…あと5分…。
 …った〜!うるせ…ちょっと寝かせろ、アル…。最近…遅かったんだか…。

 ――――ら…?


「…どうしたんですか?」
「え…アル……?」
「最近遅かった、って。そんなに疲れてました?」
 苦笑しながら、それでも可笑しそうに。
「アル、フォンス?」
「はい?」
「…い、いや。………」
 エドワードは納得いかない、といったような表情で周りを見回した。しかし、テーブル、床、家具…。見慣れたアパートだ。
「さてと」
 がたん、立ち上がるとアルフォンスは台所へ向かい、深い緑色のビンとグラスを持ってきた。
「呑みますよね?」
「な、なんだよ、そんなモン。珍しいな」
 照れで少し頬を赤らめながら受け取る。あまり酒を勧められたことはなかったから。
「あはは、…忘れちゃったんですか?今日、エドワードさんの誕生日」
「あ?ああ…そう、だったか?」

 晩秋。
 気が早い初雪。
 時間は夕暮れ時、しかしもう陽はとっぷりと暮れていた。

「…そうだ、グレイシアさんの…ヒューズさんの子供が生まれた時も…雪、降ってたよな」
「?…グレイシアさん??」
「なんでもねえ、こっちの話」
「また、向こうの話、ですか?」
「!…いや…。なんでもねえって、気にすんな」
「……」
 がた、アルフォンスはもう一度椅子に付くと。
「聞かせてくださいよ?…ほら、もう直ぐサエナもグレイシアさんのところから帰ってくるし、そうしたら――――」
「?…アルフォンス、お前」
「え?」



『ぼくが、もう一度見たかった』



「ただいまー!!ほーら!今日はシア姉と一緒だったから成功!!!」
「お帰り、サエナ」
「あ、二人でお酒開けて〜!早いよ、もう!」
「サ、…サエナ?お前…」
「うん?…何、エド変な顔してるの?」
「ヘ、ヘンじゃ…ねえよ!!」
「ね、誕生日おめでとう。エド」
「おめでとうございます、エドワードさん」

「あ……ありがと…な」
 何か、何か引っかかるような気がしながらも、温かい気持ち。
「よっし!!食うか!!」
「ええ」
「そうだ、アル。一階にまだ料理のお皿あるんだ、一緒に取りに行かない?」
「ん、いいよ。じゃあ、エドワードさん、ちょっと待っててください」
「ああ!」

 見なければよかった。

 壁の、カレンダー。


「19…24……年?…嘘、だろ…?」



 ――――ざあっ…。


『ぼくたちに、もし、「次」があったら…やりたかったことなんだ。…なんでもない一日。難しいことは何も考えないで、笑っていられるだけの…』
『楽しいけど、なんでもないわけじゃないね。エドの誕生日だったけど。でもよかった、ちゃんと、今年もおめでとうって言えたね』


「オレ、――――謝らなきゃ…ならな、かっ…!!」

 扉が遠くなる。
「行くなっ!!頼むから、続きを―――!!!」






「――――…さん、…兄、……さ、ん…?」
「っ!!?…アルフォンス!…サエ…ナ…?……あ。あ…ハハ……」
 心臓が飛び出すんじゃないかと言うくらい、思い切り起き上がる。
 風景は、…闇。夜の虫が鳴いている。
「はっ……秋、じゃねえよな…だよな、1924年…あいつらは、もう…」
「兄さん」
「ごめん。アル」
 くしゃりと弟の頭を撫でる。


「……」
 目を上げると闇かと思っていた風景が少しづつ明るくなってきていた。
 東の空からの光。
「兄さん、うなされてなかったよ、楽しそうだった。…兄さんって、寝ている時も楽しそうな夢を見ている感じじゃなかったんだ、いつも」
「なんだよそれ」
「アメストリスで旅をしていた4年間、…ボクは寝られなかったら、ずっと兄さんを見てた。でも、たまに、死んだように寝ているときだけだった。…兄さんがうなされてなかったのって」
「……」
「でも、今、…すごく…楽しそうだったんだ」
「!」
「……ボク、ボクは錬金術師だからハイデリヒさんの記憶が少しあるけど、…きっと母さんにはサエナさんの記憶はないと思う。…だから、…今、兄さんの夢に出てきた人は――――」
「アル」
「きっと、ボクや母さんの記憶じゃなくて、本当の兄さんの友達の二人だと思うよ…」
 アルフォンスは言いながら兄の頭をふっと撫でた。



『…もう一度、一緒に…なんでもない一日を。…――――ありがとう』





これを久々に読んだ…ら、なんとなく思いついて20分くらいで書いた(また微妙な数値)。

夢の中で再会…
したっていいよね?

書き終わってから題を探しているので、ちょっと外した。
夕方、雪の降る日。エドワードの誕生日。

挿絵?

2006.08.21



TOP