怒るまでのリミット


「そういうことだったの?」
「え、うん…」
「ああ…」

「………はあっ。二人して子供みたいなんだから」
「この中じゃお前が一番年下だぞ」
「エドワードさん…」
「!…う、悪かったよ」


「「………」」
 エドワードとサエナは顔を見合わせて、あはは、と苦笑した。



*



 ――――数時間前。


「なあ、サエナ」
「ん?」
 休日、特にやることもないので、リビングで本を読んでいた。
 それをぱたんっと閉じてエドワードは顔を上げる。
 
「……アルフォンスが怒ったの、見たことあるか?」

「へ?」
「だから、アルフォンスがホンキで怒ってる所、だよ」
「えー…?」
 あごに指を当てて、上を見る仕草。
「ん〜………。あ、手摺滑り台とか…そういうので怒られた…ことはあるかな」
「それ、お前の不注意だろ」
「じゃあ聞かないでよー…」
 それからふと、エドワードの『あちら側』の話で微妙な顔をしていることがあるな。…とも思ったがそれは喉元で言葉を止めた。
「――――で、なんで?」
「いや、…ああいうヤツってどこまでやったら怒るのかってな」
 にやり。
「…何、その笑い」





「町に?みんなで?」

 椅子をそちらに半回転させて、背もたれに腕を置く。
「ああ、お前も今日暇だろ?サエナも暇なんだってさ。…んで、昼飯でも〜って話になったんだ」
「はあ、いいですけど…。サエナのことだから買い物かな」
 アルフォンスは部屋で本を読んでいた。エドワードがこういうことを誘いに来るのは珍しい…が、断る理由もなければ誘われたのは嬉しい。
「じゃ、下で待ってるな」
「ええ」





「よーし、買い物するぞー。荷物持ちが二人!たくさん買えます」
「(あ、やっぱり買い物だったんだ)」
「そんなにたくさん金はないからな」
 まず来たのはマリエン広場近くのいつもの市場。
 三人で来られただけで上機嫌なサエナは市場の最初のところで思わず気合を入れる。
「そんなツッコミはナシー…。じゃあ何処から攻めようかなっ」
「攻め…ってお前何しに来たんだよ」
「やっぱり軽いものからだよねー。ほらほら、二人とも行くよっ!」

「!…おい」
 そのまま市場につっこんでいきそうな腕を引いて。
「わかってんだろうな?」
「もう、わかってるよ!」

「え?何が…?」
 一人取り残されアルフォンス。

「「なんでもないって」」
 二人おかしいくらいの笑みで…手を振る。





「持つよ」

 横から手を差し出し、腕の中の紙袋を取り上げる。
「あ、いいって」
「『荷物持ち』が増えたんだろ、使ってくれてかまわないよ?…ぼくはね」
 三人で出かけられて上機嫌なのはサエナだけではなかったようだった。アルフォンスはにこっと笑ってそう言う。
「でも、結構買い込んだね」
「ついつい買っちゃうよね。ほら、エドだってなんか選んでる」
 指し示した方向には古本市で何かを探しているエドワードの姿。
「へえ、古本市か…」
「……アル。行って来なよ。好きなんでしょ?」
「あ、ああ。………んー…ごめん、ちょっと…見てくるよ」
「ん、じゃあ、あのベンチの辺りで待ってるから」
「ごめん」




「サエナ」
「エド」
「こっちは準備できたぜ!アルフォンスはー…と、まだ市場か」
 ベンチに勢いよく座ってきて、その紙袋を見せる。
「あはは、なんかやる気満々だね。……でも、怒らないかなあ?」
「それを検証するんだろ?――――と、帰ってきた。…アルフォンス!!」



*



 ――――そして、『今、現在』

 彼らの手には、空になった紙袋。

「ぼくが、どこまでしたら怒るか、なんて…」
「アル〜…」
「だって、ホラ、食いモンの恨みはすげえって言うだろ?」
 エドワードが「準備が出来た」と言って持ってきた紙袋は昼食に、と買ってきたパンと飲み物だった。

「…そんなことで怒りませんよ」
「怒ってるぞ、十分…」
「エドワードさん…」
 三人分だからもちろん三つ買ってきた。
 しかし、アルフォンスが半分ほど食べた所でエドワードが取り上げ、飲み物の方はサエナが自分のストローをつっこんで飲んでしまったのだ。
「……もう」
「アル、ごめんね」
「…別に、怒ってなんてないよ」
「よし、景気付けに〜……またなんか食うか!」
「まだ食べるんですか」
「お前、キツイなー」
「あはは、冗談です。じゃあ…エドワードさんのおごりならいいですよ」
「やっぱりキツイぞ…。おい、サエナ、お前も出せよな」
「私お金持ってないもんね〜」
「はあ?おいっ!!」


「ほら、何か食べに行くんでしょう?」
「早くエドっ!!」
 二人の腕を引いて行く。


「おい!こら!!…んな引っ張るなっ!…こけるだろっ!」

 アルフォンスが、ホンキで怒ったかどうか、は…定かではない。






最初の方だけかなり前に書いて、かなりほっといてありました(汗)。
む、難しい…よぉ。
でも三人で仲良くやっているところをやりたかったんですよ。
エドがアルをからかって、それに反応して、みたいな。

挿絵

2006.04.23



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