トマトソース ―17―


「何、トマトづくしだねえ。君さ、かなり鉄砲玉だね」
 両手を『あーあ』と言うように広げ、ため息をつくラッセル。

「うわ、ラッセルが作ってやりなーって言ったんじゃないっ!」
「こんなに作れなんて言ってないよ?」
 アルフォンスには聞こえないように、台所で騒動を繰り広げる二人。

「ちょっとサエナーこれどうすんのー?」
「あーはいはい」


 ――――夕食、確かにトマトばかりだった。
 ラッセルが渡してくれた分に、元々ロックベル家にあったもの。それだけあわせるとかなりの量になる。
「これって、何処の料理?」
「イタリアの家庭料理。トマトソースだけは覚えさせられるんだ」
「…なるほど、だからトマトソースだけ『しか』作れないのね」
 ここ数日、料理を手伝わせてもまともにいったことがあまりなかった。
「その通り…って言ってて悲しくなってきたよぉ」
「あはは。……じゃあ、アルの時計が直るまで何か教えてあげましょうかね?」

 『アルの時計が直るまで』サエナは顔をあげてウィンリィを見た。
「……いいの?エドは…」
「アイツが決めたんでしょ。…それに、戻ってくるならエドとアル、両方帰ってこなきゃ…」
「…そっか」



「なんつーか…真っ赤だな」
「うるさい、エド!」
「け、健康にはきっといいよね」
 どうフォローしていいか分からないが、とりあえずフォローしてみるアルフォンス。
 テーブルの上は確かに全体的に赤い料理ばかりだった。
「ねーアル。そうだよねー」
「トマト嫌いな人〜?いないわよね」


「時計、明日には基礎は直りそうです」
「早いな」
「いえ、まだ完璧ってワケじゃ…ちょっと覚えてない箇所もあって…」
「……そうか。また酔わせなきゃダメか?」
「いえ、それは…」
「え、何それ」
 疑問符のラッセルとウィンリィ。
「あー…アルが酔った勢いで作ったんだよね、タイムマシン」
「……ヘンなヤツ」
「それってすごい…わよねえ」


「……あれ。トマトジュースなんて置いたっけ」
 テーブルの上の。グラス。何故か一つだけ赤い。
 食事が終わった頃、ふと見つけた。

「それ、酒」
「なんで?」
「アルフォンスに飲ませた。…あいつ、一口飲んでふらふらしてたけど平気か?」
「………バカエドっ!!!」
 片付けもそこそこに二階に駆け上がる。
 決して片付けが面倒で逃げたわけではない。




「アル…平気?」
 二階の、昔、兄弟が使っていた部屋。
 そこの机にいるアルフォンス。
「もう、また飲まされたって…」
 部屋には電気がついていて、作業するような音も聞こえているから酔って倒れているわけではない…と安心しながら近づく。

「アル?」
「ん」
「今作ってるのは?」
「タイムマシン」
「……とりあえず…思考ははっきりしてるんだ」
「あはは。酔ってないよ」
 そう見上げた顔は…少し赤かったけれど。

「…ねえ、サエナ」
「ん?」
「今、ぼくらだけで…戻れたら、それはそれでいいのかな」
 時計から目を離さず、作業の手のままぽつり、と。
「……どうかな」
「――――ごめん。答えに困ること聞いたね」
「うんん…」
 少しろれつが回らないから、…多少は酔っているのかもしれない。

「…でも、楽しかったよ…ぼく」
「そっか」
「…トマトソース、おいしかった。向こう戻ったらまた作って」
「わかった。…そだ、ラッセルにもお礼言ってね」
「ん……」


 かちゃかちゃ、と、部屋に作業をする音が響く。
 その手元をずっと見つめていて…。




「あれ、サエナ…寝ちゃったの…?そっか、もうこんな時間だもんね…」

 机の隣に持ってきた椅子。そこに微妙なバランスで眠っている。喋らず、ずっとその作業を見ているのは少しきつかったかもしれない。
 毛布でもかけてやりたいが触れるときっと倒れてくる。それならばと、起こさないように抱き上げてそのままベッドに寝かせた。

「明日には…戻れるから、さ」

 頭は少しぼーっとしているが手は進む。小さい銀時計に改造が施されていく。
 酔っている所為かな、と思いながら、殆ど勝手に進むような手を他人事のように見ていた。





 劇場版 鋼の錬金術師 第18話 次回予告!

 ――――朝。
 別れではなくて。





なんつーか……ホントに……こじつけ?
つーか…、非現実的。


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