アルフォンス ―16―


「俺はさ、なんつーか部外者だから言えるんだけど」

 アルフォンスが家を飛び出し…サエナが後を追うことをラッセルは許さなかった。
 まず、と手を引っ張られ来たのは家の裏手。


「……ん」
「ひっからまった紐みたいになってるねえ、今。……――――言ってやりな?」
「え」
「…――――ってこれは君が考える台詞か。君の方が分かってるもんね」
「………」
「アルフォンスは、さ。……見失うのが怖いんだよ」
「!」

「君らがここに来てから見てたけど…おかしいくらい自分を抑えててさ。それでも、君の前では少し和んでたかな」
「………」
「君らに会う前だったら一人でも研究やったんだろう。でも今は違う。何か手に入れて、それが心地いいと手放したくないのが人間なんだ」
「…うん」
「錬金術とこの世界に興味を持つ君が、ここを懐かしむエドが怖かったんじゃないかな…」
「……」
「俺は…かつて父さんの跡を継ぎたかった。でも、それをやることは……よくないことだったんだ」

 ――――町にとって有害な赤い水。
 しかし、成功すれば町は復活できる。でも、成功しなかったら…?成功する前に研究が出来なくなったら?……そんな風に苦しみと戦っていたあのとき。

「でも、しがみついてた。……――――ま、俺の話はいいや。…とにかく、早く向こうに帰って…アイツの近くにいてあげなよ?」
「あはは、言われなくても。…でもさ、ラッセルからアルに言ってあげたら…?同じ科学者なんだもん、そういう研究のこととかも他に言うことあるんじゃ…?」
「はっ。俺は本人目の前にしてこんなこと言わないの。それに研究してる方向も違う。…――――そうだ、ちょっと、待ってな」

 ラッセルは地面に錬成陣を描くと、手早く錬成し…できた籠をサエナに渡す。
「はい、これ持って。…ほら、トマト」
 そうして、いくつか生ったトマトを入れる。
「この短期間だ。それだけ出来ただけでもありがたいと思ってよね。……作ってやんなよ、トマトソース。で、アルフォンスに見せてやれ、こっちの世界も捨てたモンじゃないぞって。……この前、君が作ったトマトは味の方もまだまだだったからねぇ」
「……Grazie!…ラッセル」
「え…なんだって…?」





「アール。…帰ろう?ここから、向こうに」

 ロックベル家から少し離れた河原。
 そこはここに来てから何度か散歩した所だった。
「……エドワードさんは」
「エドも帰るよ」
「それは…仕方なく。…――――そうだよね、エドワードさんは…その為にロケットの開発してたんだから」
「アル」
「そうだ、『アル』がいれば…もし、『ぼく』がこっちに来てなければ…」

「そうだったかもね、もし、私やアルがこっち来てなかったら…エドはそのままこっちにいたかもね」

「!」
「でも、偶然は必然なんでしょ?…起きた事を言ってても仕方ないよ?――――ほら」
 籠の中身を見せる。
 夕日に赤く染まったトマトは、元の色より深い深い紅。
「ラッセルがくれたんだ。アルに見せてやれって。…ほらね。こっちの世界のいい所、見られたのは偶然じゃないよ。アルや私に見せたかったんじゃないかな。誰かが……。トリシャさんかも?」
「………」
「ここに来る前の時間に戻るって言ってたから、もしかしたら記憶なくなるかもしれないけど。…覚えてるよね」


「大丈夫、アルは何もなくさないよ」
 …本当は、ここで『ごめんね』と付け加えたかった。
 錬金術に、この世界に向いていたわけじゃないのに、不安にさせて、と。…でもそれは自惚れた考えかもしれないし、…謝ることをアルフォンスはきっと望んでいない…と、サエナは考えたから。

「……!」
 何度も、何度も言われた言葉。
 その度に何度も、救われて来た。


「ね、最後のご飯はトマトソース作るから。私、コレだけは自慢できるんだよね」
「……サエナ」
「一緒に帰ろう?」





 劇場版 鋼の錬金術師 第17話 次回予告!

 ――――最後の晩餐。





ラッセルがハイデリヒを観察していた理由(?)。
ちょっとこじつけっぽいかな?

私が書くハイデリヒは、なんかワガママだ〜。


TOP NEXT