世界の間 ―14―


「サエナっ!!!」
「わ!!」
 がしっ。
 肩を掴んで、その目をじーっと見る。

「エ、エド?」
 未だにロックベル家の畑でなんだかんだやっていた三人。
 そこに出かけたと思っていたエドワードがすごい勢いで戻ってきて…いきなりこれだ。
「ぶ、無事だよな…?」
「へ?」
 ぜいぜいと肩で息をしている。
「エド…?大丈夫?」
「グレイシアさんのこと、何て呼んでる?」
「は?…シア姉」
「今、あっちは何年?」
「1922年…12月…あ、もう23年の1月か」

「「………」」

「…よ、よかったぁ……」
 肩から手を放し、ずるり、と座り込む。
 その様子を見ていたアルフォンスとラッセルはどうツッコんでいいか分からなかった。
「どうしたの、エド?」
「いや…ちょっと調べ物。…――――アルフォンス」
「はい?」
「第二宇宙速度は?」
「秒速11.2…」
「じゃあ…。師匠の名前は?」
「え。…な、何のですか?」

「いや、いい。――――そうだよな…。よかった…。お前らまであんな風になったら…大変な所だった」
 エドワードは『それ以上答えなくていいから』と手を出し、立ち上がる。
「え?」
「ハッ…。考えてみれば、直ぐ分かる事だったんだよな、考えたくなかっただけ、か」
 はああぁ…と息を付き、妙な笑いをする。
 これは、『とりあえずどんな顔していいかわかんないからこれでいいや』みたいな感じである。
「エドワードさん。帰る方法ですか?それとも――――」
「いや……」


「仮説だ」


「アルはこっちにはいない」


「?」
「………」

「――――ああ、なるほど。同じ魂は、同じ世界にいられない、か」

 あごに手を当て、考える仕草をしてから、ちらり、エドワードを見る。
「ご名答。ラッセル」






 その頃、1923年、ミュンヘン。
 クリスマスが終わり、新年を迎えたばかりだ。

「初めは驚いたわよ」
「そうですか?」
「だって、あの子達の部屋から出てくるし。ちょっと目とか雰囲気が似てるし。でも私が知ってるアルの方が大人かな」
「へえっ」

「私はまた――――」

「アルの弟とか隠し子とか!…なーんてねぇ。ふふふ」
「ボクはエドワード、の弟なのに…」
「ふふ、はいはい。じゃあアルくん。ご飯にしましょうか」
 少し、後ろで束ねられた長い金髪。兄のそれより濃い金の目。
 やんちゃそうなイメージの少年は、同じ名前を持つ彼とは少しだけ雰囲気を一緒にして…そこにいた。
「はーい!!ボク手伝いますよ!」
「あら、ありがとー。元気でいいわねえ。早くエドも帰ってくればいいのに」
「兄さん、元気ですか?」
「ええ」






「えー!じゃあアルくん、シア姉のところにいるかもって…!?」

「だから、仮説!…アイツ、オレらがここに来る前、直前!母さんの墓参りに行ってたんだ。それはウィンリィも知ってるし、遠くに行かない証拠に!コートも荷物も錬金術メモも家にある!」
 声に出して言うとそれが『仮説』ではなく『本当』のように思えてきて、段々声が大きくなる。
「…トリシャさんのお墓参り…。だからぼくたちが飛ばされた場所も墓地?」
「それもある。母さんの近くに来たアルと。母さんに引き寄せられたサエナと!………そん時、偶然入れ違ったんだな。アルとアルフォンスが。…あとは元々この世界の人間であるオレがいた」
「私がトリシャさんに引き寄せられた…?」
「ああ、でも母さんは…もう、いない。だから、近く来ただけだったんだな」

「で。…偶然その2。…アルフォンスのタイムマシンだ。……んで――――」




「あれ、エド?エドワードじゃないか!」
「「「「!?」」」」
 エドワードが仮説を組み立てている最中だった。
 背後からの声に必要以上に反応する。
「あ…」
「郵便だよ、ロックベル家になってるけどお前宛に」
 自転車でやってきた配達屋はエドワードに小さい包みを渡すと、じゃな。と特に気にする様子もなく去って行った。

「くそ。…話の腰、折られちまったな」

 ふうっと息をついて宛名を見る。



「セントラル。……リザ・ホークアイ…。なんだ、中尉からか」
「リザ?」
「ああ、昔…世話になった人だよ」



「ふう…とりあえず、家に入ろうぜ」





 劇場版 鋼の錬金術師 第15話 次回予告!

 ――――中尉から来た…もの。





第2宇宙速度はとある本で見ましたが…。
鋼の本にも載っていた。ずどーん。


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