セントラル ―12―


「アルくん、何処行ったんでしょうかねえ」
 朝からぼやくシェスカ。
 エドワードたちがこちらに来て数日。
 その間、エドワードは暇をみてはアルを探していた。探すと言っても荷物があるから遠くに行く筈ない、と、近所巡りなのだが。
「もう何日もなるもんね。…――――って、そういえばアンタ、セントラルに帰らなくていいの?」
 ウィンリィは言いながらカレンダーを指差す。
 そして、それを目で追うシェスカ……。


 段々顔つきが厳しくなる。


「ウソおおおおぉぉぉ!??…」







「じゃあ、シェスカ。またね」
「元気で」

「はいっ、アルフォンスさーん、サエナさーん。私がまたリゼンブールに行くまで帰らないで下さいよぉ〜」
「ったく騒がしいな。休暇くらいチェックしとけよ」
「あはー。また遊びに行きますからね!」
「ああ」
 例によって涙をだばだば零しながら彼女は議事堂に消えて行った。

 『ウソー!』と叫んだ理由は簡単。休暇がもう終わっていたのだ。急いで荷物をまとめ、一番早い列車に乗り――――今、セントラルについた。
 そして、送りがてらセントラル見学でも…と、一緒に繰り出してきたのだ。

「ラッセル、何で来なかったのかな」
「あ〜…前にセントラルで捕まったことがあるんだ、ラッセル」
「(なにやらかしたんだろ…悪い人ではないと思うんだけど)…ところで、これからどうするんですか?」
 エルリック兄弟の名を語って捕まったなんて言えないからラッセルは今日はおとなしく留守番だ。
 何かすることもあるからとも言っていたが。


「オレ、図書館。…もしかしたらアル、そっちかもしれないし」
「え、この前もどっかの町の図書館だったじゃない〜」
「おいおい。みんな同じ蔵書じゃねえんだぞ。せっかくここまで来たんだし、寄らせてくれよ」
「はいはい」
 エドワードはシェスカを送りに来た、と言うより、図書館の方がメインだった。司令部に寄るつもりはないが、図書館には寄りたい。
 もしかしたらアルがいるかもしれないし…という期待の元なのだが。

「じゃあ、ぼくらはどうする?」
 セントラルの図書館なら機械関係の蔵書もあるだろうが、アルフォンスはそれに寄ろうとはしなかった。
 ミュンヘンで調達できると言う理由もあるが…。もし、ここでアルに会ったとしたら、どういう反応を取っていいのか自分の中でまだ整理がついていないからだ。
「その辺でも見て周ろうか」
「うん。じゃあ…エド、何時間後にここ?」
「そうだな………」

 広場の時計はちょうど、12時だった。





 さて、いくらかの資金。
 でもあまり無駄遣いは出来ないよね?と安い簡単な焼き菓子を買って、ぶらぶらと歩きながら食べる。
「大きな町だねー」
「この国の主要都市みたいだね。…よく整備されてる」
 ここまで発展しているのに何故機械より錬金術なのだろう、と首をひねるアルフォンス。
 その延長で難しい話を始めたアルフォンスにサエナはくすくす笑いながら聞く。

「あ、……ごめん」
「いやいや。…あ、でもさ、ウィンリィの機械鎧、ってのもすごいよね。…あれは向こうの世界じゃまだできないんでしょ?」
「そうだね。…ってことは、機械もこちら側が発展しているという部分もあるのか…。方向がちょっと違うだけで」
「ね…よくわかんないけど」
「ん?」
「大きな国が二つあるんですよーって程度の考えじゃダメかな」
「あはは、アバウトだな、サエナは」

 でも、そう考えられればどんなに楽だろう?





「遅いぞ、お前ら」

 夕刻。

 約束の時間から少し過ぎて。
 迷っていたなんて言えない。
「すみませんっ、エドワードさん」
「ごめん、エドっ」

「列車、…あ、ほら来た!走れ!!」



「!…」
 エドワードの後を追う足が止まった。
 一瞬だけ、一瞬だけ見えた姿。…一瞬だから見間違いかもしれないのに。
 薄荷色の瞳が歪む。


「サエナ!早く」
「あ」
 足が止まったサエナを引っ張るアルフォンス。
 ようやく列車に飛び乗ることが出来て一息。

「ったく、何立ち止まってんだよ、……。どうした?」
「…サエナ?」
「………っ」
 流れていく景色を、ガラス越しにじっと見る。


「そっか、そうだよね……こっちにもいるんだ…」


 景色は流れて消えていく。
 それでもなお、そちらを見つめる。

「サエナ?」
「ん?なんでもない……。――――そうだ、エド。…エドの分も買ってあるんだよ。お菓子〜」
「あ、ああ…。気が利くな〜!ずっと調べ物してて腹減ってたんだよな」
「先、席取ってて」
「…。わかった」
 少しの間の後、それでも気にならなかったように笑って、袋を受け取りドアの向こうに消えるエドワード。

 それは追わず。
 また、過ぎて行った景色を見つめる。


「…別の人なんだ。…でも………よかった。こっちでは元気なんだね。ママ…」

 自分の母より若かったようだが、懐かしい、その姿。
「……中に入ろ?サエナ。エドワードさん、待ってるから」
「うん。そうだね」




「そういえば、やっぱりアルくんはいなかったの?」
「…ああ」

 すっかり日が落ちた中を列車は突き進む。





 劇場版 鋼の錬金術師 第13話 次回予告!

 ――――再び、リゼンブール。
 エドワードは仮説を組み立てていた…。





さて、一日セントラル紀行。
一日で行ったり来たり出来るのかね?


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