一方的な出会い ―11―


「じゃあ、これも」
「ボクはこれがいいなぁ」
「オレはこっち!」

「じゃあ、全部貼ればいいじゃない?……ごめんなさいね」
「いいえ、また賑やかになっていいわ」
 トリシャとウィンリィの母。

 母の了解を得られて、嬉々として子供たちは好きな写真をそれに貼って行く。
「お母さん、これも貼って〜。兄ちゃん、邪魔ばかりするんだ」
「してないだろ!ヘンなこというなよアル!」
「ほら、ケンカしないの」
 まだうまく貼れないアルはそれを母に差し出した。



――――このコルクボードには、たくさんの思い出が詰まっている――――





「……確かに、似てるのかなぁ」

「え?」
「トリシャさんに」
 その一枚を手に取り、幼いエルリック兄弟と写るトリシャの姿を眺める。
 少し長い栗色の髪。緑色の瞳。かわいらしい笑顔。
 幼い息子たちを大事そうに抱く母。

「…似てないよね。こんなきれいじゃないもん。バカだね、エド。こんなきれいなお母さんと私、間違えるなんて」
 けらけらと笑い、何もなかったかのように写真を戻した。
「サエナ」
「何、ウィンリィ」
「あのさ、…私も間違えたクチだけど、気にしないで」
「………。――――してないよ。慣れてる、って言ったでしょ」

 ひらひらと手を振って。
「あ、何処行くの?」
「散歩」






「……アル」

 そこは…最初に飛ばされた墓地。

「アルもバカだねえ」
「何、それ」
 ぴくっ。肩が動く。
 アルフォンスは座り込んだまま手の中の何かを操作していた。
 こんなことでいちいち目くじら立てる彼ではないのだが、反応したあたり、今、彼の心中は穏やかではないことが分かる。
「…アルくんの写真見て落ち込んでる」

「!」

 はっ、と顔を上げる。
 手には例の懐中時計。

「それでここにいるんでしょ?」
「違う。…最初に来た場所だから関係あるかと思って。…だから、ここで調整してたんだよ。別にこの場所に何か特別思って来たわけじゃ――――」
 これ以上顔を見られるのがイヤで、すくっと立ち上がる。
 こんな、不機嫌な顔。



「でも、アルはきっとアルくんに会えたら好きになるよね」
 背を向け、家に向かって歩き始めたアルフォンスに言う。
 そうすると、その足が止まって。
「………」
「普通に友達としてだよ。…なんか話聞いているといい子みたいだから」

 アルフォンスは何も言わない。

「きっと、私だってトリシャさんに会ったら好きになると思う…」
「………」
「それに、ちょっとうらやましい。トリシャさんはいいよね。エドとアルくんにこんなに愛されて…って。――――でも私はサエナだから、代わりにはならない、なれない。また、なる資格もない。だから…私はこうなのに、って思わないようにしてる」
「…資格」
「そう。だから、アルだって、アルくんになる資格はないし。その逆も」


「でも――――。あの写真のアル」
 ふっと空を見上げる。


「気持ち悪いくらい、ぼくの小さいときにそっくりだよ。これじゃ間違えられても仕方ないかなって思った」
「そっか」
「あの、『アルフォンス』は、子供のときから元気で、あんなお兄さんがいて…仲がいい幼なじみがいて…。ぼくはそんな思い出はない。…それなのに。………『アル』と間違えられる」
「………」
「なんで、ぼくは…こんな、身体で生まれてきたんだろう…」
「アール…」
「こんな時限爆弾抱えた身体でっ…!それで。代わりに――――…いくらサエナが違うって言ってくれても、少なくとも…こっちの世界の人はそういう目で見てる…!」
「…じゃあさ、……アルにあってアルくんにないものは…?」
「……病気」
「じゃないよ?……こういう考え方から変えなきゃ。だって、やっぱり別人なんだから。だから…アルもそういう意味でうらやましがるのはやめよ?結局自分だってそう思っていることになるもん」
「でも、アルは…ぼくにはないものをたくさん持って…。それなのに、もっと、ぼくから奪うつもりなのかな…?」
「アルくんがアルの何を奪うって?そんなのできっこないよ…」


「…私、…アルくんには………こんな風に思わない。きっとエドと同じで好きにはなるだろうけど、それは違う。だって彼はアルじゃないから、私と今話しているアルはここにしかいないでしょう?」


「…………」


「難しい?」


 そのまま、スカートをふわりと揺らしてその場に膝を付き。

「トリシャさん。あなたの子は元気だよ」
「……」
「向こうの世界のあなたは私かもしれないけど…もしかしたら――――。ただのそっくりさんかも」

「!」

「なーんてね。そういう可能性だってあるってこと」



「帰ろ?アル」


 立ち上がって歩き始めたその姿が…一瞬だけ。風に揺れて。
 アルフォンスの目に映るサエナがちょっとだけ、大人びたワンピースの人と被った。


「――っ!?」

「は?…あ、――――アル」
 つかまれた腕。それがとても強くて思わず声を上げて振り向く。

 しかし。
「え。……サエナ…?なんで、…泣いて」

 アルフォンスがサエナの腕を掴んだのは別の意味だった。が、この表情を見て、思考が止まった。
 今、確かに笑っていたのに。
「っ……風、吹くと涙出てくるよね」
「違う…だろ」

 手をゆっくり放して、俯き、アルフォンスは唇を噛んだ。



『お母さんね、病気の痛み、何年も隠してたんだって、
あいつらの前では笑っててさ。お父さん、待ってたんだ』

……これは先日、ウィンリィから聞いた話。



 確かに、似てる…かもしれない。
「そういうところ…。ごめん」
「なんで謝ってる?」
「………」
「ホラ、何に対して謝っているのかわかんなくなってきたでしょ。私だってなんだかわかんなくなってきたよ…。自分とは無関係な人だと思ってるのに……。聞いてた話より…写真とか目で見るもので確認すると、なんか…――――ヘンだよね…?」
 泣き笑いのような表情。
「………」
 二人とも同じだった。
 『同じ人間がいる』と…。
 話だけではなく、目で確認してしまった。もう随分前に知っていたことなのに、今更ながらに『同じ人間』を叩きつけられて。
「サエナ…」


 ――――『トリシャ』と被ってしまう。
 きっと、ぼくは君を置いて行く。
 それは近い将来必ず訪れるだろう。


「(そしたら、君、トリシャさんみたいに…泣かないで待っているの?こんなに直ぐ泣くのに、笑って…)」


 ぼくがいなくなったことで、「辛い」と感じる人が少なくなるように昔の友達と縁を切った。
 だから、一人暮らしをはじめて…。

 でも、今は切るに切れない。できない。

 だから、君は――――。



「…無理して笑う必要ないよ、サエナ」
「それはそっくりお返し」

「…帰ろうか」

 手を差し出すアルフォンス。
「だからさっき言ったのに」
 笑いながらその手を取る。





 劇場版 鋼の錬金術師 第12話 次回予告!

 ――――アルが見つからない。エドワードは焦っていた。
 偶然にもセントラルに行く用が出来、エドワードたちはセントラルに行くことに…。





話で知っていても、写真などで目で見てしまうと、…かなり微妙だと思う。
しかも実物に会っているわけでなく、一方的に見ているのだから。

特にハイデリヒは辛いんじゃないかな、たまにエドには代わりのように見られていたのだし、
ここではウィンリィにも間違えられているから。

そして、トリシャのようになるかもしれないサエナを不憫に思ってる。


さて、この辺からこの話も佳境かな。
段々ギャグは少なくなる模様。
だいたい5話くらいで終わりにするって言ってたよな、私。

挿絵


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