短編集 ―10―
天国への門 ―1― 「錬金術、見せてやるよ」 話はいきなり始まった。 「フツーの人間ができない事がオレは出来たりするんだな!」 「はあ」 「アルフォンス、お前、一番信じてないみたいだし」 へへん。 思いっきり胸を張るエドワード。ようやくコレでアルフォンスに錬金術を信じさせることが出来るのだ。気合も入る。 「いえ、そんなわけじゃ…。もうこっち来て何度か見ましたし」 「いいか。錬金術ってのは――――理解・分解・再構築!そして等価交換が基本。本来なら構築式――――錬成陣ってのを描くんだけど…」 「はーい、ここにトマトの種と土と水がありまーす。知識はラッセルの『ガーデニング初心者入門』から取得!」 「話聞けよ、サエナ!」 そして何処からともなく『オリーブの首飾り』のBGM用意。 「ちょっと待てェ!何だこの曲!錬金術は手品じゃないっての!!」 「こーして、…手パンで」 ――――ぱんっ。 ぱしー。 「そんなこんなで、トマトの出来上がり♪」 「――――うーん。あまり形が良くないねえ。ま、初めてならこんなもんかな?」 腕を組んで評価しているのはラッセルだ。 「形が悪いのはソースにしちゃえばいいのよ」 「なるほどね。じゃあ飾る分は俺が担当してやるよ」 「はー。…サエナでも出来る代物なんですね」 アルフォンスのちょっと冷めた視線。 「いや、…ちょっと待てェ!!こら、サエナ!お前、何か順序を踏んでないぞ!『努力』と言う…等価交換無視して…」 はっ。 「まさか。…門、見たのか?」 「え?…天国の門なら教会で見たけど…?青銅っぽいのとか」 「……いや、そうじゃなくて、え。あ…門を抜けないとこっちには……」 「エドワードさん、…誰でも出来る代物ならそうならそうと白状した方がいいですよ…」 ぽん。 肩に手を置く。 「ちーがーうーわー!!!」 「じゃあ、ぼくにも出来たりするのかな」 「やらんでいい。アルフォンス。お前はロケットで自分を保て」 「…なんか引っかかりますね、それ…」 「で。サエナは見たの?門」 「…さー?門はたくさん見たから」 『あの門』をくぐってきたのか、そうではないのかはアルフォンスのタイムマシン次第である。 ―外国旅行の必需品― リゼンブール近くの町。近くといっても列車で1時間も走らないといけない。 図書館で調べものがしたいと言うエドワードに連れられてここまでやって来た。 とは言っても、錬金術関係の本が多く、たまに機械技術関係のものを見つけても大して役に立ちそうもなかった。 セントラルの大きな図書館にでも行けば話は別なのだが…。 「…うーん…ないなぁ…」 「あ、アル見て〜!こっちの世界の話じゃない?これ。……よく読めない言葉だけど…絵の感じとか」 「…ああ」 ぺら。 ページをめくると歴史や宗教の話のようだ。 「…どうやら…『こちら側』は宗教の祭りがないみたいだね。…いや、宗教がないって言うのかな」 「なんかこまごましたのならあるらしいけどね」 「こっちの世界はそれで均衡を保てるのなら、それでいいんだよ」 「うん。そだね。行き過ぎた信仰は…争いの元になるから」 争いは、あった。 けど、この二人が知る由もないが。 「でも、ナターレもないのかぁ…」 「はは、知ってる人間からすれば退屈するかもね」 「お前らヒマだろ」 「…そう、でもないですけど」 「いや、ヒマそうだな。…こっちは発展した方向が違うからな、…だいたい飛行機なんてない。ロケット飛ばそうなんていう考え自体がないんだ」 苦笑して『ムリしていなくてもいい』と付け加えた。 「もう少しかかるから。ばっちゃんに頼まれた物でも買っておいてくれよ」 「アル、お金持ってきた?」 市場についた。 商品の前に置いてある、ダンボールの切れ端。そこに値段が書いてあるのだが…。その見慣れない通貨単位を見て呟く。 「マルクなら」 「…リラ…」 「サエナ、こっちのお金は?」 「私は貰ってない……」 「ぼくも…」 「「…………」」 ずーん。 そして再び図書館。 「お前ら、買い物もできないのかよ」 「だってお金ないんだもん!」 「開き直るな!!」 「…あはは」 「仕方ねえなあ……」 また三人で市場に舞い戻ったのは言うまでもない。 「あ、エド。コレ買って?」 「なんだよ、その箱詰め…」 「いいから!ウィンリィのお土産なの」 ―99パーセントカカオ配合― 「……今日の機械鎧、なんか真っ黒くないか?」 先日、壊れた義手。その代わりになる機械鎧を着けていた。 しかし…今日、『メンテナンスしてやったのよ』と着けられたのは妙に、黒い。 「気のせいよ」 「何か、重いし」 「気のせい」 「……溶けてきたし」 「うっさい!エド!」 「だって見てみろよ!この写真!!」 リビングのコルクボードにはたくさんの写真が貼ってある。子供の時からの成長記録。 「明らかにこっちの方が黒いぞ!それにこないだのやつ…」 「いちいちそんなこと気にしてるから、いつまでも――――」 「この歳になってまだちっさいなんて言うなぁあああ!!!!」 「ふふー…箱買いしたもんね〜、ウィンリとシェスカに」 「サエナ、何か楽しそうだね」 「ん?今頃大騒ぎできっと楽しい事になってるかなぁって」 「全く、ノリやすいんだから」 「……。――――って…あー!アルももらったんだ」 「え、ああ、うん。『義理です』って言いながらウィンリィとシェスカが置いて行った…大量に作ったんだって」 アルフォンスの手には箱。 どうやら『例』のブツらしい。 「アルまで東洋の文化引き継がなくていいのに」 言いだしっぺは自分だが、知っている筈のアルフォンスが受け取っているとなるとちょっと気分が悪い。 「………。あ、もしかして、あの二人に向こうの世界の『某国のお菓子業界の陰謀』教えたろ?」 「だって、こっちにない文化教えろーって言うから、分かりやすいのはそれかなぁ…って」 「あれはホントの文化じゃないよ…。別にお菓子の日じゃないから。これ」 「………。Per te l'augurio di una bella giornata piena d'amore.Buon San Valentino」 流れるような一続きの言葉。歌のように。 少し不機嫌そうな顔で、でも、言葉の最後の方は…穏やかな目だった。 「………。ん?」 少し考えて、訳して…。頬を赤くする。 「っ。……それ、誰かに言ったことは…?」 「ないよ!…小さい時読んだ新聞に書いてあって…パパに読んだかな、でもそれだけ」 「…じゃあ、ぼくはその言葉だけでいいけど?」 「でも、アルもウィンリィとシェスカからもらった」 「だから『義理』だって。ほら、ラッセルももらってたし、弟のフレッチャーの分もあったよ。それに、これ、一人じゃ食べきれない」 肩をすくませて苦笑。 「…………」 「出掛けよっか、二人で。…ホントはそういう日。チョコレートじゃなくて違うものでも買ってさ?」 「……。うん」 「こっちに来てちょっとワガママになったかな」 くすくすと笑うアルフォンス。 ちなみに。 「これ、食えってのか?舐めろってのか?」 機械鎧はウィンリィ特製、チョコレートコーティング…製だった。 世界でたった一つの…。黒くて重い…。 「ざぁーんねんでしたぁ!!99パーセントカカオは食べられたモンじゃないわよ。ふふふ」 「ふふふ、じゃねえよ!大体こんなの誰から…ってサエナかぁ!?あ・い・つぅ…!!!」 「…!そうだ。エド。3月には何か返してよ。よくわかんないけどそういう日なんでしょ」 「…そんなオプション知らねえな」 ・後日談・ 「何…でしょう、これ」 「…世にも珍しい『黒機械鎧』写真だそうだ」 リビングのコルクボード。 そこにはたくさんの写真…。成長記録。 そこに真っ黒な機械鎧。 「開き直ったんだな、エド」 「……あはは」 ――――そこには、幼いエド、アル、ウィンリィも笑っている。 「……これかぁ…小さい頃の写真、って」 劇場版 鋼の錬金術師 第11話 次回予告! ――――次回は確かに朝。しかし数日後の朝。 誰かが写真を見て呟いた。それは一人ではなくて。 小さいときの写真は、見た者を和ませる、が、それだけではなかった…。 |
全体的にギャグ化 短編集。 『門』:世の中の錬金術師様に謝らなければ(笑)。 『買い物』:…お金持ってないのに買い物に来たりしたちょっとマヌケ。 でもお金はあるんですよー。そこの国の通貨がないってだけで。 『カカオ』:99パーは食えたモンじゃない!とは友人・談。 そろそろ近いのでバレンタイン風。 ハイデリヒは多少イタリア語が分かるようです。 TOP NEXT |