会えない人 ―7―


「そのまま、なんだな」

 ロックベル家の二階。兄弟がよくお世話になった部屋。
 その扉に手をつけて。

「そりゃそうか、ガキん頃から変わってないもんな、この家」
 少し息を吐いて。


 がちゃ。

「アル、いる…………?なんだ、いないのか」
 期待で顔が笑っていたことに気が付くと…それを直そうとして妙な表情になる。

「ヘンだな」
 ――――使っていたと思われるカバン、コート、それにノート。…それらがみんなベッドの上に散らばっている。
「なんだ、これ。オレが使ってたコートにそっくりじゃねえか」
 広げて苦笑。
「でもアイツらしいな。これ着てればオレに会えるって?…――――と。遠くに出かけたわけでもなさそうだな。こんなに荷物があるし。晩飯には戻ってくるかな」







「エードー」
「っ?」
「ごはんだよー」
「は?」

 エドワードは持っていた本から目を離して壁の時計に目をやった。
 ……7時。
 一階からはまだエドワードを呼ぶ声がしている。
「…こんな時間か。読みふけっちまった、な」
 ぐーっと伸びをして、首をこきっと鳴らす。
 アルの錬金術ノート。錬金術師のメモは暗号化されていて他の人間は読めない筈だ。しかし。
「ま、昔よりは進歩したんだな…まだまだオレには敵わないけどな」


「ああ、今行く!」





「アルは〜?」

 ――――とんとんとん。

 階段を下りてくる足音が一人分だけだったのでウィンリィはエドワードの姿を確認する前に聞く。

「いや、上にはいなかったんだ。…なんだ、アイツまた何処か行ったのか?」
「ん〜。ま、帰ってきてもふらふら出掛けたりはしてるから心配ないとは思うけど」

「アレですね」
「何よ、シェスカ」
 シェスカはフフフ、と不気味に笑い、まるで怪談話をするように声のトーンを落とした。
「いる場所に行っても彼はいない。代わりに『ここに行ったのよ〜』って言われてそこに行くけどまた会えない…。それを繰り返して結局会えるのは…」

 ごくり。
 誰かの喉が鳴る音が聞こえる。

「結局、一番最初の場所なんです!!!!」


 がくー。

 もうちょっと面白い話を期待していた一同はがっくりと肩を落とした。
 某主人公が某ふらふら王子を追っている話しなんてどうでもいい。
「シェスカ、変な本の読みすぎ」
「何処かで聞いた話だねえ。ソレ」
「結局会えたならいいじゃない」
「ええ…」

「ま、そのうち会えるだろ」
 がたん。
 椅子を引いて席に着く。



「サエナ、そういえばいつトマトソース作ってくれるの?向こうに帰ったら?」
「あ。アル、覚えてたんだ」
「もちろん。……あ!…ええと、こ、この中にはないよ…ね?」
 聞いてから『もしかしてここにあったりしたら、怒るかも!』と焦りながら聞く。
 しかし大丈夫。テーブルに並んでいるのは…トマトソースとは縁のなさそうな…コンソメスープとかチキンの丸焼きとかサラダとか。パン。
「ないない!だってまだ材料が」
「俺のトマト期待してるならあと2.3日待っててよ。裏の畑失敬してどうにかやってるからさ」
「うん、うん!期待してる〜」
「ちょっと、ラッセル。…勝手にウチの畑いじらないでよ。モノが増えるのは嬉しいけど。つーか何時の間にやってたのよ」
「いいだろ〜?悪いけど、ゼノタイムのトマトは有名なんだよ?」

「お前、変わったなー、性格は変わってないけど。…ま。それが順調ならエリサも頑張ってるみたいだし。いいことじゃねえの?」
 ずずーっ。スープをすすりながら片手でフォークをひらひらと動かす。
「そりゃどうも」
「金細工はどうしたんだ?」
「ああ、やってる。…金鉱探し組と野菜組で分かれてやってるんだ。…自分で得意なものを見つけてさ。…俺も進歩しないのは嫌いなんでねー。しかし、お前の身長は進歩してないねえ?」
「いいかげんその話題やめろ。帰れ。ラッセル」
「いやだねー、何か楽しそうだしぃ?」


 ちらり、その視線はエドワードには向けられてはいなかった。





 劇場版 鋼の錬金術師 第8話 次回予告!

 ――――
食事シーンが多いのは仕方ない。

 それはさておき、今日はもう『あちら側』に帰る事は出来なかった。仕方ないので暫くロックベル家にご厄介になることになった一同。2つの大部屋で騒動が起きる…!






シェスカの話ドラクエ2です。
分かりましたか?(笑)

あのバカ王子、なかなか見つからないと思ったら最初のところにいたんだよなぁ…。


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