観光客 ―5―


 ――――その頃、エドワードは…。

「ウィンリィ。……あのさ、アル、は?」

 出かける準備のウィンリィに話しかけるエドワード。
 そんな必要ないのだが、なんとなく照れたような顔つき。
「…いるんだろ?帰ってるんだよな?」
 期待と不安で声が段々大きくなる。
 あえて『生きているのか?』とは聞かない。それは彼の性格でもあるし、また、そんなことを聞く自分も許せないから。

「お墓参りの時、会わなかったんでしょ?じゃあ二階じゃない?」
「二階?」
「ほら、よくあんたらが寝てた部屋。アル、帰ってくるとそこで寝てるから」
「そっか。…お前ら、出かけるのか?」
「うん、サエナとシェスカ。…あとラッセルかな」
「あ、アルフォンスも連れて行ってやってくれよ。アイツ……まあ、…アルといきなり会うのはちょっと驚くだろうし」
「うん、そのつもり」


 ――――いろいろ聞きたいしねぇ〜。
 と、ウィンリィの顔がにやりと笑う。


「トリシャお母さんが生きてたとしても、サエナにはいきなり会わせられないもんね」
「ああ、そうだな……。っ――――?」


 それだけ言うとウィンリィはリビングの方に行ってしまった。エドワードは今の言葉に何か、何か引っかかって。
 疑問符が最後についた。


「なんだっけ…?」
 ちょっと考えたが思い出せず、それより弟のことが脳内を占めていたため、直ぐにそれを忘れてしまった。
 だから、直ぐに彼は階段を駆け上がって行く。









「やっぱりお弁当持って来ればよかったぁ」
「やっぱりかなりの田舎だな」
「やっぱりセントラル所蔵の本とあまり変わらない景色が広がっているんですねぇ〜ということはですよ、もう100年以上前からこんな感じって訳ですよ」


「……やっぱりやっぱりって何なのよ、ケンカ売ってんの?」
「あはは」
 このマヌケな会話に加われないアルフォンス。
「アル…でいいよね?…――――はないの?『やっぱり』なこと」
「やっぱりも何もここに来たの初めてだからね。二回も三回も来れば…考え方も変わるだろうけど。空気もきれいで…いいところだと思うよ?」
「ふふ。ありがと、アル。やっぱりいい子だよね、アルは」
「!………。ありがと」
 少し気になったように一瞬目を見開いたが、いつもの顔に戻り、礼を言う。



 ロックベル家から少し離れた丘の上。
 何もない。
 気持ちいいくらい何もない草原が続いていて、ちょっと向こうに商店がぽつぽつとある。数えていたら眠くなりそうなくらい、ゆったりまったりと動く羊たち。
「まいったねえ、これじゃフレッチャーに土産のひとつも買えないよ」
 前髪を掻き揚げながらいやみったらしく息をつく。
「ちょっとラッセル、それ、エドがいる前だけでやってよね」
「はいはい」


 …とは言っても、結局リゼンブールには特に観る場所もなく。
 どうせ何日かいる羽目になるのだろう、と今日はこのへんでまったりとすることになったようだった。


「ふ〜…あー……あの雲ジェラートみたい」
「何それ?」
「アイスクリーム〜…」
「あ、いいなぁ…」
 ころんと寝転んで空を見上げる。
「こっちは…空気いいんだね」
「アルも同じようなこと言ってたわね。…何、そんなに空気悪いの?」
「――――そういう訳じゃないけど…」
 少しの間の後、そう答え、起き上がりアルフォンスの方を見る。
 アルフォンスとラッセルはちょっと遠くで何か……何かしているようだった。

「何してんだろ」
「ねえ」
「ん?」



 にやり、ウィンリィの顔がまたにやける。
 そしてこそっと耳打ち。その仕草にシェスカは目を輝かせている。


「あのアルのことはどう思ってんの?」


「あのアル?」
「だからあの…あそこにいるアル」
「いや、わかるけどね。………どういう…。ああ――――」


 ふわっと表情が緩まる。
「アルのことは好きだよ」



「「…………」」



「んもう!!かーっと照れる〜。とか何かしなさいよ!こーゆーのはあっさり言われたんじゃつまらないっての!何その柔らか笑顔はっ!」
「そうですよぉ!顔を真っ赤にするとか!そういう反応しなきゃだめですよぉ〜!!」
 その表情からして確かにウソではないのは分かるのだが、別の反応を期待していた彼女らは気に入らなかったようだった。

 ちなみにアルフォンス本人を目の前にしたら『この言葉』は言えない。本人がいないからこそ、だったと思われる。
 しかもこの二人とは長い付き合いではない。長い付き合いではないからこそ、言える事もあるのだ。

 つまり、アルフォンス(それか、比較的付き合いが長いエドワード)を前にしてこの話題を振れば、ウィンリィたちの期待していた反応が見られたのだろう(?)。


「………」
 ぼっ。
 言われて顔が赤くなる。
「遅いっての!!」

「――――ですねぇ。こう、リアリティに欠けるというか。…私が読んだ今までの本で一番つまらないですよ。こういうときは『え〜。なんとも思ってないもん』とか何とか言って引っ張るのがセオリーでしょう!?」
「シェスカ、アンタどんな本読んでんのよ。まあいいわ。…とにかく失格。もう一度やり直し」
「え!何が失格!?」



「「フツーの女の子らしくない」」
 きぱっ、と言うウィンリィとシェスカ。



「な。何それぇ…」


「じゃあもう一度聞くわ。『アルのことは?』」

「………えーと…」

「ほらぁ!!そこで顔赤くするっ!」
「そんなマネできないよ!だいたいそんなのコントロールできないでしょっ」

 ここまで『この話』できてしまえば照れも何も飛んでしまう。
 今更顔を赤くしろと言われても難しい注文だ。

「えーそうかなぁ?」
「涙出したいときは『たまねぎ思い出す〜』とかあるでしょ!?」
「ないよそんなのっ!」
「ウィンリィさん、そんなことしてたんですか?」


「えーい!!誰かどの台詞だかわかんない!!」
「最初に名乗れば?」


「何なんでしょう〜このマヌケな会話…」
「アンタも十分マヌケよ」





 劇場版 鋼の錬金術師 第6話 次回予告!

 ――――
その時のラッセルとアルフォンス。
 ラッセルはアルフォンスに何かを言い出す。

 その内容はアルフォンスに何を考えさせたのか…?






この話って時期的に何時ごろなのだろうか。
1922年…後半戦の頃かな。

本人目の前にすると言えないけど、そうじゃないと言えたり。
かといってウソではなく…。

選択肢としてめちゃくちゃ照れるというのもあるのですが、それだとウィンリィとシェスカの思った通りになる。
直球で物を言いそう、言って下さった方もいますので、直球で行かせていただきました。

ちなみにこの話自体はまたもやリクエスト。


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