適応力 ―4―


「……もう、二人して現実味がないんだから…」

 いきなり機嫌が悪いのはアルフォンス。
 これは独り言なので周りには聞こえなかった。
 が、しかしエドワードが聞いていたら『お前のタイムマシン(仮)だって現実味がないだろ!?』とツッコむかも知れない。

 動かなくなったタイムマシン、もとい懐中時計の蓋をぱちぱちと開けたり閉めたりしながら未だにざわついているリビングを眺める。
 なんとなく、一線引いて傍観者のように。


 ふと、アルフォンスの足元の床に影が作られた。目の前に人が来たからだ。

「ね、アル。ウィンリィが観光に連れて行ってくれるって。行こうよ」
 適応力があると言うかなんと言うか、既に錬金術世界の人間と溶け込んでいるサエナ。まるで引越ししてきた初日から、もうそこの方言を使い始める子供のようだ(意味不明)。

「………え、ああ、うん」
 一方、アルフォンスはこういう場面での適応力はどちらかと言えばない方だった。子供の頃から身体が弱かったからあまり外には出なかったし、自分が長くないと悟った時、今までの友人(ロケットの製作仲間ではなく)とは縁を切ったくらいだ。
「いや。…――――サエナ、行ってきなよ」
「え、ダメ。やだ」
 真っ直ぐ、目を見て否定。
 それはアルフォンスの目が、曇るような印象を受けたから。
「どうして?」

「とりあえず今は帰れないんでしょ?」
 アルフォンスの手の懐中時計に視線を落とす。

「うん、そうだね」
「だったら、『どうしようかな〜』って悩んでるより気晴らししたほうが良くない?」
「はは。そんなこと言って、サエナ、遊びたいだけだろ?」
 そこではじめてアルフォンスに笑顔が戻った。
「どっちだっていいよ〜。だから行こうよ!ねっ?」
「でも、ぼくこれ直さなきゃ」
「帰ってきてからウィンリィに手伝ってもらえばいいよ。機械、得意なんだって」
「でも、ぼくが作ったものだから」


「…門を抜けてきたわけじゃないんだな」
「わ、びっくりした!」
 アルフォンスの説得途中に背後から声。
「ラッセル」
「どういう意味ですか…?」
「いや、賢者の石を調べていて、…あとはエドから聞いてた。……禁忌を犯した錬金術師が見ると言う門。…それはそっちからじゃ通れないんだろ?」
「…よく、話が見えないけど、ぼくの世界では錬金術なんて衰退して消えた」
 アルフォンスの顔がまた曇る。
「へえ…」
「とにかく、ぼくはコレを直すから。サエナ、ウィンリィと遊んできなよ」
「えー…」
「ほらほら。…こういうのは一人の方が集中できるから、さ。いざとなったらエドワードさんもいるし」


「……そういうことなら、行こっか?サエナ」


「え」

「俺の錬金術、見せてあげるよ。エドのとはちょっと違うから見比べるのも楽しいだろうし」
「違うって?」
「俺のは医療に近いんだ。それを植物に応用して…みたいな」
「だからトマト作ってるんだ」
「……まあ、そういうことなのかな。いや、そうなのか…?」

「ちょ…」

「研究者ってのはさ、研究途中に内容知らないヤツに邪魔されるのが一番困るんだな。だったら他の所に行ってるってのが優しさってモンだろ」
「…………。そっか。アルの邪魔、したくないもんね」
 確かに、自分のような内容が分からない者が側にいたら迷惑かもしれない。


「……あ」


「じゃあ、アルフォンス。行ってくるよ」
「アルの分もお土産買ってくるからね」



「ちょ、…………う、待った。……ぼ、ぼくも行くよ…」


 ちなみに先程から短い言葉ばかり発していたのはアルフォンスだ。
 サエナの耳元で小さく。

「ウィンリィと出かけるんじゃなかったの?」
「だって、ラッセル、弟くんのお土産も欲しいって言うから一緒に出かけるんだよ」
「…やっぱり行く」
 むっとしたような顔を作り、どすどすとした足取りで椅子に掛けてあったジャケットを取りに行く。

「へんなの」





 劇場版 鋼の錬金術師 第5話 次回予告!

 ――――自分がやらかしたこととは言え、気持ちが晴れなさそうなアルフォンス。
 一方その頃エドワードは弟を探してウィンリィに聞いている所だった。

 ウィンリィの回答は!?






次回予告が段々よくわかんなくなってきた(笑)。


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