買い物へ行こう


「さて、次は?」
「ええと…あ、市場かな」
 小さい紙を広げ、上から順に数えて…。「ああ、次はこれだから…」と独り言の後、そう言った。
「ここからだと――――。…向こうの道の方が近いね、こっちだよ」


「…ごめんね、アル」
「うん?」
「買い物。…せっかくの休憩なのに、つき合わせてさ」
「なんだ、そんなこと。気にしないでいいよ」
 二人の腕にはこの時点で結構な量の紙袋があった。…とは言っても、取っ手がついているので腕に掛ければ手は空く。
「シア姉もさ、人使い荒いよね」
「はは。仕方ないさ。一人でお店やってるんだし。…それに、家賃、結構まけてもらってるんだよね、ぼく」
 みんなには内緒だよ?と、笑う。
「それに食事もお世話になってるし、出来ることならしようと思うんだ」
「ふふ」



「おや、サエちゃん。今日は随分買い込んでるねえ、うちでもどうだい?」
 市場につくと顔見知りから早速呼び込みに合う。
「うん。おばさんのところで買おうと思ってきたんだもん。まけてよね?」
「はいはい。でも、あんたたちはいつも二人でいるねぇ。あの小さい方の子はたまにしか来ないけど」
 『小さい方』と言われて、肩をすくめ苦笑する二人。
 とりあえずエドワードがここにいなくてよかったと思う。
「まあねえ、女の子一人じゃこの荷物は大変だからね。ほら、ハイデリヒくん」
「ありがとう」
「――――大事にするんだよ」
 受け取る間際、半ば耳打ちのような感じで言われる。
「はあ。……パセリを、ですか?」
 アルフォンスの手には今購入したパセリの束。
「あはは。バカ言わないの。ほら、サエちゃん行っちゃうよ」
「あ、はい。…じゃあ、またっ」


「……何してたの?」
「『パセリを大事にね』だって」
「へ?パセリを?…近々値上がりするのかなあ…」
「うん…。多分。……ま、いいか。じゃあ、次に買うものは?」
「んとね」
 紙袋を下に置き、メモをまた取り出す。
 サエナが確認している間、その袋を持ち上げ、自分の荷物と一緒にまとめるアルフォンス。

「あ、今ので最後だ。うまく廻ったね、最短距離だよきっと……って私の荷物がないっ!?」
 メモから目を離したときの、その驚きようはきっと見ていて笑えた筈。
 案の定、アルフォンスの顔は『そこまで驚かなくていいのに』と苦笑していた。
「ぼくが持ってるけど」
「あ〜なんだ……――――ってなんでアルが持ってるの!?」
「なんでって…重いだろ?」
「重くないっ!」
「いいよ、持てるから。そうだ。さっきのパセリと、これ持って」
 『これ』とは布なので全然重くない代物。確かに大きめの紙袋なのでがさばるかもしれないが…。
「ちょっとアル!!子供扱いしないでよっ」
「子供扱いはしてないよ。そんな年齢でもないだろ」
「もう!じゃあその右の1つ持つから!」
 アルフォンスの数歩前をバックで歩きながら(つまり、向き合って歩いている)手をのばす。

 ――――ぐいっ。

「は?」
 荷物を渡されると思ったら、腕を引かれ道路側から建物側に引っ張られる。その直後、車がすごい勢いで去って行った。
「…………危な…ッ」
「ちゃんと前見て歩こうね、サエナ、ここは路上だよ」
「…はーい……」
「パセリ、値上がりするんだろ?大事にしなきゃ」
「はーい…」
 苦笑しながら諭され、返事をするしかない。


「大事に、か」
 今度はおとなしく横を歩くサエナ。その腕…パセリの袋を見て先程の言葉が何故か思い出された。
「…………まさかあれって…」
「何?」

 ――――大事にするんだよ――――

「(ああ……そういう、こと…)」
 言葉の意味に気がつくと急激に顔が赤くなる。
「分かってますよ…」
 まだ赤い顔を隠すように空を仰ぐ。
「何が?」
「いや、空が晴れてるなあ、って」
 見上げると顔が赤いのはサエナにはバレない。
「そーだね、買い物日和だったよね」
「うん…」
「シア姉がお昼代くれたから食べていかない?疲れたよね。お勧めのところとかある?」
「ああ、じゃああっちの――――」






リクエストでした。
『買い物にでも行ってください。そして荷物を持ってあげてください』とこのこと(笑)。

こないだ、外務省HPの「海外旅行者へ」のムービーを見た。
「置き引きに注意」何があっても荷物から手を放してはいけません。
サエナ、下に買い物袋置いてるね。ダメな例です(笑)。


続・パセリ


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