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櫛の日なので櫛を描く。
色々説明するより話を書いてみる。
そして絵を描き直してみた。三年ぶりくらいに(笑)。
書き直しなので長義が指輪のネックレスしてるけども、話自体は婚姻前だな。
―――――――――――――――――
「は? 俺の髪を梳きたい?」
長義は審神者の髪を梳く手を止め、今しがた聞こえた言葉をオウム返しした。
「うん、これね、人にやってもらうと結構気持ちいいんだよー。 ね?いつも梳いてもらってるし」
「………。 遠慮願うね」
は、と息をついた後、長義はそう言う。
「うわっ」
「君はガサツだからな」
「えー」
断られた!と、頭をゆらゆら揺らしながら背後の長義に、どん、と身体を預ける。
「……おい、まだ終わっていないぞ」
「えー…」
「…何だってそんなに俺の髪を梳きたいんだ?」
「別に? 特に理由はないけどー…いつもやってもらってるからさぁ」
「……(さて…)」
* * * * * * * *
――――とある時代。
その日の遠征は時間遡行軍の討伐後、日を跨いで町の様子を見る(次の日に問題がなければ帰還)、としていたので時間が空いていた。
刀剣男士たちは各方角に一振りずつ散らばり、町の端から中央へ向けて歩く。
夜までに集合場所に戻れれば良い――――つまりは自由時間だ。
そんな折に小さな通りに佇んでいた店屋。微かな風にゆらゆらと揺れる暖簾にふと足を止めてしまった。
店先に並べられた乾燥途中の複雑な模様を描くように組まれた木の板。漂ってくる独特な香り。
「へぇ…櫛屋、か。 …そういえば主も持っていたな…」
ふと、思い出した。つげ櫛は古来からお守りになり―――。
「(ああ、そんな話もあったかな…)」
他には、と長義はしばし立ち止まり記憶の糸を辿る。
刀剣男士たちは「人の身体」を得てからの時間さえ短いが、この世界に存在していた時間は長い。数百年。
その間、色々な時代の人間を、文化を、民話や神話を見てきた。
「(! ――あぁ、なるほど、…………良いな)」
脳内でピン、と何かの記憶の糸を探り当てる。そうして気が付くと店の暖簾をくぐっていた。
決して大きいとは言えない静かな店の中。しゃっしゃっ、と木を擦る小気味よい音だけ響いて。先程より強く燻しの香りが漂ってくる。
木製の建具は経年で真っ黒になり、それだけで多くの歴史を見て来たのであろうと感じた。
ああ、思い出す。職人、という人間たちを。
「店主、こちらの櫛を見せてもらえないかな」
長方形の大きな板の上にずらりと並んだ眩しいほどに黄金色の櫛たち。
長義はそれらに目を落とし、それから店の奥へと声をかけた。
「どうぞ! 兄さんが使うのかい?なら、大きめのやつを出してやろうか?」
「あぁ、いや。女性への贈り物と、思ってね」
「おお、そうか!なら―――」
贈り物、と聞いて店主の声の高さが上がった。嬉しいのだろう。
作業の手を止め、分厚い手を手ぬぐいで拭い、小さな箒で自身の周りを掃きながら作業台から立ち上がった。
そうして櫛の歯の違いなどを店にある櫛を手に取りながら話し始める。人によって髪質は違う。だから櫛の歯の荒さも変わってくるのだ、という。
凝り性だ、と長義は自分でそう己を評した。
気が付くと店主の話に聞き入り、質問を重ね。
「(…まぁ……俺もその職人――刀工の手から生まれた刀、だからな)」
「――――なるほど。話は分かった」
暫くして、ふむ、と息をつきながら。
「……では、また出直そう。その時に受け取りに来るとしようか。…何、また近いうちにこちらの地域に来る予定があってね」
長義は渡された紙に必要事項を書き込み、手渡す。
遠征で一度任務を完遂しても少し間をおいて様子を伺いに再度その時代に派遣される事もあるのだ。この地域と時代はその条件に当てはまっていた。
「うーん、今からだと三か月ほどだね、その位で来てくれればいい」
ぺらぺらと注文票の束を確認しながら指折り数え。
「わかった。ではその頃に」
「ああそうだ。…ええと、……兄さんならこの形はどうだい?」
店主は注文票の束を横に置き、使い込まれた引き出しから数枚の紙を取り出した。沢山の櫛の絵が並んでいる。つまりこの店で作ることができる櫛の形の一覧表だった。
「――――へぇ…。櫛と言っても色々あるもんだね」
「…よし。じゃあ、とっておきの櫛を用意するよ。楽しみにしていてくれ」
店主は注文票の記載に指定漏れがないか再度確認し、ぱん、と手の甲で叩いた。
「ああ、それはありがたいな」
「…兄さんの願いが叶うようにね」
「! ……はは、当然。 ま、もう決められた事だけどね。こういった事にはこだわりたいと思っただけ、かな」
「お、随分自信満々だなぁ」
「はは、 あぁ、それではまた。…時間を取らせたね。興味深い話をありがとう」
「いや!こちらも楽しかったよ。男性のお客でここまで突っ込まれたのは初めてだ!まるでモノの気持ちが分かるみたいにねぇ。……これを受け取る子は幸せだな。こっちも腕が鳴る」
「! ……あぁ、そういった心持ちで作ってくれるのなら、俺もありがたいよ」
長義は指定ができる全ての希望を伝え、次の遠征時に受け取りに行ったのだった。
* * * * * * * *
―――これが現在、山姥切長義の手にある少し大きめの櫛だ。
店主曰く「兄さんらしいよ」と少し角がある櫛。確かに丸を帯びたものよりそうかもしれない。
それからというもの、朝晩、自分の主の髪を梳きながら、朝は今日の予定と晩は今日の報告会をしている。
それがいつの間にか「審神者」と「近侍」の日課になっていたのだった。
「……主」
髪から櫛を下ろし、油布で拭き、机上の紙の上に置く。
呼ばれて振り向いた審神者と視線が合うと、ぽん、と膝を叩いた。「乗って」の合図だ。
「え、重いよ?」
「…知ってるだろう?俺たち刀剣男士と人間の感覚は違うと」
そうなのだ、粟田口の子供の様な見かけの男士たちでさえ、審神者を軽く持ち上げられるし、そもそも「重量」というものを感じていないようにも見える。
「…どうするんだ?」
「どうする」などと聞いているがこれはほぼ強制なのは知っている。
胡坐をかき直した長義の膝にそろそろと腰を下ろすと、同時に腕が伸びてきて、より近くに。
「んっ!? 長義!?」
「さぁ…こうして、…審神者の霊力を頂こうか」
「あは、何それ」
「はは…」
この二人の身長差はほんの少しだ。つまり、膝に乗ると長義は審神者を見上げるような構図になるのだ。
「長義の髪さらさらー。青みがかった銀髪きれいだよねー」
「おい、あまり乱すなよ。先ほど言ったばかりだろう」
「私に頭を預けたのが失敗ですね、長義さん?」
「……」
「―――ひゃ!」
ぐっと腕に力を籠め、抱きしめられたらそれは顔を胸に埋めるように。
「ん… ちょ、ぉ ぎ…ぃ」
「おや、何を驚いているのやら。……あまり妙な声を出すと…どうなるかわからないよ」
「……もう」
唇が動く度に、服を通して振動が伝わってくる。
鼓動の速さが気が付かれてしまうだろうか。
「……。俺の髪、梳きたいのならどうぞ。丁度梳きやすい位置だろう」
「!」
「まぁ、君に頭を預けてしまったからね、仕方がない。たまには任せようか」
先程机に置いた櫛を渡して。
「ただ――俺はこのままでいるけどね」
ふふ、と笑ったような息の流れを感じて。
「ん。 …じ…じゃあ、動かないでよ。ガサツとか言うんだもん」
「へぇ? 「このまま動かない」のでいいんだな?勿論、俺は構わないよ」
そう、顔に当たるこの柔らかさも良い、と思っているのだ。流石にそこまで口に出していじめることもないと思ったが。
「………っ え ぁ。 い、 いいからじっとしてて!」
「はいはい…」
「……。 主」
梳かれながら、長義は暫くの無言の後、口を開いた。
よく擦られた櫛の先端、確かにこの頭に伝わる刺激、それに時折撫でるように指先を滑らせる審神者の指の感覚は確かに心地が良い。
頭を誰かに触られたくはないが、この手なら、指ならばいくらでも許そう。
「んー、なに?」
「つげ櫛というのはお守り…という意味がある、という事は知っているね?君も自分で持っていたくらいだ」
「あぁ、 うん」
「…なら、その他の言い伝えもわざわざ俺が言わなくてもわかるのだろう?それとも、言って欲しいのかな?」
頭が少し動いて、上目遣いのように。
梳いたばかりの指どおりが良い銀色の髪の間から、深い青い目がしっかりとこちらをとらえる。
「! あ…」
ふわあっと栗色の瞳が開かれる。いつもより光を宿し。
「おや、…そんなに真っ赤になって」
「あ、えぇ、…と。それって」
「…俺は、本気だけれどね。 まぁ、その反応。「知ってて俺からの櫛を受け取った」と受け取るよ。…俺の主」
***********
「つげ櫛屋、か……。 ――――あぁ、なるほど、良いな」
店先に置かれた櫛になる板たち。
男性が女性に贈る、その意味は――――。
つづき、櫛の話。
そしてまた違う時の日常の櫛の話。
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