8. November 1922


「ふふー」

「キモチワルイ」
「何よ、そんなカタコトで言わなくてもいいじゃない!」
「だってお前、突然そういう笑い方するだろ」
「ふんだ、じゃあいいですよー、シア姉が作ったクッキーあげないから。砕きチョコ入ってるやつ、私の!」
「それとこれとは話が別だ!…大体、「みんなで食べてね」って置いて行っただろ!お前のものにすんなっての」
 エドワードは、そう言いながらテーブルの上にあるバスケットからクッキーを一つ取り、口に放る。するとサエナは「形がいいヤツ取った!チョコ取った!」などとぶつぶつ言いながら、そのバスケットに手を伸ばした。
「(またやってるよ…全く毎度飽きないなぁ)」
 苦笑しながら、アルフォンスも手を伸ばす。
 誰か一人食べ始めると気になるものだ。気がつけば、テーブルの上にあるバスケットに三人で手を伸ばしていた。
 しゃくしゃくしゃく、と暫く三人でクッキーを食べ続けて。

「! で、なんなんだよ」
「はい?何が?」
「そのキモチワルイ笑い」
 片手に持っていたペンを、くるりと廻し、サエナに向ける。
「忘れたのかよ」
「ッ、別に」

 ――――とある天気がいい11月初旬の午後。
 今日は平日だが「研究室の近くで工事があって通れないから休みだ」と朝、連絡が来たまま、外に出ずにいた。
 それでも午前中は男二人、部屋に篭って図面を描いていたが、午後二時を回ったあたりで「クッキー貰った」だの「お茶があるよ」だの言われ、リビングに来たのだった。
 椅子について暫くして、頬杖を付いていたサエナが突然笑い始めた所で…。

「あのね、そろそろナターレだなぁって」
「(全然そろそろじゃないよ…)」
「あ、アル、不服そうな顔ー!」
 たちまち指摘されてしまう。
「えっ…いや、だって…まだ11月も入ったばかりだし…さ。まだシュトーレン食べないし」
「いいのいいの、一ヶ月くらいなんて誤差のうちだよ。ね、だから」

 しゃく、未だにクッキーを齧ったままのエドワードと、苦笑しているアルフォンスを見て。
「予約しておくからね、アルとエドの二人のこと。今月から一ヶ月間…、泊り込みとかしないで絶対帰ってきてね」
 微笑んで、そして少し頬を赤らめて言った言葉に、一瞬二人の動きが止まる。
「…っ」
「あ、ああ…」
 サエナの頬の赤さが伝染したのか、聞いていた二人も赤くなって。

「…すっごく遅くなったら泊まるのも仕方ないけど、そうならないように明るいうちに帰ってきてよ。 ね、どう過ごそうかいろいろ決めてあるんだから!」
「な、なんだよ、別にそんなの当日言やいいだろ」
「当日言ったんじゃエド、逃げるじゃない!」
「逃げてねえよ!」
「逃げた!」
「ああ、もう、二人とも!!わかった、わかったよサエナ。約束守るからさ。ね、エドワードさん、いいでしょう?」
「しゃーねーな」


「うん、じゃあ約束だよ!」




「で…今日の夕食何かなぁ」
「…たまには作りに行こうかなぁ、とか出ないのかよ」
「(…全く)」
 そのまままた言い争いのようなものが勃発しアルフォンスは苦笑しながらポットに残ったお茶を二人に注ぐ。
「あ、アル。ポットの中身終わったらさ、次はチョコラータ飲もうよ。クッキーの材料のチョコ、余ったって貰ってあるの!」
「ああ」

 特に大きな事件もなく、こんな風に過ごした11月。





 ――――まさか、その一年後に何もかも崩壊するなんて。ぼくは思っていなかった。
 もしかしたらエドワードさんは…とは薄々思っていたけど。まさか、送って、送られる事になるなんて。誰が想像しただろう。
「サエナ…」




*




「………ほら、お前が予約………いや。やめとこう」
 苦笑し、首を横に振った。
「兄さん?」
「…いや。…ちょうど、一年前だなって思ってさ」
「一年?」
「……いや、……アルフォンスが…こう、なった日の一年前だ」

 エドワードはミュンヘンから離れる日、花束とクッキーの詰め合わせを持って、とある場所に訪れていた。
 そして、それを渡す。
「…お前を頼らずに、今年はオレが予約してやるよ。………なぁ」



 ――――オレの大切な、家族。





チョコラータ 飲みたいのは 私です
ハイ。コーヒーがあまり好きではないので、バールに行くとチョコラータ飲んでます。ウマー。
某バールでチョコラータ+チョコが出てきたことがあって「そこまでチョコ食わせたいのか(笑)」と思ったことが…。
そういえばあれは………ミュンヘンのショッピングモールだった(でもイタリアのチェーン店かな)。
ドイツと言えば…知人さんが出してくれた紅茶についていた砂糖が…袋開けたらタブレットで吹いた。
一瞬「風邪薬渡された!」と思ったけど、表示読むと砂糖だし。あれには一度しか会ってない。

はい。今年もやってまいりました11月8日。
どうも暗い感じになりそうなので、あえて、1922年です。多分まだ…まだ大丈夫だった頃。
暗い話になる必要はないですよね?
普通の日でも構わないわけですよね?

本当は工事じゃなくて治安が悪い、と言うことにしたかったんですが、無駄に長くなりそうなので…。


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