小さいライバル


「!」
 とある秋の日、建物と建物の間、小さい小さい路地に彼は「それ」を見つけてしまった。
 「それ」はふうっと彼を見上げると――――。

「何してんだよ、お前」
「え!ああ…なんでもないですよ!ほらほら、早く帰らないと」
「…鞄、…開いてんぞ。ちゃんと閉めとけ」
「! ええ…」
 アルフォンスはエドワードから指摘された鞄を半分だけ閉めて、特に問題もなく歩いていくその背を追いかけた。



 アパートに到着して、グレイシアに挨拶をして…、そのまま階段を駆け上がり部屋に入って…、は〜と息を付く。
「…よく、静かにしていたね。ほら、出てきていいよ」
 アルフォンスは半分開けっぱなしだった鞄から「それ」を出して抱き上げて…。

「なるほど、そぉいうことかよ」

「!!!…よ、よく…わかりましたね…」
「ワカリマシタネ、じゃねえよ。問題そこじゃねえし!!…そういうのよくやってるヤツがいたからな。んで、どうすんだ?こんなんサエナが見たら…」

「うっわー!!どーしたの!そのコ!!かーわいい!抱かせて抱かせてー!!!」

 背後から勢いよくかかってきた声と行動。
「……ほぉらな…」
 ぴきぴきと額に筋を作るエドワードと、申しわけなさそうなアルフォンス。
 そしてサエナの腕の中で…、「な〜ん」 と鳴くネコ。


「アイツに見つかったら元の場所に置いて来いなんて言えないだろ…」
 あれから少し落ち着いた30分程度…後。サエナは「何か貰ってくるね」と一階に降りてしまった。
 エドワードはネコの頭やら喉を指で撫でながら息を吐く。
「分かっているんですよ。…その、飼える訳じゃないのに、手出しちゃいけないのは…」
「だったらどうして!」
「あ…だって。夜になったら今より冷え込むし…明日、あの場所通ってもし…」
「………へいへい」
「大体!目が合っちゃったんですよ…!」
「そんなの理由にならねえ!」
 これ以上アルフォンスを責めても、彼がどんどん沈んでしまうのは目に見えているのでエドワードもそこまでにしようと思って「へいへい」と相槌したのに、「目が合う」とかなんとか…。
「ったく、言い訳並べるよりやる事あるだろ」
「飼い主探しですね。…ぼくがやりだした事ですから、ちゃんと責任は持ちますよ」
 アルフォンスは小さい猫の頭にぽん、と手を置いて。

「アル、エド!飼ってもいいって!!」
 ぱたぱたと廊下を走る音がしたと思ったら、ドアを開けて直ぐにそんな声。
「「はぁ?」」
 だからアルフォンスとエドワードはその意外な言葉に二人同時でマヌケな声で聞き返してしまう。
「だから、シア姉が下でならいいって…。上だと他の人の迷惑だからダメだって言ってたけど」
「へえ。…良かったな?」
「え、ええ…」
「おいでおいで〜。良かったねー、ネコちゃん。……―――って!アルの方が好きみたい!?」
 手を出して呼びかけても、アルフォンスに身体を擦り付けてこちらに来ない雰囲気のネコ。
「…んもう。ゴハンでつってやる!ほーらー、おいでー」
 そうすれば寄ってはくるのだが、サエナ的には面白くない。
「お前がうるさく言うからだろ」
「えー…」
「こういうのはさー」
「何、エド詳しいの〜?」

「………はは」
 自分がやりだしてしまった問題とは言え、嬉しかった。そうして騒ぐエドワードとサエナを見てなんだか楽しくて笑っていたのに…、
「あ〜…やっぱりアルが好きなんだ…!?」
 ネコがアルフォンスに寄ってくるから、「な、なんでだろうね…」とその笑いは苦笑になってしまうのだが。



「あら、いいわよ。ネズミ除けにもなるだろうし、ここに置けばもしかしたら飼い主も見つかるかもしれないし」
 それからグレイシアに感謝と謝りに来たアルフォンスを彼女は特に問題もなく笑いながら答えた。
「ぼくも飼い主見つけてみますから、少しの間お願いします」
「そうね、でもムリはしなくていいわよ」
 アルフォンスはぺこりと頭を下げて、店先を後にする。それから、まだ陽は落ちないからネコが食べるものを買って来ようとサエナを連れて(と言うか、ついて来た)外に繰り出した。


「なーんか!なついてくれないよ…あれからミルクとかいろいろあげたのに!」
「エサではつれないのかな。エドワードさんには?」
「…同じかなぁ…別に普通、って感じ」
「はは」
「笑い事!…ふーん、なんだかよくわかんないけどアルはなつかれてるもんね。あのコ、女の子なのかしらねー!」
 ぶんっと鞄を振り回しながらアルフォンス横を数歩駆けて。
「お、女の子…??」
 サエナは確かにおもしろくはないだろうが、何もネコにまで嫉妬しなくてもいいだろうと思う。そして「ネコと一緒に昼寝でもしてみたら?」などという自分でもよく分からない助言をしてしまうのだった。
「…ね、アル、自分で拾ってきたってことは…大丈夫なんでしょ?」
 それからサエナはアルフォンスの直ぐ横に来て、心なしか声のトーンを落して。
「え?」
「…あの、咳とかの、方…。ダメだったら早く飼い主見つけなきゃ」
「! ああ…、大丈夫だよ。アレルギーじゃないしさ」
「そっか」
 「じゃあ、飼っても大丈夫だね!」とまた声のトーンが戻る。それから「どうしたらなつくかなー」と独り言を展開。

 そんなサエナの変化を感じながら、アルフォンスの心の中では、『しまった』と『少し嬉しい』気持ちがあった。
 『しまった』は、心配させた事や病気を言わせてしまった事。
 『嬉しい』のは…心配してくれる事。他には目もくれず、一点にこちらを見てくれること。
 「(心配するな、って言うのに…我ながらぼくもおかしい、か…)」




「な〜ん」
 それからアパートに帰ったら猫は小さな男の子の腕に抱かれていた。
「そっか、…仲良くしてあげてね」
 アルフォンスがその男の子とネコの頭を撫でる。
 この短時間だが、店先にいたネコは買い物に来たとある親子の目に留まって、貰われていく事になったらしい。

 小さく、聞こえないように、「え〜」…と声を漏らしたサエナ。もちろん男の子に見えないように、アルフォンスのカゲに隠れて。
 飼う気満々だったから、これから「ネコがライバル!」なんてバカな戦いで少しでも面白くなれば、なんて思っていたから。エドワードが飼う事に反対しながらも楽しそうだったから。
「…あの、これ、今買ってきたんです。…大事にしてあげてくださいね…」
 サエナは男の子のお母さんに今買って来たエサを渡す。

 ――――と、ここまでは、いい話で少し寂しい別れ、だったのに。

 最後にネコがアルフォンスにキスするように顔を擦り付けてきたから、それがネタで暫くサエナには…、

「絶対あのコは女の子でアルに気があったの!!」
 …と言われてしまうアルフォンスだった。





アルはネコ好き。
よく言われていることですが…ハイデリヒもそう??

でも拾ってきただけではないですよ。ちゃんと最後まで面倒見るつもりでは…あったと思う。
サエナのライバルはネコか(笑)。


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