教会の扉
教会の扉は「こんな大きいの開けられないよ!」と思わず声に出すほどとても大きい。そのまま視線を上に上に。 『…こら、サエナ。首が痛くなるぞ』 ぽかんと口を開けたまま、扉とそれに続く建物を見上げて、そのまま後ろに頭から転げるような体勢になっている娘に苦笑して。 『だって、こんなおっきなドア、開けらんないよぉ』 ぶすくる娘に父は苦笑して、 『ほら、手をつけてごらん。お前が入りたいのなら開けられるから』 言われるまま、扉に手をつけて…。 ――――多分、あの時開けられたのは、父が扉をサエナから見えない上の方で押してくれたのだろう。 「だってこんなに重いもん、あのときの私じゃムリだなぁ」 確かあれは小さい時何度か連れて行ってもらった大きな都市の教会の事だった。 そして、国が違って場所が違っても、教会の扉が大きな事には大して変わりはなかった。軽い力で開けられるように工夫がしてある物もあるが、特に木製の扉は体ごと押さないと開けられないくらい重さの物が殆どだ。 「今は開けられるから、いいんだけど」 一歩入るとひやりとした空気が頬をなでる。 遠い天井。遠い彫刻。柱から柱に渡る石の曲線。 「昔…」 こんなに大きくはなかったけれど、村にも教会があった。 そこの扉は呼べばシスターが開けてくれたし、大体昼間は開けっ放しになっていた。 一人で来ても、優しいシスターが出迎えてくれたから寂しくはなかったし、また、寂しいと感じる理由もなかった。 「もう何年か…?」 子供の時より弱くなってしまったのかと思うくらい、突然寂しくなる。 一人で教会に来るなんて昔からやっていた事だったのに、なんだか今日は、このひやりとした空気、高い天井に胸が締め付けられるような気がする。 今朝、具合が悪かったのだろうか、少し顔をしかめていたが、それでも「なんでもないよ」と出かけてしまった。こういう時は特に思う。 もし、このまま、夕方になっても…帰らな…―――― と。 でも、そんな気持ちをアルフォンスに悟られなくないし、エドワードがいる手前、そんな顔もできない。だから、アルフォンスの首に腕を回していつもの通りに頬に挨拶のキスだけする(そんな習慣がなかった(?)エドワードはそれだけでも変な顔をしているが)。 「…う」 ――――どうか、どうか、アルのことを守って下さい。アルが頑張れる事を止めないで下さい。 私からこれ以上誰かを連れて行かないで下さい。 「……」 聞いた事があるお祈りの言葉のような言葉で言う余裕はない、そんなのわからない。だから、溢れる言葉だけ呟く。 縋るような目で祭壇を見つめても当然、何も起こるわけがない。ここで天使の羽が降って来たり、そこだけ特別な光が落ちてくる…などとどこぞのお話のような出来事なんて信じているわけではない。 「……あ、はは」 とん、と壁に背を付く。石の冷たさを感じる。 窓は背丈の場所にあるわけがなく、上の方なので、自分がいるところがとてつもなく暗く感じて。 「あー!もう〜!!アルのバカ!絶対…あ、とで……」 「あれ、サエナ」 「よぉ、何だこんな所まで」 州立図書館の出入口。コートのクロークの近くにその姿を捉えて二人は同時に声を発した。 「何だよ、はないよね。外見てみなよ」 え?と外を覗くと。 「うへえ!雨じゃねえか!!」 「き、気が付きませんでしたね」 「は?ホントに気が付かなかったの!?」 当たり前だが、建物の中でも雨の音は聞こえる。それに気が付かなかった二人は…らしいと言ったらしいかもしれない。 アルフォンスの体調もよくなったようで、顔を見ても辛そうではない。 「ほら、欲しいでしょー」 へへーと笑い、ゆらゆらと二人の傘を目の前で揺らす。 「おお!サエナー気が利くな」 「でしょう〜?ふふ〜」 上目遣いでにやりと。 「何だよその顔」 「………お、お望みは?」 「ほんっとに好きだよな」 「…そうですね」 木の扉に手を付いた二人は、当然だがサエナより軽々と押し開けている。 「んで、何がしたいんだ?」 先程と同じひやりとした空気。 先程と同じ遠い天井。 「――――ん〜!よし!帰ろう!!」 「「はぁ?」」 「だから、もういいよ?」 「何かしたかったんじゃないの!?」 「ああ、扉が〜…」 「扉?」 「さっき開けたアレか?」 「ねね、また来ようね」 ――――天使の羽とか降って来なくていい。 特別な光とか降って来なくていい。 「わけわかんね」 「はは…」 「…良かった、もう、寂しくない」 |
毎度、いつもの教会ネタです。祈ってばかりだな。 いつも穏やかな気持ちで行っているわけじゃない。たまにはこういう気分だったりするわけですよ。 ミサの時の言葉を全部訳してみたい…!! 今朝、ちょっとしたことで不安になり、雨も降ってきたから傘を届けようと出かけたけど、やはり不安で。 教会の独特な冷たい空気が今日は違う風に感じ取れて。 補足。 教会の空気はホントに一歩入ると変わります。 扉は体当たりしないと開かない重いのばかりです(軽いと逆にビビる)。 そういや、書いててフェバを思い出しました。天使天使。 TOP |