打ち上げ花火


「……お前、結構素直だよな」
 いつも使っているノートとは別のものを広げ、そしていつも使っている本とはまた別のものを広げている。
「それは褒め言葉ですか?」
 苦笑しながらノートに計算した数値をさらさらと記入。
「………。いつもぼくらがやっているものと比べたら簡単なものですよ。別に大変だとは思わないし。火薬の調合以外ならサエナにもやらせてあげられる」
「ふーん…」
「エドワードさんもやるでしょ?」
「……見るだけならやったっていいけどな」
 言葉はやる気がなさそうだが、表情はにやりと笑っている。
「はは、それ、やるって言いませんよ」




 事の始まりは一週間ほど前――――。

「アル兄ちゃんってさ、なんか作ってるんでしょ!」
 よく店に来る近所の子供。
 その日はグレイシアとサエナ、二人で店をやっていた。
「んー『ロケット』っていう…空の向こうに行く乗り物だって。出来たら見せてくれるって」
「ホント!?………。ねえ、それ今すぐ出来ないの!?」
「え?なんで?」
「空の神様にお願いするんだって。こないだ聞いたんだ!」
「…空の?」


「……ああ、そういう話もあるね」
 夕刻、台所で二人で立ちながら昼間の話になった。
 早めに帰って来られたから、グレイシアの夕食はキャンセルして自分達で作っている。
「農村地帯だと似たような話しは何処でもあるんじゃないかな。ロケット花火の火薬はちょっと気を使えば作れる。それをお祭りにしているところがあっても不思議じゃないね。…――と、はい、こっち入れて」
 話しながら鍋を傾けてサエナの手にある食材を入れる。
「危なくないのかなぁ…火薬で上にぼーんと飛ぶんでしょ」
 手でそんな真似をして。
「調合さえ気をつければ難しくないよ。…そっか、だったら小さいのなら―――ぼくが造ろうか?」
「出来るの?」
「もちろん。…それでその子の気が晴れるならいいんじゃない?」




「アル、エド!できた?」
 パンの籠を抱えながら部屋に入ってくる。
 時は戻って、アルフォンスが作業している部屋。
「うん、大体ね」
 サエナが差し出したパンを受け取って齧りながらそう答えた。
「うぁ〜……」
 手元のノートを覗き込んで顔をしかめる。最初から理解できるとも思っていないから、そんな顔になってしまうのだが。アルフォンスのノートはいつもよりは数段簡単な図が描かれていた。
「明日、必要なものを買ってきて…で、これを元に造って」
「打ち上げだね〜」
「…ったく、なんだよ。そんなに盛り上がって」

「空の神様へのお願いのお祭りなんだって。それやりたいーってさ。この辺農家多いでしょ、やっぱり気になるんだよね天候」

「空の、神様ぁ〜?なんだそりゃ」



――――空高く、それを送り出して。
 お空の神様に届いたら、恵みの雨を降らせてもらうんだ――――。



「アル、ちゃーんと成功させてよ?」
「責任重大か、わかってる。ちゃんとお望みのものを打ち上げるさ」
 次の日。
 アルフォンスは必要なものを調達してきてそれを昨日書いたメモ通りに造っていく。
「どうせみんなで見るとか言うんだろ、サエナ、今のうちに他の奴らに声かけておけよ。オレはこっちやるから」
「えー!私も手伝いたいのにー!」
「別に代わってもいいけど…お前、手伝いできるのかよ」
「ムカ〜…」
「ちょっと、二人とも!何騒いで…できたら声かけに行っても遅くないよ。どうせ打ち上げは明日なんだから」
「まぁな…今日そのまま打ち上げるわけにもいかねえし」

「ね、カウントダウン、私がしてもいい!?」
 芝生のような短い草の上。三人でこうして何かをしている事が妙に楽しくて。変なくらい元気になってくるくると廻ったりしながら。
「へえ、責任重大だぜ?」
「あはは、みんなが注目するかもね」
「えー!私よりロケット花火見てよ〜」




―――君が望むものを空高く。

春に花が咲いて、秋のための種を蒔いて。
夏に暑い日差しを浴びながら鮮やかな緑に目を奪われ、
秋にはたくさんの実りを喜ぶ。

そして、冬は暖かいストーブの前で…――――。



「空の、神様にぼくの作ったものが届いたら…そんなのがこれからの現実になるのかな…」


「なーにー!?」
 聞こえる筈もない、アルフォンスの独り言に反応できたとも思えないが、走り回っていたサエナの声。
「なんでもない!…サエナ、こっち引っ張ってて!」
「はいはいー」

「…と、アルフォンス、こっちやっとくな」
「あ、お願いします」


 明日、これの打ち上げが成功できたら。
 今造っているロケットだって成功できるだろう。

 その時には、一番に見える場所に連れて行ってあげる。





えー。ロケット花火打ち上げ祭りってホントにあるんですね。
タイ?だっけ。
巨大ロケット花火を打ち上げて、豊作を祈るお祭りです。

こういうのっていいよね。
話をちらーっと聞いて、やってみたいなって感じで。
聞いた話を自分達でやってみる。
なんか外でやっていると楽しくなってくる。そんなんかな。

次の日、友達やらを集めてやったんでしょう。


その空に、届くことが出来たら、望む未来が手につかめるのかな。なんて。
だから、笑ってよ。笑ってて欲しいよ。


ハイデリヒの方が料理がうまそう(笑)。


私にとってはロケット花火にしか見えない図面が…ドイツ博物館にもありました(笑)

24.06.2007



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