誓いの言葉


 そんな習慣も興味もなかったエドワードは彼らをいつも見送る役だった。
 「家を空けるのもよくないだろ、この日のこの時間じゃ誰もいないってモロバレだからな。留守番してるよ」…と言うのがエドワードの弁だが、興味がないことのほうが先に立っているということはアルフォンスは知っている。だから、無理やりには誘わない。
 アルフォンスとて、サエナが来るまでは毎週欠かさなかったわけでもなかったから。
 ……何が、と言うと、日曜の教会の礼拝。


「エド、家にいると思う?」
「ぼくらが帰るまでいるんじゃない?」
 教会からの帰り道。
「ね、そう言えばテレジエンヴィーゼのあの教会って〜…ここから遠いんだよね」
「そうだな…。市内だから歩けない距離じゃないけど…帰ってくるのにちょっと大変かな。……っ、けほ…」
「………。早く帰ってあったかいもの飲もうか」
「ああ」
 そんなことを話しながら帰路につく。話しながら、と言ってもそう遠いわけではないので話が盛り上がる前にアパートについてしまうのだが。



「よぉ、早かったな」
「ええ。――――…あ、出かけるんですか?」
「ちょっと、な。州立図書館。…そうだ、借りてきて欲しいのあるか?」
 アルフォンスたちが帰ってくるなり、コートを引っ掛けるエドワード。
「あ、じゃあお願いします。今日はそっちに行けないから。……と、これ、と……」
 急いでメモ帳に本のタイトルを書いて渡すアルフォンス。エドワードはそれを確認すると「じゃ」と出かけてしまった。
「…?」
「………どうかした?」
「うう、ん。…あ、シア姉の昨日の夜のスープあまってる。飲む?温めるよ」
「うん、ありがと」


「サエナ…。…これからぼく、出かけてくるけど。一人でもいいよね?」
 かちゃ。
 スープ皿にスプーンを置いて話を切り出す。
 一人でもいいよね、は確認するようだが「ついてくるな」という見えない押し。
「あー。私に留守番は役不足ってこと?」
「はは、違うよ」
「冗談。………。ええと、病院?」
「……。ああ」
 エドワードが図書館に行くのならついて行く筈だ。それなのに今日はお使いを頼んだ。そこで少し違和感を感じてはいた。
 アルフォンスは病院に行く時、素直に言わない。エドワードは病気を知らないからエドワードに言う時は適当に理由をつけて出かける。しかし、病気を知っている筈のサエナにもはっきりとは言わないのだ。
「どうして、留守番って言うの?」
「は?だって、ついてきても面白い場所じゃないよ?」
「私、今日は一緒に行く」
「ダメだよ。家で待ってて」
 ぴしゃりとそう言い付けて、立ち上がり自分の部屋に戻ってしまう。

「………もう…」



 ――――いい気分はしていない。病気を知られたのだって一番最初はイヤだったのだから。今は、「それ」まで受け入れてくれて感謝しているが。
 でも、病院に行くなんて見せなくてもいい弱いところだ。また、これ以上大事な人に心配かけるような事は進んでしたくない。
 それに今日は定期検診のようなものだから、すぐに終わる。

 がちゃ。
 ジャケットを持って、必要な物を鞄に入れてドアを開けたら――――、
「うわ!?」
 突然の前からの力に部屋に押し戻されてしまった。
「サエナ…?何を」
 背後でドアが閉まることを確認してサエナは口を開いた。
「どうして隠すの!」
「隠してないよ。病院に行くって知ってるでしょ。大丈夫、今日は特別具合が悪いわけじゃないし、すぐ帰るよ」
「どうして、私は行っちゃダメなの」
「…どうしてどうしてって何でそんなことを聞くのさ…」
 少し、苛立ってきた。
「サエナみたいな健康な人が行く所じゃないだろ…」
 目を逸らす。床の一点を見つめる。

「………。アル。教会、行ってきたよね。…歩いて行くと遠い教会にも、行った」
「…え…?何」
 逸らした目を上げると、サエナの目とつき当たった。
「聞いてなかった?今日のお話。…『美しい生活を送るためには、互いに…』〜あ、ええと」
「『互いを理解しなければならない』――――?」
「それ!あ、聞いてるんじゃない」
「…でも、あれは話の中だ。現実はそのまま廻らない」
「だって、アル、私が怪我とかしたら一緒に病院にも来てくれないの?それと一緒じゃない!」
「違うよ」
 サエナの怪我や病気は治る、けれど…。
「一人で戦って欲しくないんだよ」
「……………」

「私!アルの……お…
奥さん、…なんだから。他人じゃないんだから…。だから…一人で……」

「!?…今、なんて…」
「!い。いいの!……とにかく、ね、『病める時も健やかなる時も』って言ったでしょ。ただのスペルじゃないよ。…元気な時だけ一緒にいるなんてウソ…」
「!!…な、何で泣く…」
「泣いてない!」
「わ。…分かったよ……。ついて来ていいよ…。ぼくの負けだ!」
「……ごめんね。…でも私…ちゃんと、アルのそれにも向き合いたいから、さ。……これから、ちゃんと治るまで、治っても一緒にいるって約束したでしょ。私が一緒に行っても、何が変わるわけじゃない…けど…。私に遠慮はしないでよ」
 それ、と病気と言う言葉を伏せる。
 怖いのは分かっているから。
 何が変わるわけじゃないけど、もしかしたら一人で悩むより軽くなる…?
「…仕方ないね。もう、サエナは」

「アル…『ホントに』イヤとかじゃ、ないんでしょ…?」
 ここまで言っておいて不安になって、そう聞く。
「はは、ずるいよ、今更聞くなんて。…いいよ、一緒に行こう」




「で、さっき何て言ったの?」
「?」
「『私は、アルの――――』って」
「……!!…じ、自分で考えなよ!アル、頭いいんだから」
「関係ないよ」
 くすくすと笑う。少し意地悪げに。
「…ほら、今日はすぐ終わるんでしょう?…お昼は一緒に食べられるね」
「…わかったよ」





1923年初頭。
賛否両論あると思います。
病気のこと気にするんだからほっといてやれ、と。劇中の彼はほっとかれてああなってしまったぞ。

ハイデリヒは病気であることを隠したかったんですから(多分劇中の彼もそうなんだよね)。
ちょっとしたきっかけで知られてしまって、病院の検診にもついてきたいとか言い出して。

でも、サエナはこう。
身体が楽な時だけ一緒にいたいわけじゃない。
病気のことを考えなければならない時ってきっと辛いよね。
そのとき、本気で心配してくれる誰かがいるって…いいんじゃない?

あ、でも、トリシャさんもこんな感じじゃない?…と最近のガンガン見て思った。

ローマ・ヴァチカンの日曜ミサに出たとき、もちろんイタリア語ですが…
「美しい生活」というのを何度も聞いたような気がします。
「Bella vita」

それに、よくあるあの誓いの言葉「病める時も」はこう言うときの言葉じゃない?

何が「連れて行って」なのか不明ですが、病院じゃなくて…。多分美しい生活の場所。
分かり合って助け合える場所でしょうかね。
うわ、ギップル出てくるよ。ギップリャ!

02.06.2007



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