洗濯籠


 …昼と夕方の間。
 午前中から頑張っていた洗濯がようやく終わり、サエナはリビングで一息ついた。
 自分の分だけではないから多少時間がかかる。多少手際がよくなってきたとはいえ、グレイシアには適わず…今日も出遅れてしまった。

「…エドってたまに変なこと言うよね。アルに似てる人がいるとか、シア姉に似てるとか……」
 ――――で。
「私もそう…らしいけど」
 今朝、洗濯途中にグレイシアがこんなことを言っていた。「エド、相当私にそっくりさん、見たことがあるのねえ」と。
「…残念、シア姉だけじゃないんだよね…」

 肩をすくめて、ふと食器棚の近くに置いた写真立てを見る。三人で撮ったもの、年齢が近いとは誰が見ても思うだろう。
 アルフォンスは最年少だが、表情の作り方も落ち着いているので最年長だ、と思われるかもしれない。

 それが…。

「お母さんに似てる、なんて言われてどうするの。私」
 いや、直接『似ている』と投げかけられたわけではない。
 しかし、今までのエドワードの言動、そして一度だけ会った紳士…彼らの言葉を繋ぐとなんとなく『サエナはトリシャさんに似ていて、トリシャさんはお母さん』?…と組み立てられる。
 今に始まった話ではないのだが、今朝のグレイシアとの会話で妙な気分がぶり返してしまった。ぶり返しついでに変な方向に思考が進む。

「そんなに年上っぽく見えるのかなぁ…」
 今度は鏡を持ってきてにらめっこ。
「うー……髪型?」
 今度はクシを持ってきて分け目を変えてみたりするが、長年でクセが付いた分け目はそう簡単には変えられず。

「ん〜…顔の造りは今から直らないよ…。あーあ、世界には三人似た人がいるって言うけど…それがエドの世界の…『アルとエドのお母さん』なんてー!そりゃ、前ちょっと『お母さん』を演じたりしたけど…でも、…そうじゃなくて〜…!!」
 以前、夢の中で泣くエドワードに語りかけた。それが一番だと思ったから。
 ある時は低次元のケンカをする二人にお母さんを演じた。……しかし。
「ホントにそう思われていたら…困る…。……ああ、もう、疲れたぁ…」




「ただい…」
「ま……――あ?」
「――――っておい!真っ暗だな!」
「サエナ、いないのー?」
 夕方。もう5分とも言えずに直ぐに暗くなる。二人が部屋に入ってきたときはもう外も真っ暗…そして部屋も。
「明かり、明かりっ…と………どわ!!」
「あ」
 明かりが点くと同時にエドワードが叫ぶ。いないと思っていた人がいたのだから仕方がない。
 テーブルの上、腕を枕にするようにして眠っている姿。
「寝てる…?サエナー?」
「う、…あれ」
 肩を数回揺すると、うう、とぼやきながら、むくりと起き上がる。
「こんな所で寝てるなよ」
「あ〜…もう、こんな時か………ぎゃー!!!」
「「!??」」
「洗濯物―!!!取り込んでないじゃないー!バカー!」
「バカーってオレらが悪いんじゃねえだろ!」
「エドがヘンなこと言うから…!」
「何も言ってねえ!!!」
「………。て…手伝うから早く取りに行こうよ。あ、二人でやって来ますから、エドワードさんはここにいて下さい」
「ああ」
 一階に下りるだけとはいえ、鍵をかけない部屋を空けることはいいことだとは言えない。
 ――――それと。



「うあー…ちょっと冷えちゃったなぁ…。シア姉、取り込んでくれればいいのに」
 サエナの手際が良くなかった所為で、グレイシアの洗濯物が出来上がっていた頃、まだ乾いてなかった…というのは棚に上げる。
「ストーブでもつければ大丈夫だよ」
「ごめん〜…アルとエドのシャツだけでも乾かさなきゃだね。明日着る分だけでも」
「…で、さ」
 アルフォンスが「エドワードに部屋にいるように」言った考え、もう一つがここにあった。
「エドワードさんに…何か言われたって?」
「へ?」
「ほら、さっき…『エドがヘンなこと』って」
「…?………。あ、聞いてた?」
「ああ、あんな近くにいれば聞こえるよ」
 苦笑しながら、洗濯物が入っている籠を抱きかかえ、洗濯紐を結ぶ。
「別に何か言われたわけじゃないよ。大丈夫、アル」
「そう…?」
「エドがそういう意地悪みたいなこと言う人じゃないって、アルが一番分かってるんじゃないの?」
「そっか」


 ぽつり。
「…私、アルのお母さんにはなりたくないんだけど…」


「え?」
 背後からの声。
 階段の踊り場でアルフォンスは振り向いた。視線の先には自分より小さめの籠を抱えているサエナの姿。
 少し俯いているのか、それともアルフォンスが、階段の上のほうにいるからか…表情まで見えない。
「サエ…?」
 とんとんっ、と階段を上がってきて、同じ高さの所に来る。やはり俯いていたのか、表情が伺えない。
「私、そんな…お母さんに見間違うほど…顔、大人っぽい?」
「…そんなことないと思うけど」
 並んで歩いていれば、かなりの確率でアルフォンスの方が年上だと思われるくらいだ。それは仕草からも来る印象なのだろうが。
「………」
「私は、アルの…」
 ――――なるほど、そういうことか。
 ようやく納得したアルフォンス。
「ぼくは違うと思ってるんだから、それでいいでしょ?サエナ。…それに、自分で言ってるよね。一緒にするなって」
「……そう、だね」

「ぼくはさ、サエナのことは………――――ええ、と」

「…?」
 突然、アルフォンスの言葉が途切れたのでふっと見上げると、

「…アル?」
「……っ」
 目を逸らして、少し照れた………、何かを言おうとして言葉に困った顔があった。


「………ふふっ」
「!」
 アルフォンスの横をすり抜け、残りの階段を一気に上がる。そうして見下ろす所まで来て。
「アル、お腹すいたでしょ。ごはんにしよ!」
「………!――――ああ」
 少し目を見開いて、それから、笑う。





言い訳がましいあとがきの時間です。

「あなたのお母さんに似てるかも」…こんなこと言えません恥ずかしくて(笑)。
↑そこなのか。

人は行ってかえってを繰り返す。
あの時、そうだと思ったことが、今はそうじゃなかったり。
同じことでループして悩んだり。

いつも諭して(?)ばかりなので、たまには悩んでみました。
微妙だよな。…同じような年齢の人に「お母さん」はさ。

何度か短編やらで「トリシャさん」を演じた事があるけど、それはその時だけ。
実際思われていたら困るよね…。

でも、劇場のエドって…ギリギリまでハイデリヒがアルの代わり…みたいになっていたのかな…?
アルが生きていることを知って、ハイデリヒが見えなくなったシーン(と書いてあった)があるってことは…
少しはそういう考えが残っていたのか。

やっぱりお母さんキャラが好きです。
トリシャママとか、ハナコママ(ポケモン)とか。
最近原作でトリシャママ出てくるのでちょっと嬉しいです。

かなり子供扱い受ける私はどうしたらいいのか。
年相応に見えないのは面白いが、何かできると褒められるとか…は完全子供扱いだよね(笑)。

2007.02.15


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