最初の夢


 1923年1月――――。

 こんこん。
 小さくノックして、扉が開くのを待つ。
「入りなよ」
 こんな時間の来訪者に驚くような顔一つ見せず、言葉をかける。
「…うん」
「……ほら、いいから」
 アルフォンスは優しく背を押し、扉を閉めた。


「まだ、やってたんだ」
「うん?ああ――――でも、もう寝ようかなって」
「私が来たから?」
「違うよ」
「…アル……」
 後片付けを始めたアルフォンスの背、それを見つめる。
「………。サエナ、先に横になってていいよ。そんな、見つめられちゃ…」
 振り向いたアルフォンスは照れたような顔をしていた。
「!…あ、ごめっ…」
「はは」


 明かりを落とし、サエナが横になっているベッドに入る。直ぐに腕を絡めてきたから、腕を貸してやった。
「…アル」
「うん?」
 髪を梳きながら、その額にキスするアルフォンス。
 最近、こうして二人で寝ることが増えてきた。二人用のベッドじゃないから狭いのだが、それ以上に傍にいたいと思っていたから。
 昼間、一緒にはいられない。…残された時間も多分そんなに、ない。
「私、幸せだよ」
「……。ごめん、昼間もう少し一緒にいられたらいいんだけど」
「いい。私…こうやって夜は私だけの近くにいてくれるから…」
「そっか…」
 息をつく、そうすると胸の奥のほうで咳がこみ上げてくるような気がして、眉間に皺を寄せ、口を閉じた。
「…っ」
「我慢しないでいいよ」
「…や、大丈――――っ、けほっ」
「………。…友達から聞いたんだけど!」
 アルフォンスの咳の事には必要以上には触れず、サエナはわざと大きい声で言った。
「クリスマスが終わって〜…1月でしょ。クリスマスって願懸けするようなのじゃないって分かるけど…でも、お願いしちゃったじゃない?」
「あ、ああ」
 『ところで友達からは何を聞いたんだ?』というのはとりあえず飲み込んでそのまま聞くアルフォンス。
「そうだ。…アル、夢って覚えている方?」
「寝る時の夢の話だよね。……うー…ん、どうかな、こうやって考えるってことは覚えてないってことか」
「じゃあ今日は忘れないで」
「?なんで…」
「だから、友達から聞いたの。…いつが最初なんて分からないけど、クリスマスが終わって…その辺りの時の夢。…きっと楽しい事が見られたら、それが叶う、かも?って」
「随分アバウトな話だね」
 苦笑しながらふわりと指の間を通る髪を梳く。

「ね、アル、だから絶対私を夢に登場させて」
「!」
「…今日はアルが寝るまで耳元でぶつぶつ言ってるから」
「な、何を…」
「私の名前。…そしたら出てくるかも?」
「ぶっ…。そんなことされてたら気になって眠れないよ。…そんなことしなくても、うん。ちゃんと出てくる、と思う」
「思う〜?」
「…こればっかりはね。…じゃあサエナもぼくのこと出してくれるの?」
「ふふ…」
「うわ!」
 思い切りぎゅっと腕を回してくるから、思わずベッドからずり落ちそうになる。
「ちょ、サエナ!落ち…!!」
「見られなくても、見られても私、ずっとくっついてるから」
「なにそれ、じゃあぼくにだけ宿題ってこと?」
「あはは」
「ずるいよ、そんなの…」
「わ!」
 今度はサエナが驚く番。
 目の前にアルフォンスの顔。組み敷かれる様な体制だから彼の前髪がサエナの額に当たってくる。
「んもう、いきな――――ッ……ん」
 真っ暗になって、突然の事に息が止まって。


「――――ね、ちゃんと、ぼくのこと覚えてて。…これなら夢にだって出てこられるでしょ…?」
「…う。そんなことしなくても…!」
「出てくるって言える…?」
「うわ、アル意地悪だよ」
「サエナにはね」
「なにそれ〜!!」
「ほら、暴れないでちゃんと寝て」
 振り上げた手を封じて。

「ぼくの夢、見るんでしょう?」
「ん…じゃあ、明日の朝、絶対覚えてて」

「で、明日の夜も、その次も」
「気が早いね」
「…だって」


 その時間は、とても幸せで。
 でも、迫り来る未来は変えられないから…――――。

「……。そうだね、ちゃんと次の年も」
「アルだって気が早いよ」

 それでも……。





いつもにない甘さを目指してみて、やはり失敗しました。
リク下さった方ごめんなさいー!!!
もうなんか笑うしかないよ…。

大体の未来が分かっているから、苦しいこともあるんだけど。
今だけでも幸せだといい。


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