降り注ぐ光


 君が、起こしに来ることを楽しみにしてるって言ってくれたから、朝の光を一番に感じられるように。

 開けっ放しだったカーテン。窓から降り注ぐ光。
「…今日も、いい天気だね…」
 窓の外を見て言ったわけじゃない。床に反射する光で天気がいいと思っただけ。


 夜のうちに冷え切った空気がだんだん暖かくなってくるのを感じる。普段こんなことを感じないのに容易にそう思えるのは、ヘンな所で感覚が研ぎ澄まされているからだろうか。
「…温かかったよね…サエナも」
 その手に触れると思わず手を引っ込めたくなる程、冷たく――――かたい。これが昨日まで生きていたとは信じられないくらい。
「でも」
 君が、『ぼくの光だった』なんて言わないよ。
 確かにたくさんの希望を貰ったから、光と言ってもいいんだろうけど。そんなに神々しくない。そういう尊さはない。
「サエナはサエナだから。…ぼくの光であるわけがないんだ。そんな遠いものじゃなくて、もっと近かった…手を伸ばせばさわれて、感触がある…。光なんてさわれないもんね」

 ただ、生きていたかっただけ。

 こんな争いの、不安定な世の中でも。
 それでも笑えることがあるから。


『なんで、ロケットだったの?』

「―――――ッ…ああー…そっか」

『空は広いから争いなんてないって』

「サエナは、ぼくに生きていて欲しかっただけ…?ロケットより、空より…」

『私、アルよりお姉さんなんだからね』

 アルフォンスは叫び出しそうになる口を押さえた。

 何でロケットなのか、アルフォンスはもう一度考えた。
 体が弱くてあまり長くないことを知った時、空に憧れを持った。教会で見た天使の絵、それとその絵の空から、雲間から降り注ぐ光の梯子。
 きっとぼくはあんなキレイな所に行くんだ…!だったら、どんな場所だか知っておきたいよ!!―――
 ……そう思っていれば、悲壮感より…少しは違うものが自分の中で生まれるような気がして。

 ――――留学してエドワードに会って、ミュンヘンに帰ってきて。自分の勉強したこと、技術が空への道具に変化していくことが嬉しかった。もしかしたら、「アルフォンス・ハイデリヒの名前が残ればいい、きっと満足できる」とそんなところまで考えた。


 でも、結局は。

「…きっと、ぼくのことなんてそのうちみんな忘れてしまうから」
 かたく組まれた両手を握りしめ。
「ぼくがいなくても、サエナがいなくても世界は廻っていくのが怖かった。…そうだ、ぼくはただ、生きたかっただけ、なんだ……」

 生きたいから、それができないから夢を持った。
 夢を持てばきっとそれまでは生きていられる。
 成功すれば誰かが笑ってくれて、もしかしたらその笑ってくれた人の頭の中に『ぼく』が残るかもしれない。

 ぼくだって、空を見たい。







「生きたい、っていうだけでいいんだと思うな。…って生まれたくて生まれたわけじゃないけどね。覚えてないでしょ?」

 言ってサエナは笑った。
「前も言ったけど。…酷かったんだから、村。…私だって…何か間違えば…こんな風にここにいられなかった。もう私はきっといなかった」
 それを一番最初に聞いたのは町の中の何処かの教会だったか。
 あまり村の辛い話をしなかったが、たまに、こうして出てくることもあった。
「ごめん」
「何で謝るの?…今の話、私が勝手にしてたんだから、しかも2回目。……だからね、難しく生きないで。アル、自分の為に生きて。…で、夢、叶えて。それが…」
 ――――キミをこの世界に繋ぐモノだとしたら。なんでもいいからしがみついて。生きることを諦めるな。
「………」

「………。あー!もう!私年上でアルとかエドよりお姉さんなんだから、こういうところは素直に「si」って言っておくの!」
「…お姉さんぶっても、お姉さんじゃないよね」
 「あー」と言い出したところは、照れ隠しということが分かったから、アルフォンスも軽く返した。
 そして。


「…。うん、分かってるよ、大丈夫さ」
「んっ…」
 『生きる』ことに敏感になっているのは、ぼくだけじゃなかった。
 悲壮感を漂わせないように違うことを考えているのはぼくだけじゃなかった。







「…かっこよく生きようなんて思わないよ。…ただ、突っ切って…最期まで。……キミとの約束も、突っ切る材料にしていいよね…?」
 かすれてきた声に口を閉ざして、目を閉じる。
 落ち着くとともう一度、目を開いた。

 目の前は変わらない現実。
 でも、朝の光はどんどん広がってきて、先程より…真夜中に見たときの顔と少し、違うように見える。
「………大丈夫」

 ほら、やっぱり君は『ぼくの光』なんかじゃない。
 光はいつも暖かいわけじゃないけど、思い出は変化しないでそのまま温かいから。昔、一番最初に病気を知られた時、頭を優しく抱いて『大丈夫だよ』と繰り返し言っていたあの温かさは触れられるものだから。
 一緒に暮らしたこの時間はきっといつまで経っても温かいから。

 生きていれば、考え方なんて変わってくる。実際、自分の中で変化があったと思ったことは何度もあった。でも、きっとこの気持ちは変わらないと思う。


 額の髪を掻き分け、そこに小さくキスを落として。

「頑張るから…自分の為に」





や、50題もあれば同じような話も増えてきますよ?(逃)
「君はぼくの太陽だ」がどうも頭から離れませんよ?(笑)
長編と本で出てきた言葉ばかりの引用ですよ?(いくつあるよ…オイ)

同じようなことを違う視点でバカバカ書いて、50題埋めているわけじゃないです。決して(爆)。

まぁ、それはさておき。
ハイデリヒってただ、生きたかっただけですよね。…まぁ、ハイデリヒに限らず、ですが。
ロケットを造るというのは空に憧れがあって、でも、何で憧れていたかというと…
うちのハイデリヒは「自分が行く所だから」で。
やっぱり生きたいから。

難しく生きることない、ただ、がむしゃらに。

長編(あれ、本?)で「これで名前が残れば満足できる」と言わせましたが、
もちろん、誰かに忘れて欲しくないから、と……他の人より時間が短いからかな…?
だったら、永く名前を残してやる。

…なんか映画よりわがままになってますね。


……こういうのやっているとサエナが暗い過去持っていてよかった(?)と思うわけです。
そういう経験してないと、いまいちわからないというか。本当に他人事になりそうで。
「大丈夫」がただ言っているだけになりそうですよね。
書いている私がそういう経験ないですけどね。

君は「光」なんていう神々しいものじゃない。
ただ、ぼくらの近くにいた大事な人っていう…ただの人間だ。

うん、かっこいい↑(オイ)
よく、大事な人とか何とかって「光でした」とか妙に神々しくするけど、そうじゃないよね。

2006.12.01



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