集まるところ
何度か来ていた。 遠い天井に、よく響く足音。 …それは散歩の帰りだったり、買い物のついでだったり。 特に好きだったわけじゃない。でも、…そういえば、自分も幼い頃、日曜になると行っていたような記憶がある。 「…サエナ」 名前を呼び、ゆっくり目を閉じる。 …もう今はその名前に返事をする人はいないけれど。 それでもたまに、こうして足を運ぶ日もあった。
「なんで、そんなに教会が好きなの?」 アルフォンスは苦笑しながら聞く。 「別にいいことだとは思うけどね」 と、付け加えて。 「…遊ぶ人がいなかったの」 「は?」 「だから、子供の時、遊んでくれる人が教会にしかいなかったの!…イナカだからねー、ちょっと年が大きい人は町に出稼ぎ行ったり、学校に行ったりしてるでしょ」 けらけらと笑いながらそう答える。 「だから子供の学校代わりとか広場代わり…そんなので教会に集まるの」 「ああ――――。なるほどね」 「だから、別に信心深いとか〜…深い意味、そういうんじゃないんだ。あの時は子供だもん。…あはは、…今、そういう人もいないのに何で来てるんだろうって思うけど…いいんじゃないかな〜…って」 「うん」 「ロケットがうまくいきますようにッ!」 「!?」 「戦争みたいなのが早く終わりますよーに!…ね、口に出すと叶うんだって、シスターから聞いたんだ」 誰もいないことをいいことに、サエナは祭壇方向に歩きながら声を出して。アルフォンスから一歩一歩離れていく。その背を苦笑しながら見守る。 「…あとは、そうだなー……」 「まだあるのー?」 「あるよー」 「…!そうだ。…サエナ、お願い事はだいたい三つって決まってるんだよ、慎重に考えないと!」 「えー!」 「ああ、一つ増やすとかはナシだからね」 思わず笑ってしまうのをかみ殺しながら言うアルフォンス。 三つ言ったからといって、叶うわけがない。でも、こういうものはどういうわけか真剣に考えてしまうものだ。 その背を見てもなんとなく想像が付く。「あと一つ」必死になって考えを巡らす顔が。 「あと一つか…」 こういうのはどういうわけか考えたくなること。だから、アルフォンスも考えてみる。 「…!……」 ふ、顔を、目線を上に向けたのか、ふわりとしたスカートが、栗色の髪が揺れた。 「……きっと、一緒かもしれないね…三つ目」 「!」 「ね、同時に言ってみる?私とアルの三つ目」 「…一緒ならいいんじゃないかな。声に出さなくても分かるなら」 一歩一歩近づいて、近くなったその背を自分側に引き寄せる。 「!…アル?」 「……」 「…そうだね」 サエナは身体を背後に預けて、また天井を見上げた。 あたたかい。 「…あのね、少し違うんだ、イタリアと」 「うん」 「でも、結局は何処でもいいんだと思う…」 「ああ…」 この、あたたかさがあるところなら。
「――――三つ目、君は何て言おうとした?」 想像なんて容易に付く。 「ああ、…きっと、これからでも叶うことなんだ」 ロケットも、戦争がない世界も。 「さて!」 笑って目を閉じ、それから仕切り直しのように顔を上げる。 「行かないと!」 |
この小説、全体通してみると…回想シーンが多いよね(笑)。 ミュンヘンの教会行って思ったことは… 「何か昼間は人に会わない」……なんで? 大体誰かいるんだけどなぁ…。なので、ちょっと声に出してお願い事(笑)。 題の「背中」があまり出てこないな。 2006.10.31 TOP |