集まるところ


 何度か来ていた。
 遠い天井に、よく響く足音。
 …それは散歩の帰りだったり、買い物のついでだったり。

 特に好きだったわけじゃない。でも、…そういえば、自分も幼い頃、日曜になると行っていたような記憶がある。
「…サエナ」
 名前を呼び、ゆっくり目を閉じる。

 …もう今はその名前に返事をする人はいないけれど。
 それでもたまに、こうして足を運ぶ日もあった。


*


「なんで、そんなに教会が好きなの?」
 アルフォンスは苦笑しながら聞く。
「別にいいことだとは思うけどね」
 と、付け加えて。

「…遊ぶ人がいなかったの」
「は?」
「だから、子供の時、遊んでくれる人が教会にしかいなかったの!…イナカだからねー、ちょっと年が大きい人は町に出稼ぎ行ったり、学校に行ったりしてるでしょ」
 けらけらと笑いながらそう答える。
「だから子供の学校代わりとか広場代わり…そんなので教会に集まるの」
「ああ――――。なるほどね」
「だから、別に信心深いとか〜…深い意味、そういうんじゃないんだ。あの時は子供だもん。…あはは、…今、そういう人もいないのに何で来てるんだろうって思うけど…いいんじゃないかな〜…って」
「うん」


「ロケットがうまくいきますようにッ!」
「!?」
「戦争みたいなのが早く終わりますよーに!…ね、口に出すと叶うんだって、シスターから聞いたんだ」
 誰もいないことをいいことに、サエナは祭壇方向に歩きながら声を出して。アルフォンスから一歩一歩離れていく。その背を苦笑しながら見守る。

「…あとは、そうだなー……」
「まだあるのー?」
「あるよー」
「…!そうだ。…サエナ、お願い事はだいたい三つって決まってるんだよ、慎重に考えないと!」
「えー!」
「ああ、一つ増やすとかはナシだからね」
 思わず笑ってしまうのをかみ殺しながら言うアルフォンス。
 三つ言ったからといって、叶うわけがない。でも、こういうものはどういうわけか真剣に考えてしまうものだ。
 その背を見てもなんとなく想像が付く。「あと一つ」必死になって考えを巡らす顔が。
「あと一つか…」
 こういうのはどういうわけか考えたくなること。だから、アルフォンスも考えてみる。

「…!……」
 ふ、顔を、目線を上に向けたのか、ふわりとしたスカートが、栗色の髪が揺れた。
 
「……きっと、一緒かもしれないね…三つ目」
「!」
「ね、同時に言ってみる?私とアルの三つ目」
「…一緒ならいいんじゃないかな。声に出さなくても分かるなら」
 一歩一歩近づいて、近くなったその背を自分側に引き寄せる。
「!…アル?」
「……」
「…そうだね」
 サエナは身体を背後に預けて、また天井を見上げた。
 あたたかい。
「…あのね、少し違うんだ、イタリアと」
「うん」
「でも、結局は何処でもいいんだと思う…」
「ああ…」

 この、あたたかさがあるところなら。


*


「――――三つ目、君は何て言おうとした?」
 想像なんて容易に付く。
「ああ、…きっと、これからでも叶うことなんだ」
 ロケットも、戦争がない世界も。

「さて!」
 笑って目を閉じ、それから仕切り直しのように顔を上げる。

「行かないと!」





この小説、全体通してみると…回想シーンが多いよね(笑)。
ミュンヘンの教会行って思ったことは…
「何か昼間は人に会わない」……なんで?
大体誰かいるんだけどなぁ…。なので、ちょっと声に出してお願い事(笑)。

題の「背中」があまり出てこないな。

2006.10.31



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