鏡の中
栗色の長いやわらかい髪。 深い緑色の瞳。 「……」 金髪の彼はその在りし日の姿を思い浮かべながら、町を歩いていた。相変わらず街は不景気な顔。 「あ…」 『ありえる』とは思っていたけど、会いたくなかった。 会ってしまったら離れられない。でも、自分はそう思っていてもあちらは違うから、向こうの世界のようには暮らせない。そう、他人だから。ロンドンのエドワードの時のように。 「トリィ…?トリィか?」 しかし、会ってしまうと、あまりの懐かしさにそんな思いが消える。 「え?私ですか?」 「ああ………すまない、人違いだ」 自分の中のトリシャとは違う、と慌てて否定するが、空気がそっくりで思わず彼は目を細めた。 年は自分の息子くらい。そうなると当然のことだがトリシャより若い。幼い感じだが昔の彼女に良く似ている。「街は不景気な顔だ」と思ったがそんなことなんてどうでもいいかのような笑顔。 「トリィって、おじさんの娘?」 「(おじさん…まさかトリシャの顔でそんなこと言われるとは…)…いや、一番大事な人だよ。トリシャ」 聞いてみたら名前も違う、きっと性格は似ているだろうがトリシャではない。 分かっている。分かって…。 「道に迷ったんですか?」 サエナを呼びながら現れた青年。性格なのだろう、「コイツは誰だ」と疑うより先に相手を気遣う言葉。 「アル、フォンス…?」 こんなに成長した息子は見ていない。 自分の記憶の中にいるアルフォンスはまだほんの子供で、トリシャに抱かれている記憶。鎧の姿になってもなお、直ぐに自分の息子だと分かったが――――。 「そうか。そうか…」 きっと姿も似ているのだろう。こんなにも空気が似ているのだから。 「エドワードをよろしくな、二人とも…」 境遇を違えても、再び三人出会うことが出来たんだ。…――――いや、まだ出会っていないが、エドワードはきっとここに来る。 それは、エドワードにとってはきっと苦しいことも混ざっているだろう。 けど。 「会えたらいい、と思うのは…間違いではないだろう…?…分かっている。あの子達は息子でもなければトリシャでもない。…でも――――。」 「知ってる人?」 「…うんん、トリシャって言う人と間違えられたの。ね、エドワードって?」 「ああ、ルーマニアで一緒にロケットを学んだ人だよ」 ――――?あれ、なんで、あの人はぼくがエドワードさんと知り合いだって知ってたんだろう? 「……もしかして、今の…」 「そのエドワードって言う人のお父さんとかかな、今の人」 「…金髪で金の瞳、…そうかもね」 ――――そうか、お父さんだったら…ルーマニアから帰ってきた後、ぼくのことも話したのかな。 「じゃあトリシャって〜、お母さんとか?…えー。私そんな歳じゃないよ」 「あはは」 『…悪ィ、ちょっと…似ててさ、――――弟に』 あまりにもエドワードが顔を見つめてくるので、聞いたことがあった。 「………似て…。……また、そういう…」 「アル…?」 「…なんでもないよ。あ、グレイシアさんが呼んでたんだ。行こうっ」 「あ、うん!待ってよアル!」 『弟に?エドワードさんのですか?』 『ああ……いや、気にすんなよ、アルフォンス』 『ええ、まあ、世界に三人は似てる人がいるって言いますからね』 苦笑して、そう答えたが。 あまりにも、その目が懐かしそうで、辛そうで。『ぼく』の中に『弟』を見ているのは分かった。 そしてその目があまりにも似過ぎている。今の人と――――。 |
第5話でちょっと説明不足なところを感じていたので。 いや、アニメを見ていれば説明不要ですがね。ホーエンハイムとエド、アルは親子って誰でも知ってるわけですから。 でも、普通に考えると「なんでハイデリヒを見てアルって言えるの?成長した姿見てないじゃん」とか 「ハイデリヒがエドと会っているって知らないかもなのに、『エドワードをよろしく』もないだろ」 …と思ったんですが! 彼らしい、なんか不思議な感じを出すには説明不足がいい気がしたんで、長編中でああなってるんですけど。 あとはあまり長編中で「アルとハイデリヒを重ねて見ていた」シーンがなかったので。 きっと初めて会った時や、ルーマニアで暮らしていた時は、 エドも妙に弟=ハイデリヒみたいな風に重ねていた筈?とちょっと付け加えてみました。 ホントに長編の補佐的な話ですね。 TOP |