不慣れな病気


「う…」
 ぼりぼりと頭を掻き、乱れた長い髪を気だるそうに結い直して、息をついた。
「っ…かー……――――んだよ」
 ベッドに腰掛けて窓の方を見るとカーテンの間から光が漏れている。
 腹が立つ程天気がいい。こんな日に限って…。

「だりィ…」



「はい、アルは立ち入り禁止」
 エドワードが寝ている部屋の前、サエナという壁。
「ぼくだけ?……特別扱いしない約束でしょ」
「わかってるけど、そういう問題じゃないの」
「友達を見舞って何が悪いのかって言って…。うわ!」
 言い切る前に背を押されて。
「実際問題、アルにうつったら大変でしょ。結構咳してるみたいだからそういう可能性だってあるんだし」
「………」
「ね、私もシア姉も二人は面倒見きれないよ」
「…わかった」
 あまり身体が強くない自分、分かっている。もし、風邪がうつればサエナにもエドワードにも迷惑がかかる。
 それに、サエナは「面倒見切れない」と言っているが、『本音』がそれじゃないということも分かる。
「……。サエナも、気をつけなきゃダメだよ」
「はいはい。…――――アル」
「ん?」
「…いってらっしゃい。きっとアルが帰る頃には少しは落ち着いてるよ」
「……。ああ、エドワードさんのこと、頼むね」



「う〜…アルフォンス、は?」
「出かけた。はい、これシア姉からの薬ね、…あ、…別に何でも飲めるんでしょ」
「ああ、多分な。…しっかし、おかしいよなぁ…。旅してた時はこんなことなかったのにさ」
 薬を流し込み、あまりのまずさに一瞬顔をしかめる。
「…う、……これがイヤで…」
 そうしてからまたベッドに転がり込む。
「?」
「…母さんから渡された薬、飲まなくてさ。隅に隠して。…あとでそれが見つかって、怒られたっけな」
「ふふ」
「あの時は…。別に母さんが飲むんじゃねえんだからいいだろ!って…思った」
「分かるよ。私だって外に撒けた事があるもん」
「なんだ、結構そんなヤツばっかなんだな」
 横になっていると楽なのだろう、喋っているエドワードはそんなに辛そうではない。
「……」
 でも。
「ほらほら、とっとと寝る。エドだって明日には出かけたいでしょ」
「ああ――――…ヒマなのは…どーも苦手だなあ」
「起きてるからヒマだって思うの。……エドのお母さんとか弟くん、大変だったろうね」
「なんで」
「病気の時におとなしく寝てない。…そんなんじゃ長引くに決まってるじゃない」
「へいへい」
「私はそんなに優しくないからね?…明日起きられなかったら強制的に起こすよ」
 冗談っぽく笑いながら、桶のタオルを絞って、エドワードの額に乗せる。
「お前、アルフォンスにはそんなこと言わないだろ」
「アルがおとなしく寝てなかったら言うよ。でも残念、そんなことないんだよねー」
「ふーん…」
「じゃ、何かあったら呼んで。隣にいるから」
「おう」



「ふー…」

 額に手を乗せて、その隙間から天井を眺める。
 ――――昼間、ゆっくりと天井を眺めたことなんてなかった。
 明るいうちはどたばたと走り回っていた。
 夜になったって、眠れない弟と一緒に研究書を広げて、時間を忘れて「そろそろ寝なよ」と弟に心配された。
「…やっぱり、ヒマなのは…だめだな……」
 まずい薬が効いたのか、時間が身体を楽にしたのか、エドワードの風邪は朝の頃よりはよくなっていた。
 扉にふーっと目をやって。
「そっちにはサエナがいるし」
 それから窓枠。
「…ここ、か」
 にやり。
 行動予定が決まれば早い、エドワードは起き上がると軽くストレッチして、「身体が重くない」ことを確認する。
「へへ」






「「………」」

「な、…んだよ、その目」
「エドのお母さんってさ…ホントに大変だったと思う」
「ぼくもそう思うな」

 あれから、数時間後。…夕方のリビング。
「普通、二階から飛び降りますか?病気が良くなったなら階段下りればいいのに」
「サエナがそこ通さねえだろ」
「今日一日くらい寝てなきゃダメでしょ!!」
「だから良くなった…って…」

 リビングにはサエナがいるからと二階から外に出ることにしたエドワード。飛び降りるまでは成功したが、グレイシアに見つかってしまい…捕獲。
「エド」
「へいへい」
「もう、やめてよ、こんなの」
 ちょっとトーンと肩を落としてそう言われたものだから。
「……わーった。悪かったよ」
 素直に、それでも目を逸らして謝るエドワード。

「…………。さて」
 仕切り直しのようにアルフォンス。
「エドワードさんの風邪もよくなったようだし」
「飯でも食いに行くか?」
「……その前に、洗い物やってもらいますよ。エドワードさん?」
「げ」
「アル、別にそれはいい――――」
 その言葉を止めて、
「今日エドワードさんについていた所為で全部終わってないそうですから」
「お前、怖…。…サエナだって別にやってれば良かっただろ…。そんなに心配するようなことかよ」
「そういう問題じゃないですよ?…ほら、ぼくたちも手伝いますから」
「…――――あはは。そーだね、エド。これ罰だから」
「おい!!」
「三人でやればすぐ終わりますよ、ほら、エドワードさん?」

「…へいへい…」






「エドの病気」はリクエストでしたー。どうでしょうか?
難しい、ちゃんと寝ててくれないよ…。

洗い物を終えてなかったサエナが一番よくわからんわ。要領悪い。
ま、病気の人がいるってことで他の事にあまり手がまわらなかったってことで許してください(笑)。

ちょっと意地悪ハイデリヒ。
心配してたのにーって感じです。


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