二人の夢



「二人の夢は何?」

「オレ、錬金術師!」
「ボクも!!」
「まぁ、あんな難しいのやるの?」
「母さんにさ!オレ、こっんなにでっ…かーいの作ってやるよ!」
 エドワードはその小さい腕を思い切り広げ、それだけでは足りず背伸びをしながら母にその大きさを伝える。
「じゃあボクはもーっと大きいの!」
「あ、何だよアル!真似すんな!!」
「兄ちゃんだってこないだ真似したじゃんか!」

「こーら、どっちが大きいなんて関係ありません。…ね、二人とも。それより大事なのは――――」



*



「………なんだっけ…?」
 エドワードは本を顔に載せたまま、それを手で押さえた。
 思い出そうとしても、そこで記憶が止まる。
 笑顔で、二人を諭すように「それより大事なのは…」と言う母。きっとそこからの言葉は大事なのに覚えていない。
「錬金術より大事なこと、か、…あの時のオレたちにそんなのあったかな」
 部屋を出て頭をかきながら階段を下りる。
「…ま、別に……いいか」
 過ぎたことだ。心の中で思い、そんなことより、と自分の中で話題を転換させる。

 がちゃ。
「あ、おはようございます、エドワードさん」
「ん、ああ…。研究室午後からだったな」
「ええ」
 一階まで降りてくるとアルフォンスが店を手伝っているのが見えた。彼が店を手伝っているのは別段珍しいことではない。
「…あれ?サエナは」
「隣の家まで配達だそうですよ。なんだか子供の具合が悪いとかで、おばさんが買い物に来れないって」
「ふうん…。…お、帰ってきたな」
「あ、おはよーエド」
「具合どうだった?」
「ああー。ただの風邪だって。「悪かったねー」ってお土産貰っちゃった」
 あはは、と笑いながらそれを差し出す。
「そう、よかった。……と、エドワードさん?」
 二人の会話に加わるでもなく、ふらりと通りに出て行くエドワード。アルフォンスの呼びかけに気が付くと、手をふっと振る。
 『でかけてくる』の合図だ。
「昼までには戻るよ」
「え、ええ」

「…アルは行かないの?」
 小さく消えていくその背を眺めながらポツリと。
「え、どうして?」
「アルも行きたいのかと思った」
「それ、サエナでしょ」
「なんで?」
「違うの?」
「うーん…どうかなぁ」


 もう見慣れた町並み。景気の悪そうな顔。
「……」
 義手は機械鎧より扱いにくい。
 義足だって機械鎧より走りにくい。
 ここと、アメストリスは…。錬金術のない『エドワード・エルリック』は。
「…なんだよ、今更」
 エドワードは今のこの暮らしに『満足』はしていなかった。かといって『最悪』というわけでもないのだが。
 段々、ロケット工学の限界が見え始めてきた。
 いや、まだ打ち上げてもいないのに限界を感じるの早いのかもしれない。しかし、イヤな考えが廻り始めている。
「………」
 教会の鐘の音が聞こえた。
「!っと…。はあっ…。昼までには戻る、…か。別に…オレは」
 きしゅ。
 手を握ると妙な金属音がする。
「アイツの機械鎧、…高性能だったんだな」
 はっ、と苦笑して。
「らしくないな、こんなの」




「兄ちゃんはさー」
 幼い弟は錬成陣を画用紙に描きながら目線はそのままに聞いてくる。
「あん?」
「なんで錬金術師が夢なの?」
「!〜…ん。………アルは?」
「ボクはねー。お母さんが好きだから!」




「なんで、オレは向こうに戻りたいんだ…?アルが無事だと確認する為?…オレの世界は向こうだから…」




「アルフォンス、何でお前ロケットなんだよ?」
 そう、聞いたことがあった。理由もなく、なんとなく。
「え?………ああー…」
「…?」
「小さい頃からの夢、で。…空、好きなんです」
「ふうん」
「それと――――…約束ですから」




「夢、か。…何が、大事だったんだろうな…?母さん……」

『それよりも大事なのは――――』

「お!エドワード・エルリック発見!!」
「どわっ!??」
 声と共に後ろからの衝撃、腕を掴まれて前に倒れそうになる。
「っんだよ!サエナっ!!ちゃんと…昼には戻るって…」
「別に連れ戻しに来たわけじゃないよ?ふふ」
「…なんだよ」
「ね、エド、遊びに行っちゃおうか?」
「は?だって昼までに戻るんだろ?」
「いいから、ねっ。ほらほら」
 腕を引っ張られて、人ごみを駆け抜けて……何故か階段を上がらされて。


「ねー?いいでしょう!?」
「…ただ、上に来ただけだけどな」
 そうぶっきらぼうに言いながらも、エドワードの目は『先程』よりは晴れていた。空は同じように晴れ渡っていて、遠く遠く、街が見渡せる。ここには不景気な顔もない。
「市庁舎の上、昇れるんだって、この前アルに連れてきてもらったんだ」
「アルフォンス…ああ、そうか」
「エドにも見せてあげたいなって、アル言ってたんだよ」
「…そっか」
「――――はい、食べる?さっきおばさんからもらったお菓子。エドの分もあったから」
「ああ、まさかお前、コレ届けにオレ追っかけたとか言わないよな」
「それも一理?ふふ」
 苦笑しながらサエナの手からそれを受け取る。手作りらしい焼き菓子は簡易的な包装でボロボロ崩れて来る。
「っと、食いにく…」
「……ねえ、エド」
「ん?」
「…こういうの、私はすごく好きなんだけど。エドはどうかな」
「は?」
「だから、こういう…なんだろね…こんなの。……アルとエドがロケットの話してる所も好きだけど、こういう…ぼーっとしてる所かな」
「………」
「…ロケット…つまんなくなった?」
「っ…」
「最近別々にやってるよね。…朝だって、起きる時間ばらばらだし。…でも、それは仕方ないんだと思う、エドが違うことがやりたくなったら…他の事をやるのはダメじゃないと思う。そうやっていろいろ見つけていくんだと思うし」
「よせ」
「……大事なのは、……ちゃんと、それが」

「!」

「自分がやりたいこと、信じられること…だって事じゃないかな」



『ねえ、二人とも、それより大事なのは、今やっているそれが「自分が一番信じられる事なのか」って…母さん、思うのよね。ふふ、まだ難しいかな?』



「自分が信じられる事ならちゃんとやり通せるでしょう?」
「……ッ。…なんだよ、それ。誰からの受け売りだよ。…――――いや、ごめん…」
「うんん。……ねえ。エド。「そういう事」が見つかったら…私とアルに一番に教えてね。ちゃんと聞くから」
「……。ああ」
「約束だよ」
「わかったよ」

 その時、また鐘が鳴った。あれからもう一時間も経ったのか、とエドワードは階段を駆け下りようとして。
「大丈夫だよエド」
「?」
「研究室、今日臨時にお休みだって。エドが行った後連絡が来てね、だから私、エド探してたんだ」
「なんだよ、先に言えよなぁ」
「あはは」



*



「――――約束だ。…なあ、アルフォンス、サエナ。聞いてるか?」
 返事はないが、エドワードは笑って続ける。
「何処までできるかわからないけど、まずはウラニウム爆弾を探す。…きっとこれはオレたちにしか出来ないから。夢なんて言葉じゃねえけどさ…」

「この世界で、生きていく」






長い。
これ、かなーり前に書いて…そのまま放置してあって、トリシャお母さんの言いかけたことが
私も分からなくなってしまいました(オイ)。
なんだろなー。難しいなー。
「お母さんが好きだから頑張る」じゃなくて、「コレなら絶対やり通せる」みたいな感じ?ねえ、トリシャさん?(聞くな)

リクでエド主体の話ってあったのでエドを主体に。
私は塔とかの上に昇るの好きです。バカですかね?(笑)


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