焔VSロケット工学者
 注:設定が違います。


「…キモチワルイ」

「あー。失礼ねーエドッ!何もオールカタカナで言わなくてもいいじゃない」
 『オールカタカナ』のような…そんな言い方だった。
「…だって気持ち悪いんだよ。その笑い方、ずっとにやにやしてんじゃねえか」
「いいことでもあった?」

「それがですねぇ〜…ふふふ」
「だからやめろ、その笑い方」


「じゃーん」

 サエナの手には紙が一枚。
 必然的に二人の視線はその紙に…。

「読めねー…」
「………ええと、お父さんから…の手紙?」

「あ、イタリア語だっけ。えーと、まあ、とにかく『パパとママが来る』んだよね」
「へえ」
「良かったね、無事だったんだ」
「んっ」


 1923年も終盤。
 クリスマスを控えた『とある日』の出来事だった。




「アル」
「グレイシアさん、おはようございます。…あ、サエナの両親、来るそうですね。喜んでましたよ」
「ええ。早速聞いたのね。あー…」
「?」
「アルはちょっと大変になるかな?」
 くすくすと笑いながら。
「は?」





「……………ウワー…」

 その数時間後。
 サエナ曰く『約束の時間』


 何処からともなく響く重いパーカッション。
 …『あの』曲。
 偉そうに肩に黒いコートを羽織るのは…どっちの世界でも変わらないようだった。

 その後ろに控えるのが金髪の彼女。スーツをかちっと着て…隙がなさそうな印象。この反動が娘の『あの服の趣味』になったのか、と妙に納得。

「BGM付きかよ…。そんなことやるあたりこっちの方が大変そうだな。…――――アルフォンスが」
 エドワードは二階の窓から一階を見下ろし、ハハハと乾いた笑い。
「エ、エドワードさんまで何言うんですか…?」
「までって?」
「さっきグレイシアさんにも言われたんですよ。「大変」って。…ぼく、サエナの両親に何かしました?」
「何かって、これからするんだろ?」
「は?」

「きっと、親バカだぜ。あいつの親」







「サエナ」
 少し低めの女性の声。

 そんなこんなでアパート一階。
 お店の隣にある…廊下に逸れた部屋。そこはくしくもアルフォンスが一番最初、サエナに会った場所だ。

「はーいっ」
「ちゃんと、グレイシアの言う事を聞いていい子にしていましたか?」
「してたよね?」
「まあ、どうかしら?」
 先ほどからこの状況がおかしくてたまらないといった様子のグレイシア。
「あ。裏切ったなーシア姉〜…」
「サエナっ!あなたは昔から落ち着きがなくて」なんたらかんたら――――。

「まあ、その辺にしておきたまえ。…サエナだって…」

 きらきらきら。某少佐顔負けくらいの光が飛ぶ。
「私に会えなくて寂しかったんだよなぁ!?ああ、こんなに大きくなって娘の成長は早いっ!」
 そして某准将顔負けなくらい、娘をぎゅーっと抱きしめる。
「ねー、私だって会いたかった」
「よぉし!言ってやれ、そして歴史自体を塗り替えてやれ!!!私の力があればなんとかなるっ!なんていったって私は大佐だ!」(何処のだ)
「そうそう。パパとママに会って欲しい人もいるし!」

 ――――かきん。

「な、なんだ、会って欲しい人って。グレイシアじゃないのか?」
「…親戚に今更会ってどうするんですか。何、お友達?」
「うん。アル…二階にいるよね」
「ッ!?…いや…『アルモニ』とか女の子かも」
「え?誰、『アルモニ』って…『アルフォンス』…男の人だけど」
 少し頬を赤らめ…たような気がして、父はさらに焦る。
「男かぁ!!」




 階段の踊り場で様子を伺っていたエドワードは転がるように部屋に戻ってきた。
「キタキタキタキター!!!…来たぜ、アルフォンス!」
「は?な、何が、です…か」
 意味なくドキドキするアルフォンス。

「アールー、エードー!!」

 素晴しいタイミングでの呼びかけ。
「…頑張れよ」
「え?」

「とりあえず指ぱっちんはさせるな」
「は?」




 かこーん。
 かっ、こーん。
 …もし、ココが日本だったら、そんな竹の音が聞こえてきそうな…静寂。


 周りからのプレッシャーに押しつぶされ、意味なく汗ダラダラのアルフォンス。
 一方、先程まで娘に見せていた顔とはガラリと変わった…。某焔の錬金術師のような鋭い目のルドフィーガ氏。

「…なんだ、サエナより背が低…だいたいが見えないではないか」
 嫌味ったらしく額の辺りで手を翳す動作。
「むっかぁ…そういうところそっくりだぜ…!いや、でも我慢、こっちの方が面白そうだしな…」
「そっちはエド。エドワード・エルリック。…で。こっちが、アル」
「あ、は、初めまして…アルフォンス・ハイデリヒ、です」
 腕を引っ張られてずれたサスペンダーを肩にかけなおしながら…それだけ言った。というか、それだけしか言えなかった。


「あ、紅茶とコーヒーどっちにしようか」
「どっちでもいいんじゃねえの?」
 そして傍観者に成り下がった二人。


「さて、君が…『史上最年少天才ロケット工学者』かね…?」
 バックは窓。その窓から降り注ぐ光でうまく顔が見えない。
 両手はテーブルの前で組まれ、…目線だけ強く感じる。
「はっ?誰がそんな恥ずかしい…肩書き…」

「あ、オレ。焔に対抗するにはそれかなーってさ」
「?…何?焔って?」
「ま、いいだろ」
「…エ、ド、ワード…さぁん…(汗)」
 ぎちぎちぎち、と油が切れかかった機械のようにゆっくり首を廻すアルフォンス。

「で?…その君がうちの子に何の用、というかだな、手ェ出したらただじゃおかないぞ」
「………は、はあ」
「はあ、じゃない!!軍人なら軍人らしくはきっと…!」
「パパ、アルは軍人じゃないよ」
「む、そうだったな」
「(ど、どうにかしてー…)」
 がくり、とアルフォンスは肩を落とした。


「普通に『あの言葉』言えばいいだろ?」
 こそこそと耳打ちエドワード。
「あの言葉…?なんか随分ベタな展開ですね」
「そういうこと言うなよ、お前細かいなー…」


 ――――でも、言われてみれば、なるほど、だ。
 そうか、そうだよな。…納得し、息をついて…アルフォンスは口を開いた。
「………あの。ル、ルドフィーガさん」
「なんだ」
「…む、……娘さんを……」

 ごくり、誰かの喉が鳴る。

「サエナをぼくに下さい…!」

 ぴき。
「下さい、だと…!?」
「あ、じゃあ、私がアルに貰われるー…っていうかアルを下さい…?」
「話をややこしくするな、面白い所なんだから!」
「何がよ、エドっ…」

 ぶちっ。
「ウチの娘は物かぁぁぁぁ…!!!!!」


 何処からともなく白い手袋。
 それをはめて――――。



「ヤバイ!…あれ、ってこっちの世界では錬金術は使えない筈……!!!?」


 ぱっちん。



 どぉおおん………。

 しーん……。


「う、何をするんだ君はっ!!!」

「………人様の家で騒ぐな、と申し上げたではないですか」
 彼女の手には小型V2ロケット(仮)。
「大体何をするおつもりでしたか、その手袋」
「あ、愛の鞭…かな?」
「愛の無知の間違いでは?」

「(どんな無知だよ)」


「――――アルフォンス君」
「は、はいいっ!?」


「サエナをよろしくね」
「は、…はい…。よろしく、お願い、しま、す…」
「裏切ったらタダじゃおきませんから、そのおつもりで」
 じゃきん。
 銃を操作する音。
「……え…ええ(汗)」



 アルフォンスは気を取り直してサエナの前に来た。
 少し照れくさそうに、頬を赤らめながら。

「そういう、ことだから。…よろしくね、サエナ」
「ありがと、アル!!」
「ん…」
 抱きつくサエナをぎこちない手つきで受け止………。
「はっ……(汗)」

「…………」
 鋭い黒い瞳。

「あ…その」
 その手は、受け止められず空中を彷徨っていた。




 ドイツ版ナマハゲ「クランプス」が闊歩している1923年12月。

 『もしかしたら』の話。






「手紙」サエナがもらった両親からの手紙。
本当は、まじめな50題にしようと思ってたのに。

さて、大元のネタはやはりいただきもの。

「もし、ハイデリヒが病気じゃなかったら
サエナが死んでなかったら、
あのときのドイツがもうちょっと平和だったら…
「お嬢さんをぼくに下さい!」
…が見られたのかな?お父さんの仏頂面が目に浮かぶ…!」

ってね。
いつもネタありがとうございます。

「エドがキタキタオヤジ」みたいだとか
「エドが2ちゃんねらーになってる」とかいろいろ言われました。
キタキタ。キタキタキタキタ春が来た。…私好きですよ、キタキタ。

サエナが静かなのは……ハイデリヒを喋らせる為です。


2006.04.01(エイプリルフールか)


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