もしも…あの時


「エードー」

 昼下がり、明るい元気な声が響く。
 それは二階の彼に向かって。


「エドったら!!…もう、アル、エド呼んで来てよ」
 少女は頬をぷくっと膨らませながらアルフォンスの手を掴んで。
「仕方ないなぁ。兄さん…機械鎧の調子、悪いって言ってたのに」


「あん?…んだよ」


「エド」
「兄さんっ」

 ようやく二階の扉から顔を出したエドワード。昼寝をしていたのか、少し髪が跳ねている。
「うっせーな…。昨日遅かったんだよ…」
 がしがしと頭を掻きながら、後ろで結った髪を再度、結い直し…階段を下りる。

「なんだ?」
「義手見てあげるって言ったでしょ。…それと、今日はぁ〜…――――」
「だよね、兄さん?楽しみにしてるんだから」
「ああ。…わかってる。…よいっ、しょ」
 苦笑しながら、エドワードは少女を抱き上げた。

 あの『彼』は違う少し…色の濃い金髪。少し茶色がかっているのは『彼女』の遺伝だろうか?
 でも、透き通った空のような蒼い目は『彼』によく似ている。
 笑い方は『彼女』似かな?

「――――ウィンリィ」





 1923年、カーニバルの直前にイタリアに強制送還になったサエナ。彼女が生きて再びミュンヘンの地を踏むことはなかった。

「オレが…連れて行ってやるよ、サエナ。…アルフォンスの所へ…」
「ごめんね。エド……ごめんね…ウィンリィ……」
「お母さんッ!!」


 同年12月から欧州を放浪していたエルリック兄弟は、その数年後イタリアに寄ることがあった。それはウラニウム爆弾を探す旅の途中だったのだが。
 アルフォンスが既に亡くなっているということをサエナに伝える為に。


暫く振りに会った彼女は、あの時より少し、大人びて。
長くなった髪を横に結う所はあの人にそっくりだ。


「エドっ!!よかった、無事だったんだね!」
 数年の後に出会った懐かしい顔に抱きついて再会を喜ぶ。
「オレは大丈夫だよ、誰だと思ってんだ?」

「あれから、たくさん…いろんなことがあって…ドイツもこっちも混乱ばかりで…!私、向こうに行けなくて…!ア――――…」
 『アルフォンス』の名前を出そうとして止まった。わかっているから。
「………大変、だったな。でも、お前も無事で良かった。…――――おい、そのくらいにしとけ、あまり抱きつくとアルフォンスが嫉妬する」



「――――アルは、…頑張ったね…。ちゃんと…自分がやりたいこと、…やったんだよね…?」
「ああ…。サエナは。元気だったか?」
「………」
 その言葉に困ったように笑い、目線を落とした。


 『元気』ではなかった。
 そういえば、…少し、目が……おかしい。
 肩が、軽く上下するように、少し、大変そうな呼吸…。


暫く振りに会った彼女は…流行り病に冒されるかつてのトリシャのような姿だった。
それと、…幼い娘。


「ウィンリィのことは、気にするな。知らない仲じゃない…オレとアルでどうにかするからさ」
「………ありがと…。ね、ウィンリ…エドとアルくんの言う事、ちゃんと、聞い、て」
「やだ…」



「あ、アル――――…来て、くれた…。バカ、遅い、よ……。ウィンリィだって、見て欲しかった、のに…。私、…と、ウィンリ…」


 ――――なんで、そこまで一緒なんだろう?
 どうして、また、オレたちの前で同じように、手を握りながら目を閉じるんだろう。

「……お母さん」





………今、『彼女』は『彼』の隣で眠っている。







「お母さんとぉ…こっちはお父さん?……――――アル、フォンス…ハイデ…リヒ」

 ウィンリィはその二つの墓石の前で座り込み、花束を置いた。
「ああ」
「でも、エドとアルもあたしのお父さんだよね?」
「……それでもいいけどな」
「あはは」

「ねえ、エド、アル」
「うん?」
「お父さんはどんな人?あたし、知らないんだ。…お母さんから聞いてたけど、写真も見せてもらったけど…」
「…どんな顔だった?」
「アルに似てるー…」
 アルフォンスはその言葉に苦笑し、ウィンリィの頭を撫でた。
「でも違うわ。アルとお父さんは違う」
「…ああ」


「アルはあたしのこと、だっこしてくれる。でも、…お父さんにはだっこしてもらったことがない…」
「……」
「優しい人だった、すごく頭のいい人だった!…お母さんはいつもお父さんの話をしてた。…「機械が得意なのはあの人の子ね」「空みたいな蒼い瞳はそっくりだ」って…でもあたしは知らないの!」

 ぽろぽろと涙が零れ、ワンピースを濡らす。
「名前だって呼んでもらえなかった…。お父さん、あたしの顔だって知らないんだ…。嫌い、…お母さんを連れて行っちゃうし…大嫌い!!」
「…ウィンリィ。…あまりアルフォンスを困らせるなよ」
 押し黙っていたエドワードがウィンリィの背にあわせるように屈む。

「アイツには…オレ、どんなに謝っても足りないことをしちまったんだ。で、どんなに礼を言っても足りないくらいのことをもらった。…オレには言わなかったけど、家族みたいなの、そういう小さい幸せを望んでたってのは、聞いたことがある」
「………」
「――――ウィンリィ、おいで」
 アルフォンスは言いながらウィンリィを抱き上げた。

「ほら。…きっと、このくらいの背だよ」
「え、何が?」
「君のお父さん」
「えー、エドよりずっと高いんだ!!」
「悪かったな」
「あはは。……ボクや兄さんが『ハイデリヒさん』にはなれないけど……ね、一緒に暮らすことは出来る。ハイデリヒさんやサエナさんができなかった事、ボクらで叶えられたらいいなって思うんだ」
「……アル」

「アルフォンスもサエナも、お前のことを愛しているのは本当だよ。それはわかってやれ。…ただ、あいつらには…――――時間がなかっただけなんだ。悔しい思いしているのはお前と変わらない」



『なぁ、サエナ』
『ん?』
『ウィンリィ、絶対一人にするなよ』
『!……。うん、―――したくもないよ。だって、アルと私の子だもん』
 それは、再会したばかりの時の会話。まだ、サエナの病気が分からない時の。
『エド、それって、向こうのウィンリィの話?』
『!…いや…ああ、まぁ、そうなんだけど、さ。…あいつの両親もちょうど今のウィンリィくらいの時にいなくなって…でも、それじゃなくても』
『離れたくない、…できることなら…ね』



「ね、エド、アル。……ずっと、近くにいてね…」



「ああ」
「うん」




*



「――――名前は?」

 栗色の髪。緑色の瞳。夜の灯りに照らされ、少しトーンが落ちた深い色。
 サエナはテーブルに肘をついてくすくす笑いながら言った。

「え?ああ、……んー…サエナ、決めなよ」
 少し頬を赤く染めながら咳払いして言う。
「え。なんでよ?」
「んっ、なんでって。ぼく、そういうの、苦手…。……もし、女の子だったらかわいいのじゃないと、かわいそうだろ?」
 本当に苦手なのか、素直に困った顔。
 ああ、本当に素直で真っ直ぐな人なんだ、とサエナはまた笑った。

「…でも。…――――『ウィンリィ』…ってかわいいよね。あの、エドワードさんの、話の中の子…だけど…。いい子みたいだから」
「そういう子になったらいいよね…」


「じゃあ、『ウィンリィ』」
「え、それでいいの?」
「アルが言ったんだよ、いい子だ、って」






パラレルのパラレル…だから、…大目に見て?

ああ…トリシャさんと同じことしてるよ。
もし、サエナが生きているとしたらアルも生きさせたいんです。
もし、絵で描いたような家族をやるのなら、誰も欠けて欲しくないんです。
このウィンリィ、アルのこと嫌いとか言ってますけど…腹の底では好きですよ、きっと。
サエナだってウィンリィの事は大事です。必死になって生活してきた筈。
ああ、文章力がない私。

私、トリシャさんが亡くなるシーンで「あの人がいつも、造ってくれた…」というの、人間らしくて好きだったりします。
あの時ばかりは息子より、ホーエンハイムを見ていたんですよね。


さて、娘がウィンリィ(仮)。
あれからエドはウィンリィ似の人とくっついたのでは?と言う感じですが…。
…だとすると「顔が同じならいいのかよ?」って事になるような……。
ハイデリヒの二の舞、みたいな。

ちなみに「私の中設定」読みたい人だけ、反転ペル・ファボーレ。

ここから↓

普通、茶髪と金髪の間では…金髪は生まれません(だよね?確か)。
しかし金髪の理由。
「サエナのお母さんが金髪だったからー」隔世遺伝(笑)…や、これはこじつけです。

母:リザ。:ドイツ人、金髪碧眼。北ヨーロッパに多い背が高い人。
父:ロイ。イタリア人、ラテン系なので黒髪黒目。しかも背は低め。原作でも確か彼は低め。

誰も、突っ込んでくれないから反転の中でカミングアウト。
HAHAHA!とりあえずこんな設定があったのだよ。鋼の(誰)。
両親設定は長編時からしてました。
ウィンリィは…メールでいただいた設定が元なので最近ですが。


ここまで↑


しかもこの話、続きがあります『夜明け前』


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