家族と過ごす日


 ――――その日は、家族と過ごす日で。

 お父さんは仕事を早めに切り上げて、寄り道しないで帰ってくるの。
 お母さんと、子供たちは用意しておいたパネットーネと、たくさんの料理を用意して家族みんなが集まるのを待っているんだ。

 12時。
 教会の鐘って、いつもと同じ音の筈なのにこの日だけはみんな妙に耳を澄ましてるの。
 抱き合って、キスして。おめでとうって。
 言っているうちに何に対して『おめでとう』だが分からなくなるくらいにはしゃいで。

 それからみんなで教会のミサに行って――――。



「こんな感じかな」

 サエナは思い出される限りのナターレのその日の様子を話す。
「あまり変わらないね。何処の国も」
「そうかなぁ。…ふふ、早く帰ってエドとケーキ食べよッ」
 教会からの帰り、雪の所為で少し歩きにくくなっている道。
 それでも心なしか弾みながら。
 というか、弾んで小走りになりながら。

 弾んでいると、足を取られやすく…滑りそうになる度にアルフォンスのコートを掴んで…二人して滑りそうになる。
「サエナっ!もう」
「あははーごめん」
 けらけらと笑いながら、そんな風に笑うのを見ていると怒る気もなくして一緒に笑ってしまう。
「コレ、雪まみれになっても知らないよ?ぼくが転んだらこれも濡れるからね」
 最後の手段、と言わんばかりに先ほど買ってきたシュトーレン入りの紙袋をちょっと上げて見せる。
「あ、それは困る」
「でしょ、じゃあ」

 手を差し出して。

「…私と歩いてると転ぶかもよ?」
「小走りにならなければ転ばないよ」
「ごもっとも」
 差し出されたアルフォンスの手に自分の指を絡める。
 走れないから今度は手を振りながら、歩き出す。







「お、買ってきたな」
「ただいま。エド」
「待ちました?」
「いや、オレもさっき帰ってきたんだ、……じゃーん!」
 エドが差し出した袋の中には出来合いの惣菜。どれもクリスマス用のものだった。
「うわ」
「わ〜!!すごいエド!」
「ま、オレは宗教の祭りなんて関係ないけどな、うまそうなら買ったっていいだろ」

 エドワードが買ってきた料理も、アルフォンスが買ったシュトーレンも、とてもおいしくて。


「しかし、この世界はこんな祭りがあるんだな」
「エドの世界はないの?」
「ああ。…だいたい宗教なんて…オレは祈りたい神サマもいないしな。あったって無駄だろ?そんなん」
 レト教のことがふと思い出されて。息をつく。
 宗教にすがって恋人は蘇ると信じていたロゼ。確かにあの時は笑っていた、でも、それは……。
「それで起きる争いがあるなら、ない方がいい、そんなもの。結局は自分の足で立たなきゃならないんだ」
「そうだね…」
「……?」
 一方、エドワードの言葉に対して肯定したサエナを少し違和感の目で見るアルフォンス。
 サエナの今までの行動を見れば、『祈りたい神サマはいません』のようには見えなかった。しかも、エドワードの話自体、…作り物のような現実味がない世界の話なのだから。

「でも」

「?」
「でも…悪いことばかりじゃないよ。エド」
「そぉかあ?」
「……――――こんなときでしか早く帰ってこないお父さんとか」

 ふっと、窓のほうを見る。
 たまたま開けっ放しだったカーテン、向かいの建物の、明かりが見える。

「こんなときじゃなきゃお母さんのお手伝いしない子とか。…ふふ。それだってこの日にはみんな笑って集まるんだもん。……こういう日じゃなきゃ、できないのは寂しいけど、だけど、やっぱりこういう日だからできるんだよね」
「ん……ややこしいな」
「はは」
「祈りたい神サマがいなくてもいいじゃない。…でも、こういう日があるって、すごく、いいと思うんだよね」




 酔いがまわったエドワードがぽつり、話し始める。
 リゼンブールの景色、友達、…家族。
「母さんとアルと暮らしていたとき、……こんな風に…料理を囲んで笑ってた…」
 少し酔っているから、少しまどろみながら。
「ウィンリィ…兄弟いないからよくウチにきて……ごはん食べて……」

「……エド、今日は幸せ…?」

「ん…………。ああ。…そ、……だな……。きっと、あの場所に…お前らいたら…――――」

 ――――こてん。

 寝てしまったエドワードに毛布をかけてやるアルフォンス。

「サエナは…幸せ?」
「?…うん」
「そっか…よかった」
 答えを聞くまでのアルフォンスの顔は曇っていた。サエナは笑いながらその長い前髪にふわりと触れる。
「アール…。さっき教会で言ったでしょ?『悲しまないで』って。……エドも、私も…ここが今の場所なんだから」
「っ……」
「だから、私は、アルとエドと今日が迎えられて嬉しいよ」



――――そう。
この日は、家族と過ごす為に…家族と笑う為にあるんだよね…。
ホントの起源は違うんだけど、だけど、…そう思ったっていいよね。



「アルは?」
「…ぼくは、そうだね。幸せだよ」
「……なら、いいじゃない。…来年、また同じことができるように、また三人で食事ができるように」
「ああ」

 こつん。
 肩に頭を乗せて。
「?…サエ…」
「Buon Natale.……来年も、ずっとこの先も、アルとエドにこの言葉が言えますように」
「言えるさ…大丈夫」




*




「兄さん、それ何?」

 疑問符いっぱいの弟。
 兄の手には見慣れないパンのような……菓子のような…。よくわからないもの。

「…見れば分かるだろ、ケーキだよ」
「あれ、誕生日でもないのに?」

 ミュンヘンを発ってから約2ヶ月。
 時は、あれからちょうど一年…。

「この時くらいは…あいつら……いると思ってさ…」
「!」
「…いつもオレの近くにいてくれて、笑ってくれていたヤツと。…誰よりもこういうのが好きだったヤツと……。だから、な、アル。やったっていいだろ?」
「うん」

 写真を取り出し、それをテーブルに置く。

「でも、ハイデリヒさんの誕生日?それともサエナさん?」
「いや、あいつらじゃないな。……サエナが言うには誰かの誕生日らしいけど…オレも知らねえんだ。ま、いいだろ、食おうぜ、アル」
「うんっ。いただきまーす」





さて、本日、クリスマスです。

最初のサエナが言っている「クリスマスの様子」は旅行の本から(笑)。
万歳、旅行の本。
異国のクリスマスの家庭にお邪魔したいですね。
突撃!隣の晩御飯!

というか…大晦日のマジもんなまはげが一度でいいから見てみたいです(クリスマス関係ないし!)。
あれって一般家庭にしか来ないので。
…いや…行く気になれば親戚いるから行けるけど…雪あるし…。


折角なのでクリスマスネタを書いてみましたが、甘くもなんともないですね。
一般的に甘くなるネタだとは思うんですけど(?)。

サエナ、妙にこんな家族大好きキャラになっていますが、
「国民性」を見ると結構こんな感じらしいです。
意識したわけじゃないですが、最近そんな本を見て「ほぉ」と思った。


長編17話の続きになると思います。
いや、1922年じゃないとできないので…。


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