一つだけの大事なもの


「じゃあさ、次はこの子のお友達作ってよね。今度は男の子がいいな」
 女の子のぬいぐるみを抱えながらウィンリィは二人にちょっと強めに言う。
「ウィンリィ、怖がるからなぁ。…あんとき、まだ作る気でいたんだぜ!」
「兄ちゃん、それウソ…」

 子供のとき、二人はウィンリィに『プレゼント』と称して女の子のぬいぐるみを作る気でいた。
 しかし、錬成途中の過程を見て泣き出してしまったウィンリィ。その後、人形は形にはなったが、ケンカをしたものかと思ってトリシャまでロックベル宅に謝りに行った。


「仕方ねえな。今度は泣くなよ?」
「うんっ」
「じゃあまた作ってあげるよ。頑張らなきゃね、兄ちゃん」



*



「エド?それ…」
 とても似合わない光景に思わず聞いてしまう。
 エドワードの手には小さい熊のぬいぐるみ。それを懐かしいような、悲しいような微妙な顔で見ていたから。
「ん、ああ。……この紙袋、グレイシアさんにこの階の物置に入れてくれって頼まれてさ」
 一階から持ってきた紙袋の中には、小さいぬいぐるみが入っていた。もうかなりの時間荷物にまぎれていたのだろう、かなりすすけて。
「かわいいね〜。シア姉のかな」
「ッ…。やっぱりこういうの好きなのか?」
 ふっと目を上げて、サエナを見る。
「そうだね、小さいときはいっぱい持ってたかな、…もう、なくなっちゃったけど」
「ふうん…」
「あ。誰かにあげたことがあるとか?」
「!……いや、別にッ!なんでもねえよ」
 一瞬顔を赤く染めて、それから露骨に嫌そうな顔を作って。
「ふふ」
 エドワードがそういう態度を取るときはなんとなく分かるので笑ってしまう。
「じゃさ、これ洗ってリボンでもつけてお店に置いておこうか、カンバン娘〜みたいな感じで」
「好きにしろよ。じゃ、こっちの袋は物置に置いてくるから」
 口調は荒いが顔は妙に笑っている。




「アル、……ええと、こういう……なんていうのかな」
 アルフォンスの部屋の扉を開けて、身振り手振りで何か説明して…。
「ええと」
「?」
「あ!油汚れ落とすような…なんかない?」
「…?――――ああ、それ洗うの?」
 例のぬいぐるみは、なかなかきれいに洗えず、油落としのようなものを必要としていた。
 工場に出入りしているアルフォンスは機械油に触れることもある。だから服などについた油を落とす為の洗剤を持っているだろうと踏んだのだ。
 案の定、直ぐにそれを出してきて使い方を説明する。

「でも随分古そうだね、サエナの?」
「うんん、多分シア姉のじゃないかな。物置に入れる袋の中に入ってたんだって」
「へえ」
「こういうのってさ。小さいときは近くにないとすごく嫌だったのに、そんなこともなくなっちゃうんだよね」
 ひょこ、と熊の手を動かしながら、ちょっと寂しそうに笑う。
「ちょっと、残念かな。こんなにかわいいのにね……」

「……サ…」
 サエナのは?…そう聞きかけてアルフォンスは言葉を止めた。

「――――って、アルには分かんないか」
 聞きかけた言葉に気がつかなかったのは幸いだったか。
「いや。なんとなく分かる気がするよ。…と、それ、結構強いから手袋して洗った方がいいよ」
「うん、ありがと」

「サエナ」
 部屋から出て行く直前、声をかけられる。
「――――ぼく、この資料終わったらちょっと出かけるから」
「そう?いつ戻ってくる?」
「夕食までには戻るよ、あ、ついでにパンも買ってくるから」
「うん。よろしく」




「あら、アルも出かけたの?」
「「も」?って」
「エドもさっき出かけたのよ。…珍しいわね別々に行動してるなんて。…なぁに、それどうしたの?」
 夕方近く、グレイシアが店を閉める直前だった。
 サエナの手にはリボン結びされた小さい紙袋。
「シア姉に、何年か前からのプレゼント」
「え?何それ」
 笑いながらリボンを解く。

「ああ…」
 顔が緩むグレイシア。
「何処にあったの?」
「エドに物置に置いてくれって頼んだのあったでしょ?それの中。さっきまで洗ってたんだ」
「ありがとう。…なんだか嬉しいわね…」


「ただいま」
「よぉ」


「あ、お帰り!」
「まあ。帰ってくる時間は一緒なのね。気分がいいところで今日はみんなでご飯にしましょうか、サエ、手伝いなさい」
「はいはーい」
 ぱたぱたとグレイシアの後をついていくサエナ。
 それをなんとなーく、見送る二人。

「………」
「……何持ってるんだ?アルフォンス」
「…さ、財布ですよ」
 お互い、自分のコートのポケットに手を突っ込んで…。
「へへ」
「あはは」
 妙な笑い。




 夕食後。
 何故か早々に部屋に行ってしまう二人。


「…資料作りでもあるのかな」
 ラジオを聴きながらうとうとして、いつの間にかテーブルに突っ伏して眠ってしまったらしい。…ふと目を覚ますと何かと目が合った。

「…熊?」

 目の前には小さい熊のぬいぐるみ。
 かわいらしい大きな目はサエナをじっと見つめている。
「…?なんで、熊がここにいるの…?」
「あ、起きた?サエナ」
 声に反応して身体をちょっと起こすと、肩にかかっていたストールが落ちる。どうやら誰かが掛けてくれていた様だ。
「アル」

「それ、エドワードさんから」
「へ?」
「で、これはぼくから」
 とん。
 目の前に置かれた、うさぎのぬいぐるみ。
「…なんで?」

「サエナの、ないんでしょ?」
 ちょっと首を傾げて笑う。
 あるわけがない、村ごとなくなってしまったのだから。
「あ…そう、だね…。!…って、やだ、二人とも買ってきたの!?」
「うん、さっき。…なんかエドワードさんも同じこと考えてたみたいだよね」
「でも、なんで…」
「ああ。「サエナ、『グレイシアさんのだ』って言いながら欲しそうな顔してたよな…」ってエドワードさんが」
「ええっ!そんな顔してた!?」
「どうかな」

「もう、こんな歳でもないのに」
 二つのぬいぐるみを大事そうに抱え、目を細めて笑う。
「…いらなかった?」
 笑いながら、そう返すアルフォンス。
「まさか。……うれしいよ。エドにもお礼言わなきゃね」


「約束、約束してたんだ」
 ぽつり、言う。
「え?」
「小さいとき……誕生日には一つ、買ってくれるって。……歳の分、並んでたんだよね」

 ―――――だけど、それは全てなくなってしまった。

「…サエナがここに来て、2年目。…2つだね」
「ふふ、そっかぁ」
「来年は一緒に買いに行こうか?」
「ええ?…もうそんな歳じゃないのに」

 くすくす、と顔を見合わせて笑う。






途中まで書いて、どうしていいかわからなくなって、ちょっと放置していました。

エドはウィンリィとアルのことを思い出していたんですね。
あと、トリシャお母さんに「花飾り」を作ってあげたかったんだと思います(アニメから)。

アルは…純粋に今まで持っていたものをなくしてしまったサエナにあげたかったんでしょう。

しかし二人とも行動が早い。


2005.12.21


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