私だけの


 チカラ…。

 『力持ち』…とかじゃなくて、もっと大きなもののこと。
 …そんなもの、私にはないと思ってたんだよ。

 エドが言う友達のウィンリィって子は…エドの義手を作る子で、精一杯サポートしてたんだって。

 私、ちょっとうらやましかった。
 私には、特に特技なんてなくて、イタリアにいたときから…ずば抜けてすごいことなんてなかった。
 働こうとすれば結局アルに迷惑かけてたし…。


「少しくらいは、さ」

 役に立ちたいんだよね。


――――…キミの力になれるように…――――




 私の意識はうろうろと何処かをうろついているみたい。
 ああ、これは夢かな。

 真っ白い世界。

「…アル?」
 その真っ白な世界の中、背後に誰かの気配がして思わずアルフォンスの名前を口にする。

「…サエナ」
「じゃなかった、……パパ…!?」
「少し見ないうちに、随分と大人っぽくなったな、サエナ。……元気そうで何よりだ」
「よかった、無事だったんだね」
 夢だと自分で自覚しているのに、でも、会えて嬉しい、という気分の方が先に来る。
「ああ」
「…ここ、何処かなぁ。そうだ!早く帰って、パパにアルとエド会わせてあげるよ」
「友達か?」
「うん、……私の、大事な…。あのね、アルはね、ロケット作ってて…私…それ、応援してる―――――」


「…あれ、私…撃たれたんじゃなかったっけ…」
 アルフォンスのことを話し始めて、ふと、思い出す。

「……大丈夫だよ、お前は」
 くしゃり、と頭に手を置く。

「パパ…?」
「…もう少しだけ会って来なさい。……お前だけにしかできないこと、きっとあった筈だから」






 身体の感覚が妙だ。

 重いまぶたを一生懸命開いて最初に見えたのは、見覚えのある天井と…アルの優しい蒼い目だった。
「アル…」
「サエナ…」
 目の周りが真っ赤にはれている。
 ああ、泣いていてくれたのかな…?なんだかそれだけで嬉しくなった。



 私のわがままで始まったアルとエドの話はいつもの通りに難しくて。
 でもそれがすごく嬉しかった。

 夜の暗闇に家々の明かりが落ちていくように、少しづつ、身体が利かなくなっていくのを感じる。
 さっきまでアルに支えられていた背中も感覚がなくなってきた。
「……」
 
「すこし、休む?横になって」
「うんん…」

 涙に気がついてアルが声をかけてくれた。
 エドがいつものようにからかうように笑いかけてくれた。


 だんだん目まで効かなくなってきた。
 でも、そんなの信じたくなくて聞いてみたら、アル、ウソがつけないんだね。戸惑ったような声。

 でも、…ああ、よかった、最後に見えたのは…二人の顔だ…。




「アル、…怖い?」


 そうだ、私ができることと言ったら何があっても信じて夢を応援すること。
 キミの平穏を祈ること。
 だってそれは私の夢でもあるだもん。

「怖いよ」
 アルの声が震えてる。どんな顔しているか分からないけど…大体想像はつくかな。



「私も少しだけ、怖いかなぁ……明日、あるかな…って…」


 『明日?』そうじゃないよ。……私の本当は『今』さえなかった。
 だってあの村であの日、いなくなっていた筈だから。
 だから、失うものなんてないよ。

 でも、失った筈の私にここの生活は楽しすぎた。幸せすぎた。

 失うものは今できた。
 キミとこの大事な生活。だから、私はこれだけでも守りたい。


 だから、だから、アル、怖がることなんてないよ…。

 私だって死ぬのは怖い、いやだ。
 少しでも、キミの側で笑っていたかったよ。

 だから、せめてキミは…。




「……ね…。アル……私の名前、言っ…て。…アルの声で」

 わがままなお願いをキミは聞いてくれた。


「私の分まで…頑張れる……?」

「ッ…ああ…」


 やっぱり、私にしかできないことは…。
 ずっと、祈っていることだ。
 キミだけのために。


 だから、これ、あげるね。

 私の一番のお守りなんだ。



 ――――これから先、ずっと続いていくアルの明るい未来…私も一緒にみたかったな。

 あ、病気、なんて言うなよ?
 そんなの、…私が向こうに持っていってあげるから。
 だから大丈夫。心配しないで。

 遠い遠い未来、きっとまた会おうね。そしたら、今度こそ側にいるんだ。

 そのときはきっと争いなんてない空がある筈。

 そしたら夢の話また聞かせて?
 私も楽しい話たくさん用意しておくから。


 何も特技がない私から、あなたへ。

 精一杯のありがとうと、キミの未来への、見えないチカラを。





長編26話に被ってますね。

これもくどいな〜…。

サエナはウィンリィがうらやましかったらしい(?)。
何かできたらいいなと思っていたんですねぇ。

サエナの両親は私の中では死んでいませんが、これは夢なので出てきたんですね。

「見えないチカラ」は想いかな。

2005.12.06



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