働く人たち


「ぶっちゃけ…」
「ええ」

 夜な夜な繰り広げられる……科学者たちの集会(?)。
 東洋式計算機を弾く音。

「「資金がない」」


「「はあああああぁぁぁ…」」

 二人で盛大にため息。
 アルフォンスとエドワードの前には紙。
 紙があること自体はいつものことなのでどうでもいいのだが、問題は内容。

「じゃあ、今月の出費です!」
 心なしか、ちょっと明るめに言う。
「アルフォンス…もうわかったから。つーか、そんなこと明るめに言うなよ。表情引きつってんぞ」
「気の持ちようですよ…。とりあえず読み上げますよ」
「だからいいって…」
 ぐだっ、とテーブルにアゴを載せて、つらつらと読み始めるアルフォンスを上目遣いで眺める。

「……――――以上です」

「内容自体は気が抜けるほど少ないんだな」
「『材料費』や『研究費』って言ってしまえばそれで一言ですからね」
 彼らが言っている『資金』とは『生活費』ではなく、『ロケット製作に使う費用』だ。
「…エドワードさん」
「あ?」
「サエナやグレイシアさんには言わないで下さいよ」
 少し、陰りがある目をそこではじめてみせる。
「わかってるよ、…言っても心配するヤツが増えるだけだしな」




「……………」



「じゃ、いってらっしゃい」
「ああ」
「帰りはいつもの時間だから」
「うん」
 ひらひらと手を振っていつものように見送る。
 いつものように朝が来て、いつものように二人は研究室に出かけて行った。

「さて!」
 意味なくコブシを作り、よし、と気合を入れる……のを見ていたグレイシアは…。

「昔から知ってるけど…ヘンなコねえ…」
 と、つぶやいたとか、つぶやかなかったとか。






 ――――時間は流れ、午後。
 その頃のエルリック、ハイデリヒ科学者組。
「ビアホール寄ってくか?」
「え?……ええ。まあいいですけど」
 エドワードがビアホールに寄るのは別に珍しいことではない。行きつけがあるので、店の者や客とも顔なじみだ。

「いらっしゃいませ〜」


「ああ、白ソーセージ、ある?」
「夕食に響かない程度にしてくださいよ」
「ああ。わかってるって」

「はい、今日のお勧めです♪これ、おまけね」

「ああ……って今日は妙にサービスいいな」
「ありがとう………――――ってっ!?」
「ぶっ…、んなっ…」
 そこで二人は初めて顔を上げた。
 知っている店だからこそ、店員のことなんて気にしない。


 ――――確かに声が似てるな…とは思ってたんだよね。
 ――――髪を横に結うなって、言ってるだろ!?

 以上、アルフォンス、エドワードの心の叫びでした。


「サエちゃん!こっち来て」
「あ〜はいはいっ!じゃ、ごゆっくり〜」

「ちょっと待てェ!!何が『ごゆっくり』だ!?」
「サエナっ、何してるの!?」

「アルバイト」
 にこっと笑い、呼ばれた客の方へぱたぱた走っていく。
 顔見知りばかりなので、ウケがいいと言えば…いいようだ。

 『アルバイト』というのはドイツ語なんだよ〜とか、そんなことはどうでもいい。


「「…………」」


「サエナ、…ホントに何してるんでしょう…」
「働いてるんだな」
「……何か、欲しいのかな」
「や〜、どうだろうな…」
 『おまけ』をとりあえず食べながら、働く姿をぼーっと眺める科学者組。

「…結構、失敗してるみたいですね」
「ああ…皿割ったりはしてないだろうな…」
「…………」
「楽しそうではあるけどな」
「ええ…」

 いつの間にかビアホールは座るところもないくらい混みはじめ、心地よくなってきた客が置いてあるギターやら何やらを使い、歌い始める。
「はーい!サエナ・ルドフィーガ踊りますっ!」
 周りからは「待ってました」(?)の声。


「アホかっ!!」
「流石にそこまではやらせないっ!」
 アルフォンスは「即席ステージ」からサエナを引き摺り下ろし、ずるずると自分たちのテーブルに戻す。
 周りからは「なんだ〜」の声が上がったが、踊り娘候補はまだいたらしく、直ぐにステージには活気が戻ったようだった。



 そしてここに尋問されるウェイトレス候補。
 活気溢れるビアホールの一角、何故かここだけ冷えている。
「…――――で?」
 腕を組み、顔を引きつらせるアルフォンス。
「あはは。アル、怒ってるんだ〜?」
「へらへらすんな、アホ」
 頭を小突くエドワード。

「……なんで、働いてるの?」
「お金が欲しいからッ」
 ぷいっ、と顔を向こうに向ける。
「………まあな、金が欲しいから働くんだよな」
「エドワードさんっ」
 『肯定するようなこと言わないで下さい』オーラを放つ。
「(怖ッ!)」
「…アルバイトのイミ、知ってるよね?これ、本業にする気?」
「……違うけど」
「サエナ、ぼくだって働くな、なんて言わないからさ…」
「だって、リラ、役に立たないんだもん…そんなに持ってきてないし…。お金、いるから…。エドの友達のウィンリィみたいな技術者じゃないから…何も出来ないし…」
「なんだよ、何が欲しかったんだ?」



「……欲しいもの」


「そうだよ、私の、………私、のぉ………」

 ふらふらふら――――。
 ずるっ。

 ごん。

「「(痛そう…)」」

 身体が斜めになってきたと思ったらそのままテーブルに突っ伏す。

「………サエ、ナ?」
「寝たな…」


「やれやれ、サエナちゃんには無理だったねぇ」
 腰に手を当て、笑いながら現れたのはこのビアホールのオーナー。
「あ、オーナー」
「サエナがお世話になってます」
「……お酒、苦手なんでしょう、このコ」
「…そう、ですね」
「こんなに匂いが充満してれば呑めないコはコレだけで酔うからね」
「だから、行動がちょっとおかしかったんだな」
「妙にへらへらしてましたからね…」




 すっかり日が暮れた町。

「どう思う?アルフォンス…」
 エドワードはコートをアルフォンスの背で揺られているサエナにかけた。
 あのまま寝てしまって…まだ起きていない。
「…昨日の、聞いてたんですね、きっと」
「だろうな」
 カバンの中には今日の『お給料』




『夢が欲しいんだってさ』
『夢?』
『……ああ、それだけ言って働かせてくれって来たんだよ』




「でもさ、こんなことされてちゃ、安心できないよな」
「そうですよ…。はあ…」





「はい、昨日の」
 やはり朝はいつものようにやってきて、いつものように科学者組は出かけていく。
 アルフォンスは出かける前、サエナに茶封筒を手渡した。
「………アル、これ」
 昨日の給料だ。
「サエナの、だよ」
 にこっと笑う。
「……」
「ちゃんと渡したからね」


「アル」
「ん?」
「使って、これ。少ないけど…図面用紙代くらいにはなるでしょ」
「………夢?」

「!……うん」


「でも、働くならグレイシアさんのところで働いてね」
「う。……はぁい」

 そんなこんなでサエナの『アルバイト』は一日で終わったという。






また酔ってます(汗)。
しかし、実際のビアホールはアルコール臭さはないので匂いだけでは酔いません。
…酒に弱い私が言うんだ、間違いないぞ。

資金繰りが大変そうだったので、「塵も積もれば山となる」と働こうと思ったらしい。
さて、「アルバイト」ですが、ドイツ語で日本とは違う解釈だそうで、日本のような言葉の扱いじゃないそうです。
だからアルが「コレを本業にするんじゃないでしょ」って言ってます。

計算機、1923年に日本でなんか出たらしいんですが(らしいって…)家が1件建つくらい高価だったそうなので…。
東洋式計算機…そろばん?ってことで(笑)。


これ、「お題」に沿ってたかなぁ…?

2005.11.24



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