交差する時間
「じゃあ、明日」 返ってくる声もないのにアルフォンスは微かに笑いかけて、灯りを落とした。 そう、『明日』 カーニバルの日だ。
「Carnevele」 さっきまで隣にいたのに、アルフォンスの数歩前を駆けて行って、くるりと回る。 「謝肉祭?」 「ちょっと違うかな」 「Pasqua?」 「それも、違うね」 「ふふ…」 「ん〜。サエナの思っているようなお祭りじゃないかもしれないね?」 「そうかぁ、…あ〜!でも楽しみ〜!早くならないかなぁ。…絶対ついてくからねっ!」 「ああ」 そんな風にはしゃぐ姿を微笑んで見守る。 「あまり騒がないの。……車通るから。危ないよ」 「はいはい〜」 「ホントに分かってるのかな…」 「……さっき、退屈だった?」 「そんなことないよ」 今、街を歩いている理由。カーニバルの説明などを聞くために外に出てきたのだ。 説明を受けている間、とりあえず『部外者』になるサエナは部屋の外で待っている羽目になっていた。 その帰り。 「いろいろ考えてたら楽しかったし」 「何、考えてた?」 「いろいろ、だよ」
――――アルフォンスの記憶の中で、いろいろな時間が交差する。 とある夜、 廊下の大きなソファ。 二人とか三人とかで掛けられる少し長めのものだ。 何故廊下にソファがあるのか?と疑問だったが、かと言って動かす理由もなく。 だから、意味なく掛けてそこでコーヒーを飲んでいたりした。 「私、絶対紅茶」 「イタリア人らしくないね」 「あー、偏見。イタリア人がみんなコーヒー好きってワケじゃないでしょ?アルだってビール苦手じゃない。………――――だって、苦いんだもん」 「あはは」 「…紅茶だって渋くねえか?」 壁にもたれて二つを飲み比べていたエドワードがぼそり、と言う。 「えー。苦いよりはいいでしょ?」 「「そう…?」」 どうでもいいような、日常。 でも、確かに、幸せだったあの時。
「アル!!ダメっ!」 ……ぼくの後ろにいた筈だ。 今、この目の前にいる…この栗色の髪はサエナじゃない…って信じたかった。 直ぐに気を失ったのが、まだ救いだったかな…。 サエナの苦しそうな声、聞かずにすんだから……。 「あ……あ、サ…エナ?」 抱き上げた身体は、いつもよりずっしりと重くて。 生ぬるい赤いものがぼくの手を、腕を濡らしていく。 何が『ダメ』だったんだろう。 何でぼくの前に出たの? 何で…。 「私、まだ死ぬ気なんてない…だって、未来、見なきゃ。ふふ。勝手に殺すなよー…」 「私の…分まで。…頑張れる?」 言葉は矛盾していた。 なんで、ぼくが…君の時間までもらえるんだ?…ぼくにはそんな資格なんてないのに。 「愛してる」と、イタリア語で言った言葉。 君の最期の言葉。 今となっては、『それ』が本当なのか、確かめる術もない、と…辛い方向に考えてしまう。
――――カーニバルの朝。 一日が始まる。 それは、アルフォンスにとっても、エドワードにとっても確かに大きな意味を持つ一日。 「行こうか?…おいで」 今は誰もいない部屋に話しかける。 「楽しみにしてたろ?」 「ぼくらの、夢、だ」 ――――じゃあ、それも私の夢。……頑張れよッ!アルフォンス・ハイデリヒ!
「エドワードさん。……少し、昔の夢、見たんです」 車の後部座席で揺られながらアルフォンスは口を開いた。 シャツの下の十字架を撫でるように、胸に手を置きながら。 「オレも、…ここに来る前の夢、見たかな」 「…何の、夢ですか?」 ――――たまには、昔の話、聞こうよ?エドだって……知らないところに来て寂しいだけなんだよ。 そう聞こえた気がして、アルフォンスは思わず先を促した。 「ん〜……ああ、弟とさ、旅してたんだ――――」 |
ここから、エドワードの錬金術世界トークが始まります!!! 話を振ったのはアルだったのか(何)。 さて。灰色文字の詩、長編最終話の時に、紅さんよりいただいた詩を使わせていただきました。 なんだか、この連作小説の為に書いてくれた、ということでかなりどきどきなんですが! 紅さん、ありがとうございました!! …んで、私の小説。 「パスクワ(復活祭)」は宗教色が強いので、アルは「違うね」って言ってるんですね。 「カルネヴァーレ(カーニバル)」はどうなんだろうか…?パレード…。コレなら近いか?うーん。 両方とも行ったことはないのでわからん。 8月15日(フェッラゴスト)の時は巡礼者が多くて「何!?」って思ったが。 …廊下に、ソファがあるのは映画も同じ。「なんで?」って思いました(笑)。あれ、廊下でしょ?? 今回、時間が言ったり来たりしていてわかりにくいですねェ。 まあ、真ん中部分はアルの回想の「夢」かなんかなんですね(なんかって)…。 そしてロケットの「夢」の開始。 2005.12.03 TOP |