突然の電話にご注意


 電話が鳴るのは突然…というのは何処でも当たり前。
 しかし、今日の電話は、その内容さえも突然…というか想定外の内容だった。


 ジリリリリリ……。

「あー!はいはい!ちょっと待って〜!!」
 相手に聞こえる筈もないのに電話の前で騒ぐのはきっと万国共通。


「はいっ」

『……あ、出た』
『おい、どうする?』

「……どうするって私に聞かれても…、どちら様です?」

『ああ、ハイデリヒのロケットの研究仲間です』

「あ、お世話になってます。…って、アル、どうかしたんですか?」
 用があるなら自分で電話して来る筈だ。だから、心配するような声になってしまう。
 電話口からは何人かの声が聞こえてくる。

『…どうするか?』
『エルリックの、ならまずいけど、ハイデリヒのならいいんじゃねえの?』
『いや、良いとか悪いとかそういう――――』

 ――――ごちゃごちゃごちゃ。

「……あ、あの…。アル、何かあったんですか?もしかして、…た、倒れたとかっ?」
 曖昧な電話口にますます心配になる。

『違う違う!元気は元気だけど、…今、そっちに帰したからさ。エルリックは…なんか違う研究室に遠征行ってて、一緒じゃないんだ。だから、君、夜遅いけど待っててやって?』

「…エド、遠征??……ええと、帰したって?」

『…まあ、とにかく、出迎えて介抱してやってほしいんだよ』



 …よく分からないまま電話は切れた。
「介抱?」
 具合が悪いわけではないが、とりあえず介抱らしい。

「まあ…あったかい飲み物でも用意して…」
 そういえば、今日は『仲間と食事して帰るから。でも、遅くなったら泊りかも』と言って出かけた。
 ふと時計を見ると日付が変わるような時間。
「こんな時間に帰ってくるの…?ワケわかんない…」



 ――――がちゃ。
 …………ずるずるずる。
「アル……おか――――……えり?…」
 カバンを引きずっている。
「ああ」

 特に無反応。そのままサエナの横を通り過ぎていく。

「ちょ、アルっ!?」
「…あ。うん……」
「どうしたの?……ええと、具合悪いの?」
「?…悪く、ないよ」
 悪くない割には目が妙だ。何処を見ているかわからない、ぼーっとした目。
 よくこの分からない状況でここまで帰ってこられたものだと思う。

「……と、とりあえず座って?今、コーヒー淹れるから」
「うん…」



 ――――なんなんだ、あの様子は。

 コーヒーを準備しながらそれしか考えられなかった。
 でも、何処かであんな症状を見たことがある…。
「うーん…なんだったかな…」
 考え込んでいたから気がつかなかった。


 ぎゅ。


「わっ!…??って、何」
「…サエナ…ぼくをおいて…何してるの?」
「何って、さっきコーヒー淹れるって言ったじゃない!」
「ぼくに?」
「はい、そうですよ〜」


 ――――なんなんだ、この状況はっ!

 コーヒーの豆缶を持った手が震える。
 背中の直ぐ後ろに感じるぬくもり。
 目線を落とせば。
「腕…」
 しっかりと腕が廻っている。
「アル…?ええと。あの……この、状況は…??」
「…………サエナぁ…」
「…――――はい。アル、質問。ちゃんと答えて」
「何?」
「イタリアとドイツの間にある国の名前は?」
「ルーマニア」

 ――――わかった!
 この妙な目。
 妙な行動…!

「アル、酔ってるんでしょう!?お酒、呑まされた!?」

 介抱してくれってそのことか!?と今更毒づく。確かお酒は苦手だった筈。
 だいたい、そうならそうと言ってくれれば迎えに行ったのに!とか、
 帰る途中に何かあったらどうしてくれるんだ!……とか。その他諸々、考えたが結局「今更」なわけで。

「酔ってないよ…?」
「そう言う人が一番危ないの!だいたいこんな簡単なクイズ間違えるわけないでしょう!?」
 ちなみに答えは『オーストリア』だ。
「酔って、ないって……」
 少しろれつが廻らないような、言葉。甘い声。
 こんなときでも言葉が乱れない彼は、そういう性格だからだろうか?…なんてどうでもいいことを考える。

 そうこうしているうちに…段々体重を掛けられて。

 ずる。

「お、重い…んですけど〜…」
 そのまま床に座り込んでしまうが、アルフォンスの腕は解かれない。
「ああ、もう。酔っ払いには容赦しないからねー!……アール。ほら、寝るんだったらベッドに寝なさい!風邪引くよ」
「いやだ…」
「…やだじゃないよ。アルが風邪引いたら私も大変なの」
「じゃあ…サエナも寝る?」
「…アンタは子供か!」
 酔っ払いのことなんて真に受けることもないのだが、それでも顔を真っ赤にして。言葉だけは強がる。
「ほら、サエナおねーさんが部屋まで同行してあげるから」
「お姉さんじゃないでしょう…?」
「いちいち口答えしないッ!」

 そうだ、確かにお姉さんじゃない。
 でも、こうでも言っておかないと…。
「(とりあえず平常心が保てないッ…)」



 ずるずるずる。

 半ば引きずるような感じで部屋までたどり着く。
「重いッ…年下のクセに許せない…」
 アルフォンスより重かったらそれはそれで困るが。
「……サエナ」
「なぁに?」
「寒い…」
「え?………外寒かった?」
 一瞬、ヒヤッとする。目に動揺の色が浮かぶ。
 顔色を伺っても……よく分からない。

「ご飯は食べてきたんでしょう?…じゃあ寝て。向こうから毛布持ってくるから」
 アルフォンスをベッドに座らせ、部屋から出ようとして――――。


「――――!?」

 景色が反転した。
「痛…って」
 手首はアルフォンスの手に封じられ。
 まるで組み敷かれ状態。
「ちょっ、アル!??ふざけてないの!!毛布なら持ってくるから!」
「…ふざけてないよ………」
 まっすぐな瞳。
 先程のよく分からない瞳じゃない。
「アル…?」
「サエ……ナ…」

 顔が近づいてきて………。
「ッ…」

 そのまま布団に着地。
「………」



「すう………」

 ――――熟睡。

「って〜…私を暖房代わりにするな〜!!」


「く〜……どうすればいいのでしょう…この状態」

 腕がまるっきり押さえられているから、抜け出せない。
「……あ〜もう…。バカ…」
 諦めて、そのまま寝ることにした。
 風邪引いてないならいいやと。

 というか、この状況も……悪くないかな、と。



 翌朝。

「!????」

 ずざざざざ――――!どん。
 背が壁に激突。
 おかしいくらいの反応をするアルフォンス。

 なんとなく「頭が痛いな〜」とか思うが、そんなことはふっ飛んでしまった。

「…………おはよ、アル」
「サ、サササ……エナっ!??なんで?」
 顔を真っ赤にして、状況を理解できないアルフォンス。しかも手を掴んでいたのは自分だ。
「……なんで、って言われても…アルが…引っ張ったんだけど」
「ええっ!??…あ、ご、ごめんっ…!!」
「………覚えてない?」
「…う、うん。いや…ちょっとだけ…覚えているかも…あれ…」
 段々、声が小さくなっていって、俯く。
「…ごめん」
「…………」

 額に手を当てる。

「風邪は引いてない、と」
「…まあ、あったかかったから」
「……………私は暖房じゃないからね」
 平静を装っているが、顔が赤くなるのは仕方ない。

「二日酔いは?」
「……今ので飛んだよ…」



 ――――気をつけよう、 突然の電話と ……酔っ払い。






ごめんなさい!!!!!(汗)

「ハイデリヒを壊してください」と言われた。
……壊れました?

なんか、酔うネタってのはなんかフツーすぎるんですけど。

突然の不審電話には気をつけましょう(笑)。私は電話が得意です。職業柄(笑)。

『爆弾発言』は「ルーマニア」(何処がだ)

挿絵

2005.11.15



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